テレビが信じられなくなったらそっとブックマーク

エンタメ化するトランプ政権とその行方

Xで投稿をシェア

トランプ政権の次期政権構想が次第に明らかになりつつある。選挙対策の責任者に長官ポストを割り振る論功行賞が行われると同時にFOXニュースの司会者たちを長官に起用するというエンタメ化が進行している。

ハリウッド流のエンタメに欠かせないのが悪役である。バイデン政権の意識高い系政策を貶めることで人々の溜飲を下げると同時に移民を劣悪な環境に閉じ込める懲罰も計画されている。

「政治はパンとサーカスだ」という言葉がある。政治が提供する「無償の何か」を意味しローマ政治の没落を想起する。まさにアメリカの政治はそんな状態になっている。民主党は「パン」をばらまこうとしたが共和党は「サーカス重視」だと言えるだろう。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

トランプ選対の2名の責任者がそれぞれ商務長官教育長官に決まった。この内のリンダ・マクマホン教育長官候補はプロレス団体WWEのCEOの経験者だがCNNには教育関係の経歴は記されていない。双方とも政治献金を集める功績が称えられたものと見てよいだろう。

アメリカの大統領選挙は「お金を集めたほうが有利」になっている。このためには面白いコンテンツを提供し続けなければならない。つまり、政治キャンペーンと考えるよりは「エンタメ」として考えたほうがわかりやすい。

日本の政治分析として「ポスト・トゥルース」というキーワードを使って分析した。「真面目な」政治議論が面白おかしい虚偽の情報に取って代わられるという現象である。ところがアメリカは更にその先を行っている。そもそも連邦レベルの政治が「エンタメ=コンテンツ」になっている。つまり政治が率先してSNS経由で劇場型の情報発信をしている。

当然ながらその楽屋裏はかなり病んでいる。

FOX司会者出身のヘグセス氏には政敵暴行疑惑が囁かれている。警察の報告書が公開された。ヘグセス氏が性的暴行を働いた可能性もあるが告発者の申告もどこかあやふやなものだった。結果的に事件化はされておらずヘグセス氏は疑惑を否認し続けている。ヘグセス氏は講演会が終わったあとに「行きずりのお楽しみ」を期待していたことだけは確かなようだ。まともな世界ではない。

ゲーツ司法長官候補にも買春報道が出ていたが、下院倫理委員会は「反トランプ」のレッテルを貼られることを恐れてかレポートの公表を拒んでいた。ABCニュースによるとトランプ陣営は「トランプ氏の意向に逆らうものは政治生命を終わらせてやる」と凄んでいたようだ。

しかしながらこれとは別に、トランプ氏には「共和党的良識回路」が組み込まれている。伝統的な共和党が持っている家族を大切にする価値観に反するメッセージはスージー・ワイルズ大統領首席補佐官によって排除される。結果的にゲーツ氏は司法長官人事から「自ら撤退」した。

圧倒的な民意を背景にして政治はトランプ氏に逆らえなくなっている。トランプ氏と最側近が最も気にしているのは「自分たちのアクションが支持者たちにどう見えるか」であり議員たちの意向でもなければ政策の中身でもない。

では人々が最も喜ぶエンターティンメントとは何だろうか。自分が羨んでいた相手が惨めに落ちていくところと、自分たちよりも「下にある何か」が苦しむ姿だ。

政府効率化省(DOGE)のイーロン・マスク氏とラマスワミ氏は「最高裁判決に基づいて提言を行う」と宣言した。これはいっけん「憲法秩序を守って提言を行う」という宣言に聞こえる。

しかし実際にはそうではない。バイデン氏の政策を潰そうとしている。

これらの判決は、バイデン政権が制定した学生ローン救済計画、ネット中立性、時間外労働手当などに関する多くの規則を裁判所が阻止したり、撤回させたりするきっかけとなった。

米政府効率化組織、連邦最高裁判決に基づいて改革提言(REUTERS)

別のエントリーで「日本では終身雇用と社会保障制度の破綻を政府が何とか隠そうとしている」と分析している。アメリカ合衆国の場合は「勝者総取り」が加速し中間層が没落しようとしている。これを動画すかが政治の中核的なテーマになっている。

民主党政権は基本的な構造は変えずに細かな政策で格差を修正しようとしてきた。構造を温存することは「偽善」なのだが、それでも何もしないよりはマシと言えるのかも知れない。

トランプ共和党は「これらは意識高い系の施しであり納税者のカネを奪う」とレッテル貼りしようとしている。つまり政府は何もしない人たちに「無料のパン」を配っていると考えてているわけだ。

では、共和党は無料のパンの代わりに何を有権者に与えようとしているのか。意識高い系が堕ちてゆくところを見せつけて中間層の溜飲を下げたい。

だがこれだけでは不十分である。

テキサス州は「トランプ次期政権に広大な土地を提供する」と約束した。非正規移民の収容施設に使ってくれという提案だ。こうした土地を見るとどうしても日系移民の収容施設を思い出す。

こうした収容施設は農地に使えるような恵まれた立地条件の場所には作られないだろう。日系移民の収容施設の環境は実に苛烈なもので、日系人たちはそれまで培ってきたものをすべて奪われたうえで収容施設に送り込まれている。

もちろん、テキサス州がどのような土地を提供するのかはまだよくわかっていない。ただ、1000万人にもなるという不法移民をすべて排除するよりも、こうした収容施設を作って見せしめ的に利用したほうが「手っ取り早く」国民の不満を押さえつけることができる。

これが共和党が準備したサーカスである。

今回のこのエントリーは様々な記事の寄せ集めにすぎない。だがトランプ政権は政治を見世物だと考えており、トランプ氏を支持した有権者たちも一連の見世物に喜んでカネを払い、なおかつ結果に満足するのではないかと仮定すると実に様々なことが理解できる。

おそらく「強者総取り」の構図は変わらないだろうが「意識高い系」に劣等感を感じながら毟り取られるのと誰かが堕ちてゆく姿につかの間の多幸感を得つつ毟り取られるならば「楽しい方を選ぶ人が多いのだろう」という気はする。

ただ、この現代アメリカ版の「パンとサーカス」がアメリカ人中流層の暮らしを向上させることはないだろう。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで