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トランプ氏の新しい暴言 「銃を突きつけられたらチェイニーの気持ちも変わるだろう」

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連日ABCでは大統領選挙のキャンペーンの様子を報道しているが、だんだん「今日のトランプ氏の暴言」と言っても良い内容になってきた。新しい暴言は「チェイニー氏を撃て」というものだ。

現在のアメリカ社会が抱える異常な状況がよく分かる。愛と暴力が奇妙に共存している。

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「トランプ氏の暴言」だが、ニュースを見ているときには一体何を言っているのかがよくわからなかった。理由は2つある。第一にそもそも「大統領候補が誰かを撃ち殺せとほのめかす」ことが想定を遥かに超えている。第二に「train (it) on her face」という表現がわからなかった。「顔を狙えるように訓練しろ」という意味ではなくtrain onで「突きつける」というイデオムになるようだ。

トランプ氏の発言を整理する。まずリズ・チェイニーは戦争タカ派(war hawk)であると言っている。次に「彼女をここに来て立たせろ」といい「銃を向けるべき」と主張した。そして「銃口を向けられれば彼女の気持ちは変わるだろう」と言っている。つまり公衆の面前で銃を使って恫喝し辱めてやれという意味合いになる。

先日ABCニュースを整理したときには「JDバンス氏に代表されるトランプ支持者たちは民主党を敵視している」と分析した。自分たちは安全なところにいて庶民にに戦争させているというわけだ。だが、チェイニー氏はいわゆる「ネオコン」と呼ばれる共和党の政治家だ。

そう考えると「トランプ派の人たちが誰に対してどんな敵意を抱いているのか」がよくわからなくなってしまう。民主党のエスタブリッシュメントも共和党のエスタブリッシュメントも一緒くたになっているからだ。

だが、この認識こそが認識がこれから訪れるであろう混乱を読み解く鍵になる。愛と暴力が混在している。

これを例えて言えば

  • 家を清潔に美しく保つことと害虫駆除は一般的に矛盾しない

と説明できる。ただしその「害虫」は隣りにいる人を意味するかも知れないという異常さがある。

トランプ氏は選挙を障害だと考えており負けた場合に備えて妨害の準備を進めている。SNSで飛び交う虚偽の暴言を拡散し「選挙は盗まれた」と主張している。ことが起きてから主張しても遅いとの判断で「事前に仕込んでおけば安心だ」と学んだのだそうだ。

トランプ氏の虚偽の主張について、民主主義擁護団体「プロテクト・デモクラシー」のストラテジスト、カイル・ミラー氏は「選挙結果を覆そうとする企ての種をまくことになる。われわれは20年にそれを目の当たりにした」と指摘。「トランプ氏とその支持者らは、早めにこうした種をまく必要があると学んだようだ」と述べた。

アングル:米大統領選で4年前の悪夢再来も、トランプ氏の結果覆す企てに懸念(REUTERS)

ところがトランプ氏が大統領になると別の懸念が出てくる。それがよく分かる箇所がBBCの記事にある。

トランプ候補は保守派司会者タッカー・カールソン氏とのトークで、ハリス候補を積極的に支持しているチェイニー前議員について聞かれ、「彼女は本当に頭が悪い」と中傷。自分が大統領当時、米軍をシリアやイラクから撤収させたことに「過激なタカ派戦争屋」のチェイニー氏が怒ったのだとして、「彼女に任せていたら(アメリカは)50ものいろいろな国にいたはずだ」と批判した。

【米大統領選2024】トランプ候補、チェイニー前議員が「銃を向けられたら本人はどう思うか」と 以前から対立(BBC)

要するに好き放題にやりたいようにやらせてもらえないと、誰彼なしに「あいつは敵だ」と認定してしまうのだ。前回トランプ氏が大統領になったときにはどのように政権運営をしていいかわからず共和党の人たちに頼らざるを得なかった。

この人たちは「何かと自分たちを妨害したがる」人たちであって選挙と同じように排除すべき障壁なのである。その意味ではハリス氏も「自分が好き放題やるためには大統領になる必要がありそのために邪魔な人物」に過ぎない。

トランプ氏は「自分は平和を愛する美しい人物」であるから戦争屋のチェイニー氏と対立したという自己認識を持っている。差別的な発言が飛び交った選挙キャンペーンでさえ「Love Fest」という認識だ。

ところがその背景には「こっち側とあっち側」という強い他者排除の意識があり、あっち側にいるやつはどんな目にあっても構わないと考えている。極めて歪んだ自己愛が強い人物だ。

だがアメリカにはこうした歪んだ自己愛を持った人たちが大勢いる。現在盛んに「今のアメリカでは」という報道が行われているが、取材をしたキャスターたちは口々に「会ってみたらみんないい人たちだったが……」と言っている。

繰り返しになるが「家をきれいに保つこと」と「害虫駆除」は矛盾しない。だから彼らは自分たちが歪んだ自己愛を持っているとは思わないだろう。だが彼らが害虫扱いしているのは同じ人間であるという認識はすでになくなっている。障害は対象化されている。

トランプ氏の暴言に刺激されて実際に脅迫電話をかけるような人たちも出てきている。議会襲撃では実際に死者も出ている。だがそれはトランプ支持者たちにとっては「あっち側のどうでもいい出来事」であって自分たちの「愛に溢れた美しい空間」には関係がないことだ。

仮にトランプ氏が大統領になった場合、アメリカに安全保障を依存するアメリカはこの新しい状況と向き合うことになるだろう。

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