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トランプ氏はファシストの定義に当てはまる

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大統領選挙まであと二週間を切った。

トランプ氏の側近だったジョン・ケリー退役大将が「トランプ氏はファシストの定義に当てはまる」と発言し話題になっている。ABCニュースは共和党のトランプ大統領側近たちの警告を大きく報道し、穏健な共和党支持者たちをハリス陣営に呼び込もうとしている。

にも関わらずアメリカ大統領選挙は接戦で中にはトランプ氏が優位だとするものもでてきた。世論調査の結果を見るとアメリカ人はむしろ「独裁者」を求めているように思える。一体何がどうなっているのか。

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ジョン・ケリー退役大将はトランプ氏の首席補佐官を勤めた経験がありトランプ氏の発言をよく知る人物だ。大手新聞に語ったところによると、トランプ氏はヒトラーにも良いところはあったと発言したとされる。過去には習近平・プーチン氏といった「専制主義的な人物」に共鳴するような発言事例も事欠かない。おそらくトランプ氏が独裁者に憧れを抱いていることは間違いがない。

ジョン・ケリー氏のいう「ファシスト」はもともと全体主義者という意味だがおそらくは漠然と「独裁者・専制主義者」を表しているのだろう。アメリカ人は日本で実現しているような階保険制度も「共産主義・全体主義」などと表現することがある。つまり「民主主義」以外のラベルの使い方はかなり大雑把だ。

さらにトランプ氏は「移民は汚れた遺伝子を持ち込む」とか「本当の敵はアメリカにいる」などとヒトラーと同じ様な発言を好む傾向にある。トランプ氏はかなり「我が闘争」に影響を受けているものと見られるが「そんな本は読んだこともない」と発言している。仮に彼が何も読まずにヒトラーと同じ境地に達したのならばそれこそ生まれながらに危険な人物だと言うことになってしまう。

ABCニュースは今回の発言を紹介したあとに「これまでも共和党に属する側近たちがトランプ氏から離反している」と付け加えた。

背景にあるのがハリス氏の伸び悩みである。ハリス氏は特に接戦州で伸び悩んでいる。接戦を示唆する世論調査も多く中にはトランプ氏優勢を伝えるものも出てきた。このためハリス氏は共和党の支持者への働きかけを強めている。これはCNNの対話集会でも顕著だった。

BBCは今回のケリー氏の発言をまとめたうえで「ほとんどの有権者は前大統領に対する姿勢をしっかり固めている」ため大統領選挙への影響は限定的であろうと見ている。

背景には何があるのだろうか。

まず有権者は2019年前と2020年以降という異なる2つの事象を比べている。2019年の終わりから2020年の頭にコロナ禍が起き経済活動が大幅に停滞した。このコロナ禍からの回復が見えた2022年の初頭にロシアのウクライナ侵攻が起きている。さらにこの頃から大幅な財政拡大の副作用によるインフレがアメリカ経済を襲った。

日本の民主党政権でもリーマン・ショックの回復過程のあとに東日本大震災が起きている。その後で安倍総理が「悪夢の民主党政権」と言った時代で確かにしんどい時代ではあった。本来ならば政策とイベントは分けて考える必要があるが有権者はそこまで厳密に状況を区分しない。

だがおそらく原因はそれだけではないだろう。

アメリカ国民の多くは「政治は自分たちのためになっていない」と考えそれを打倒してくれるような守護者を求めている。

ローマ共和国では民衆を保護する役割を「護民官」と呼んでいた。貴族のアウグストゥスは平民の代表である護民官にはなれなかったが「執政官を返上する」ことを条件に期間限定の護民官職権を得る。つまりアウグストゥスは当時のエスタブリッシュメントだった貴族たちに対抗する存在と自分を位置づけローマは共和国から帝国に変貌してゆく。貴族と平民のバランスが崩れかけていたのかもしれない。

ヒトラーの場合はどうか。もともとプロイセンの国王だった人が諸邦をまとめる。だがプロイセン王は他の王を法的に支配できないため皇帝という存在が作られドイツ帝国が誕生した。ところが宰相ビスマルクを解任したドイツ皇帝(ヴィルヘルム2世)は第一次世界大戦に負けてしまう。革命のあとのドイツは戦争の英雄だったヒンデンブルクを大統領に選出するが議会はバラバラのままだった。ドイツはプロイセン王(ドイツ皇帝)のもとにかろうじてまとまっているにすぎず大統領が議会をまとめることはできなかった。そこに現れたのがヒトラーである。ヒトラーは銃で脅して独裁者になったわけではなく民衆によって選ばれた独裁者だった。

このように欧米の歴史を見ると民衆がよろこんで民主主義を手放すのは特に珍しいことではない。背景にあるのは自分たちを保護してくれる強いリーダーに対するあこがれである。特定のバランスが崩れ今までの民主主義が成り立たなくなったとき民衆はそれに代わる「確かな権力構造」を求めるのだ。

アメリカのメディアは民主主義の存続こそがアメリカの繁栄を約束していると主張する。だが、世論調査の結果を見る限りアメリカ人の中には「そもそもマスコミが信じられない」という人たちが大勢いる。

だから側近やマスコミが「トランプ氏の存在は民主主義を脅かす」と宣伝してもそれが響かないのである。もちろんハリス氏が大統領になる可能性も高い。だがトランプ氏が選ばれた場合のアメリカは典型的な民主主義の崩壊を経験する可能性がある。トランプ氏本人の問題と言うより「ファシスト懸念」がありつつもなぜトランプ氏の票が伸びたのかのほうが重要なのだ。つまりトランプ氏がいなくなってもその後継者(特に庶民の味方であることを強調する人)のほうが危険ということになる。

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