アメリカ合衆国の大統領選挙が11月頭に行われる。残り一ヶ月を切り選挙戦がヒートアップしてきた。トランプ氏は災害を利用し「FEMAの予算が移民に盗まれている」と主張。さらに反ユダヤ的な人は排除すると宣言し移民は悪い血をアメリカにもたらすといっている。災害の政治利用は日本人には受け入れがたいが、あれほどポリティカル・コレクトネスが蔓延してきたアメリカで優生思想的な発言が熱狂的に受け入れられているのかとも感じた。
先日のABCニュースはトランプ氏のFEMAに関する発言が取り上げていた。FEMAの予算が足りないのは民主党政権が移民たちに金を配っているからだという主張だ。
ハリケーン・ヘリーンの死者は230名に達した。日本ではあまり伝えられていないが「先進国アメリカ」が台風災害にこれほどまでに脆弱だと理解している人はあまり多くないのではないかと思う。進路が悪くフロリダからジョージアと両カロライナに進行したことで被害が大きくなったのだろう。大量の復旧予算が支出されることになるが「それでも足りない」と感じる人は出てくるはずだ。
さらに新しいハリケーン・ミルトンがフロリダ半島に接近している。カテゴリー5に発達しやや勢いを落としながら半島を直撃する見込みになっている。人々は災害復旧活動や行方不明者の捜索活動を中断して避難を余儀なくされている。ABCは当局が「避難を懇願」と伝えている。最大級の警戒が呼びかけられていると言うことになる。
人々が動揺するなかSNSでは多くの流言飛語が飛び交っており、それをトランプ氏やイーロン・マスク氏が拡散するという構図になっている。マスク氏は今やXのオーナーであり「アルゴリズムはどうなっているのだろう」とも感じる。SNSはメディアの防波堤の役割を果たしていないかも知れない。
ABCニュースはこれらの主張は虚偽であると強調していた。BBCもファクトチェックを行っていて「相当の虚偽が含まれている」としている。だがメディアが信頼されていないアメリカ合衆国ではこうしたファクトチェックを受け入れない人達がいる。メディアはエスタブリッシュメントに支配されており国民を騙そうとしていると考える人達がいるのだ。
ただトランプ氏の発言はそれにとどまらなかった。
大統領選挙を目前にして「民主・共和どっちがイスラエルを支援しているのか」競争が行われている。トランプ氏はそこでトランプ政権になれば「反ユダヤ的な人を排除する」と宣言したようだ。もともと、ユダヤ人は優生思想の元「アーリア的でないから排除されるべき」として民族浄化の対象となった。そのユダヤ人を支援するために「反ユダヤを排除する」と言ってしまうところにトランプ氏の錯誤ぶりがある。
また「移民はアメリカの血を穢す」という趣旨の発言も見られたそうだ。これも優生思想的な発想だ。アメリカはもともとポリティカル・コレクトネスが強い国でありこうした発言は長い間文化的タブーとされてきた。しかし現在のアメリカではこうした発言が大っぴらに飛び交っている。
Quoraでは「災害の政治利用はアメリカでもタブーだったがトランプ氏は気にしない」という声が寄せられる一方でWOKE(意識高い系)似つかれている人が多いという声も聞かれる。これまで教養がある人がポリティカル・コレクトネスを振りかざしてきたという側面は確かに否定できない。日本的な言葉に置き換えると「インテリ」への反発が何でもありの言論空間を作った。
日々、こうした発言を聞いていると合理的な判断力は次第に失われて行き「しんどい」「逃げ出したい」という感覚になる。また発言が過激化すると「このままトランプ氏が大統領になればとんでもないことが起きる」と考えて発言を過激化する人も出てくるだろう。虚実乱れ飛ぶ、情報波状飽和攻撃状態で「何が嘘なのか」を判断することができなくなり次第にその状況に慣れてしまうのだ。
普通の日本人はこうしたアメリカの状況を知らない。英語が苦手な日本人は日本語翻訳された割と穏健なニュースだけを見ている。畑から取れた泥だらけの野菜ではなくきれいに洗浄さて大きさが揃った野菜しか見ていないのと同じだ。
だが特に国際ニュースを扱っているメディアの人たちは「一旦メディアの信頼が失われるとどうなるか」がよくわかっている。日本でも同じようなことが起こりかねないと危惧する人は少なくないのではないかと感じる。