トランプ候補が大統領になるかはわからないのだが、彼の主張はアメリカに一つのムーブメントを作りだした様である。それがAlt-Rightだ。Alt-Rightについては日本語でもいくつかの文献が出ている。ニューズウィークのものと、個人が書いたブログ記事がある。
Wikipediaによると、Alt-Rightはネット発の新右翼運動だ。ネット発なので提唱した思想家はおらず、定まった教義もない。白人至上主義的な主張や女性蔑視を含んでいる。オバマ大統領(黒人)やヒラリー・クリントン(女性)を敵視しているわけだ。アメリカは日本以上に建前が重視される社会で、公共の場での差別的な言動は許されない。差別的な言動は地下化されており、これがネットで連帯を集めたようだ。中心的な役割を果たしたのは4chanという掲示板だそうである。オタクカルチャーなどのボードもある2ちゃんねるに似た掲示板だ。
日本のリア充の人たちは実名のFacebookを利用する様になった。逆にアメリカの非リア充の人たちは日本の2ちゃんねるを輸入したのだろう。つまり、日本は2ちゃんねる文化をアメリカに輸出したことになる。非実名で相手を叩く文化だ。
日本のネトウヨの人たちはかなり高齢化していると言われるのだが、アメリカのAlt RIghtの担い手たちも同じ様に30歳代から40歳代のようだ。
旧来の共産主義運動は、資本家に搾取された労働者たちや教養のない貧しい農民が、暴力を含む革命を夢見るという図式だった。故に社会変革を目指す層は無知で教養がないと考えられることが多い。だが、この運動の担い手はネットを使えることから教養がないというわけでもなさそうだし、社会的な弱者ということもないのだろう。
また、社会変革の方向も逆になっている。現在の民主主義が無秩序に見えるのだろう。強いリーダーシップと確実な社会制度を志向する。その行き着く先は封建主義だが、Alt-Rightの場合は血統により封建主義ではなく、ビジネスで成功した人に全てを委ねたいというような一風変わった主張になっているようだ。
ではなぜ日本とアメリカで似た様な動きが起きているのだろうか。日本でネトウヨが顕在化したのは、民主党政権下でのことだった。それまでは老人の慰みものとして、敗戦を否定するような雑誌が細々と売られているだけだったが、ヘイトスピーチ運動が広がり、ニコニコ動画や2ちゃんねるで拡散した。民主党政権で自分たちの分け前が減らされると感じた中流層が呼応したのだろう。
同じ様にアメリカでもオバマ大統領の過剰な理想主義が結果的に右翼運動を過激化させているようだ。オバマ大統領は世界から核兵器をなくし、公正な貿易圏を作り、貧しい人でも健康保険と学校給食が手にいれられる社会を作ろうとした。しかし、実際には何も実現できず、国内では黒人に対する敵意が蔓延することになった。破壊されたのは民主党ではなく、穏健な保守主義だった。ティーパーティー運動からおかしくなり始め、トランプ候補で完全に破壊された。
富の再分配機能がうまくはたらかなくなり、中間層が先細っていることが両国の運動を勢いづけているのだろう。それを是正するために政治家が動く。すると自分たちへの分け前が減るだろうと考えた大衆が、運動を非難し、弱者の側を攻撃するという現象が見られる。それがますます富の再分配機能を弱体化させる。
いずれにしても、日本はまた新しい文化を世界に輸出したのではないかと思う。しかし、もしトランプが大統領になれば日米同盟の<適正化>という巨大なブーメランになって飛んでくるだろう。