文在寅前大統領の娘に検察の強制捜査が入った。捜査令状に文在寅前大統領の名前が入っており、韓国のニュースは騒然としているようだ。元娘婿の就職斡旋が直接的な容疑だが「それだけで収賄になるのか」という気がする。大統領に権限が集中する韓国では大統領経験者が軒並み収賄で逮捕されており構造的な問題もありそうだ。
時事通信が「文前大統領が「収賄容疑者」 娘宅の捜索令状に明記―韓国報道」という記事を出している。捜査令状に前大統領の名前が入っていること、元娘婿の就職斡旋が問題だったこと、曺国(チョ・グク)氏にも捜査が及んでいるなどと書かれている。時事通信は聯合ニュースなどと引用しているが実際には朝鮮日報のほうが詳しかった。
朝鮮日報によると問題はむしろ李相稷(イ・サンジク)元議員にあるようだ。時事通信は元議員としか書かれていない。文在寅大統領は元議員の李相稷氏を中小ベンチャー企業振興財団の理事長に推したが大統領府(青瓦台)から不適切判定が出た。しかしそれでも理事長に就任している。
朝鮮日報によると、検察は元娘婿の雇用は実質的な理事長就任の見返りだったとしている。さらに朝鮮日報は文在寅夫妻は娘夫妻の生活費の面倒を見ていたが娘婿(当時)の就職をきっかけに支援が打ち切られたとも書いている。李相稷氏は「タイ・イースタージェット航空」というLCCの創業者。
独裁政権が長かった韓国は1988年前後の民主化を背景にして権力構造と対峙する姿勢を明確に打ち出している。日本と違って検察は強い権限を背景に大統領経験者を厳しく追求する。また北朝鮮と対峙する厳しい国情もあり大統領には強い権限がある。さらに縁故主義の伝統が強く「家長が家族の面倒を見るべき」という習慣もある。
このことから、今回の事件は「韓国だとこういうこともないとはいえないのかな」という気がする。
韓国では4月に議会選挙が行なわれた。家賃高騰やインフレで国民生活が圧迫されている。尹錫悦大統領が長ネギの値段について評論したところ実はそれがバーゲン品の値段だったことがわかり「大統領はネギの値段もしらないのか」と騒ぎになった。また尹錫悦氏の妻にもハンドバッグ疑惑がある。国民の不満は大統領と与党「国民の力」に向かい議会選挙では大敗している。
また野党「共に民主党」の大統領候補でもあった李在明氏にも市長・道知事時代に土地開発を巡る汚職に関わっていたのではないかと言う疑惑が持たれている。李氏は「共に民主党」の党首に再選されたが、いくつもの裁判を抱えており司法リスクが囁かれている。
与野党ともに汚職やスキャンダルにまみれていることから日本のように政治的無関心と冷笑的な姿勢に傾いても良さそうだが、韓国人の政治への関心は高い。
かつて独裁を経験し「やっと勝ち取った民主主義」という気持ちもあるのだろうし、政治状況によって北朝鮮との関係が緊迫すれば国民生活に直接影響があるという事情もある。しかしながら、やはり右を見ても左を見ても疑惑だらけと言う状況はずいぶんとしんどいことだろうなとも感じる。