タイトルは「自主的賃上げ」と書いたが要するに手当の不正受給のことを指している。「これは皮肉である」とあらかじめお断りしておく。
しかしながらその原因はおそらく政治の側にある。自衛隊では待遇の不満から実に様々な不正が横行していた事がわかっているが、ついに海上保安庁でも不正受給問題が明らかになったそうだ。5つの船で手当の不正受給が見つかり全国の400以上の船の調査を始める。
問題の根幹は強すぎる官邸主導にある。安倍政権下で官僚の士気は徐々に蝕まれている。問題を特定しても解決までには長い時間がかかるだろう。
海上保安庁の不正受給だが23人が合計で1万3000円の不正受給をしていたそうだ。現場の人達がこんな細くみみっちい不正を働かなくても済むような処遇改善が進むことを願わずにいられない。
いつのころからか政治家は国家のために働く声なき人達に関心を寄せなくなった。まるで召使のように使い倒すが待遇には心を寄せない。だが彼らもロボットではない。徐々に心は壊れてやる気がなくなってゆく。たかが1万3000円ではないかと思う人もいるだろうがやはり国を守りたいという使命感が失われているんだろうなあと考えると悲しい気分になる。
霞が関の官僚は使い倒されるようになり、今や東大の卒業生は官僚を目指さななっていると聞く。就職を考えたときにOB訪問し現状を知ってしまうのだろう。
自衛隊でも実に様々な問題が起きている。政府はアメリカから情報を分けてもらえなくなると心配しているようだが実際にはおそらくもっと深刻な問題が起きている。
待遇が改善されず現場自衛官が採用できない。少子高齢化による売り手市場化により自衛隊は人材獲得競争に負けつつある。
だが、待遇の不満は何も新卒リクルートにだけで終わっているわけではなさそうだ。
特定秘密漏洩の問題の背景に「政府言いなりの運用では現場が回らない」という不満が垣間見える。また政治対応を行う防衛官僚の間でもパワハラが横行している。政治に振りまわされ「なんのために働いているのかわからない」という人たちが増えているのかもしれない。
防衛省は海上幕僚長を交代させ「きっちり仕事をするように」と命じるばかりで処遇改善や士気向上にはさほど関心を持っていないようだ。おそらく防衛省に任せていても問題は解決しないだろう。
この問題については7月中にも閉会中審査が行われることになった。ここで処遇改善について話し合ってもらえれば言いのだが、どうも期待が持てない。野党筆頭の立憲民主党はおそらくこの問題を政局利用しようとするだろう。蓮舫ショックから立ち直れない立憲民主党は無党派層の気持ちを掴みかねている。彼らも自分たちの将来に対する焦りがあり「次の課題」を探している。安住淳国対委員長は要するに「岸田総理のせいだ」と言っている。
会談後、立民の安住淳国対委員長は記者団に「長年培ってきた国民の信頼を失う可能性が高い深刻な事態だ」と指摘。「岸田文雄首相の責任だ」と強調した。両党の参院国対委員長も19日、衆院に続いて閉会中審査を行うことを申し合わせた。
防衛省不祥事、月内にも閉会中審査 自民、立民が合意(時事通信)
政治が自分たちの処遇に関心を寄せないのだから当然現場は「だったら自分たちで自主賃上げをやるしかない」と考えるようになる。
自民党は「政治とカネ」の問題を解決するつもりがない。トップがやりたいようにやっているのに自分たちがやっていけないはずはないと考えても誰も自衛隊や海上保安庁の職員を攻めることはできないだろう。
政府が腐敗し警察が賄賂を要求し始めたというような話は発展途上国ではよく聞く。だが同じようなことが日本で起こり始めている。「堕ちるときはあっという間」という気がするが今回の件を見ていても意外だという印象は全く持たない。
むしろ「やっぱりこういうことになるだろうなあ」という印象だ。
今回の堕落の原因は安倍総理時代に始まった内閣人事局による「強すぎる官邸主導人事」だろう。官僚たちはやる気を失い「官邸がすべて責任をとてくれるはず」と考えるようになる。そこに新型コロナ禍が襲うと政府の指示は場当たり的なものになり地方自治体も含めてわかりやすく疲弊していった。それでも安倍政権時代には菅官房長官がかろうじて機能しており官邸主導人事は成立していた。つまり睨みは効いていた。だが岸田総理時代になるとこの官房長官が機能しなくなった。もう岸田政権初代の官房長官が誰か覚えている人もいないかもしれない。安倍総理との連絡役を期待された松野博一氏だった。政治とカネの問題で一時どこにいるかわからなくなった人だった。
岸田官邸はおそらく周囲とは浮いてしまっており外部からの情報が入らなくなっている。これが緩やかに政府機能の崩壊に結びついているのだろう。とはいえ、野党にも自民党に代わって政権を運営しようという意欲はなくただただ政局的な動きを強めている。
結果的に政府機関はそれぞれ好き勝手な方向に動き始めている。
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