イスラエルのニュースによく「超正統派・極右・宗教シオニスト」という用語がでてくる。一緒くたにされがちだが実はそうではないようだ。普段箱のブログでは「極右・超正統派」と書いている。だが、あまり細かいことは調べていなかった。
このエントリーでは超正統派・極右・宗教シオニスト・ハシド派(ハシディズム)などについて調べたものをまとめている。
きっかけはQuoraでの質問だ。気軽に聞かれたのだが調べずにいい加減なことも書けない。だがきちんとしたことがわかっているわけでもないので「そろそろきちんと調べるか」と思いいくつか記事を読んでみることにした。
例えば読売新聞の「イスラエル、停戦に極右政党が壁…「合意なら政権離脱」脅し」を読むと極右・超正統派はひとかたまりで表現されている。このため極右は超正統派を含むと思いたくなる。ところがそうではない。追い込まれたネタニヤフ政権が極右と超正統派と組んだために一緒くたに扱われることになった。
読売新聞によるとネタニヤフ政権はリクード32名・極右14名・超正統派18名の連合政権だ。クネセトの議席数は120で政権は64議席になる。故に極右か超正統派が抜けるとネタニヤフ政権は過半数を割り込み崩壊するということを意味している。
次にこの資料を読んだ。そして、足りないところを更に調べつつ調査を進めた。
イスラエルに帰還してユダヤ人の国を作ろうとする運動をシオニズムという。シオンはエルサレム旧市街地にある丘の名前である。エルサレムを中心にしたイスラエルに戻りメシアを待とうという運動だ。キリスト教はすでにメシアが来たと考えるがユダヤ教徒はメシアの到来を待ち続けている。
宗教シオニスズムはイスラエルを純粋にユダヤ人の土地にすることでメシアの到来が早まると考える考え方なのだそうだ。だからパレスチナ・アラブ人を排除することで神の国に近づくと考える。
ユダヤの力の党首イタマール・ベングビール氏は極端なユダヤ人中心主義を信奉し軍から兵役を拒否された経験を持つ。戦争に行った経験がないため戦争に前のめりな発信が多い。スモトリッチ氏の父親は超正統派だそうだが自身は極右に分類される。こちらも過激な発言で知られている。どうやら宗教シオニスズムはユダヤ人中心主義が行き過ぎた非ユダヤ人排除の受け皿になっているようである。
極右は国境管理(西岸管理)・内務警察・財務大臣の地位を手に入れた。西岸をイスラエルに統合し国内の非ユダヤ人や世俗的ユダヤ人(血統的にはユダヤ人だがユダヤ教はそれほど信じていない)の統合なども担当しているようだ。
彼らの行動が問題にならないのは10月7日にハマスが攻撃を仕掛けてきたからだ。つまりもっと大きな問題が出てきたことで超正統派が行おうとしてきたことが曖昧にされてしまったのである。
一方の超正統派は労働をせずユダヤ教の研究を追求するという人たちだ。もともと少数派だったが避妊をせず聖書の教えに従って子孫を増やしてゆく傾向があるため人口が増えている。現在の人口は10%を超えたところだが将来はもっと増えると言われている。
超正統派は力づくでパレスチナをユダヤ人のものにしようとは考えていない。むしろ善行を行うことによりメシアを待つという教義を持つという。これをハシド派(ハシディズム)というそうだ。
つまり両者のパレスチナに関する姿勢は異なっている。過激な言動を繰り返す極右と道徳的な超正統派といった印象を持つ。
ただ超正統派が穏健というわけでもない。超正統派はポピュリズム政党であるシャス(党首:アリエ・デリ氏)と穏健派の政策連合であるユダヤ・トーラ連合に分かれている。このポピュリズム政党に問題がある。どうもお金と権力が大好きなようなのだ。
シャス党首のアリエ・デリ氏は贈収賄・詐欺・背任の罪を認めており(短期間収監もされている)、その後に土地税の脱税の疑いで司法取引を行っている。最高裁判所は内務大臣・保健大臣への就任をブロックした。だがアリエ・デリ氏は戦時内閣に加わり、戦時内閣がなくなったあとの「より小規模な協議の場」に加わる。権力志向もかなり強いようだ。
お金への執着は「善行」をモットーとする超正統派にはふさわしくない。極右(宗教シオニズム)はパレスチナ人排除のための権限を求めているが超正統派は日本で言う厚生労働大臣のような福祉系の利権を求めている。これを善行と考えると「超正統派ななんと欲のない」と思うのだが党首のアリエ・デリ氏の過去の「お金に対するこだわり」を見るとおそらく善行の裏には様々な思惑があるのだろうなあと感じる。もう一方の超正統派は住宅建設利権を手に入れた。
超正統派はこれまで兵役を免除されていた。超正統派は兵役免除特権の剥奪に反対しておりデモを繰り広げている。
では実際に彼らはどんな利権を求めているのか。中東調査会が2022年12月29日以降の勢力図を整理している。
右派リクードはこれまでの利権を確保している。極右は財務と領域(イスラエルと西岸)のユダヤ化に必要な権限を掌握した。そして超正統派は日本でいえば厚生労働省に当たる福祉系の官庁と旧建設省を掌握している。日本でいれば自民党が公明党に国土交通省と厚生労働省を明け渡したのと同じことだ。
右派
リクード
首相、副首相、法務大臣、社会平等・年金相、ディアスポラ相、パブリック・ディプロマシー相、農業・地方開発相、通信相、文化・スポーツ相、国防相、経済・産業相、教育相、地域協力相、エネルギー相、環境保護相、外相、諜報相、科学技術相、運輸・道路安全相
極右
ユダヤの力(イタマール・ベングビール)
辺境・ネゲヴ・ガリラヤ開発相、エルサレム問題・遺跡担当相、国家安全保障相(警察と国境性警察を担当し実質的に西岸統治に参加する)
宗教シオニズム(スモトリッチ)
財務相兼国防省内大臣、移民・吸収相、国民ミッション相
ノアム党
首相府付き副大臣(ユダヤ民族アイデンティティ部局所管)
超正統派
シャス(アリエ・デリ)
保健相兼内相、労働・社会問題・社会サービス相、宗教サービス相
ユダヤ・トーラ連合
建設・住宅相、無任所相
その他
戦略問題相(ロン・デルメル元駐米大使・元ネタニヤフ首相補佐官)
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