聞くところによると東京都知事選挙が大変なことになっているそうだ。主要な街角の選挙ポスターが無意味なポスターで埋め尽くされている。彼らの目的は選挙と政治議論の無意味化・無効化である。
この源流は安倍政権で横行したご飯論法だろう。安倍政権のご飯論法が人々を不安にさせたのと同じように東京の人たちを不安に陥れている。東京都には1000件以上の苦情が殺到しているという。
これは川の流れに例えるとわかりやすい今の日本は澱んだ川か出口のない溜池のようなものだ。つまり、問題はおそらく金余りだろう。お金には流路はなくその川底にはさまざまな物が堆積し独特の臭いを放っている。川に流れを作るのは政治の大きな役割だが現在の政治はそれを放棄しており都市の人々は腐臭に悩まされている。
東京都の「不適切なポスター」はまず(ほぼ)全裸女性のポスターで話題になった。タレントは実名で謝罪しておりスポーツ紙などで取り上げられていた。宣伝効果は抜群だったといえるだろう。ただし今までもこうした売名目的の候補者は大勢いた。名前が売れればYouTubeなどで活動ができるという点は新しいがむしろこれは従来通りと言って良い。
選挙期間中なので名前を出すことは控えるが、某政治団体のイノベーションは無意味の組織化だろう。24人の候補者を出したそうだがちょうどきれいに掲示板を取り囲める。つまり「計画的用地買収」だったことがわかる。代表者は特定の候補を示し(自分の政治団体の候補者ではない)計画は大成功だったと胸を張る。
この人の主張は一貫して意味がわからない。
東京15区を荒らし回った某政治団体やかつて国政政党だった別の政治団体の行為をみて「何が目的なのだろう?」と議論する人たちがいる。だがおそらくその議論は無意味だ。
彼らの目的は政治議論と選挙の無意味化・無効化だろう。「意味がわからないこと」を目の前で話し続ける人を見ると誰でも不安になる。どう処理していいかわからなくない。おそらく雑踏で無意味なことを叫んでいる人を見れば普通は逃げ出すだろう。この「無意味さ」が人々に不安を与え東京都への大量苦情につながった。
ただこうした意味の破壊活動に快感を感じる人も多くいる。でなければ彼らがYouTubeなどで成功できる理由が説明できない。この源流はどこにあるのだろうかと考えると安倍政権下のご飯論法に行き着く。後に立憲主義と呼ばれるようになった憲法を元にした法秩序を破壊する野蛮な行為だったが、むしろ「インテリに一泡吹かせてやった」と快感を感じる人が多かった。後にこのご飯論法は自民党の倫理感覚を徹底的に破壊し今の「政治と金」の問題につながっている。
今回の東京の選挙の混乱はこの意味の破壊に適応した人たちが引き継いでいる。その意味では彼らは安倍晋三氏の息子・娘ということが言えるだろう。そして立憲主義が回復されることはなくむしろ意味の破壊が進行している。
現在の政治においては意味の破壊に成功した人たちだけが生き残れるのである。
だが、これだけで意味の破壊がここまで首都東京を蝕むとは思えない。次に重要な要素は「ヒマとお金を持て余している人たち」の存在であろう。彼らはおそらく供託金を出したり掲示板を買ったりするほどの余剰資金は持っている。政治活動をする時間的余裕もある。例えば今回はQRコードを使って有料サイトに誘導する「イノベーティブ」な手法も取られておりある程度は技術的にも熟達していることがわかる。
アメリカではこうした余剰を持った人たちが東西両岸に集まり技術革新と経済成長の原動力になった。だが日本にはこうした余剰を生産的に活かす環境がない。そのため「意味の破壊」のみが加速することになる。福岡、大阪、愛知、札幌などにはここまでの余剰はない。国家が経済成長を目指すべきだとするとこれは政治の失敗だがどうしてそうなったかを総括する人はいない。
日本において例外的に余剰がある東京は海外で利益を挙げた企業の拠点となっている。多くの人がこの繁栄に惹きつけられるがほとんどの人は労働分の対価を得られるのみで余剰を手にすることができない。余剰は手にできないが、かと言って人権が脅かされるほどの危険な状態にもない。東京は地方からくる若い女性を惹きつけるが彼女たちは日々を面白おかしく過ごす程度の余剰しか与えられず結婚して子供を産むほどの余剰はない。これが東京の0.99ショックにつながっている。
こうした状況は一つの回路を形成している。それは例えて言えば大きな河の流れのようなものだから河の全体像を掴まずに「この場所に堤防を作りましょう」などと提案しても大きな流れを変えることはできないだろう。今回の不適切なポスター問題で特定の政治団体や政党を責め立てるのは自由だがその行為は何ら生産的な結果を生み出すことはない。
国家全体で見ると日本は「金余り」状態にある。ただその流れは滞っており「水膨れして澱んだ川」になっている。あるいは河の水は東京に集まって大きな流れのない溜池を作っている。当然澱んだ水底にはさまざまな堆積物が溜まり独特の臭いを放っている。おそらく日本の問題は「お金がない」ことではない。お金がありすぎて流れないことが問題なのだ。