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政治と金の問題で岸田総理任期内の憲法改正が絶望的に

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政治資金規正法改正案が自民・公明・維新の賛成で衆議院を通過した。この問題は自民党内部にさまざまな軋轢を生んでいる。マスコミは「麻生・茂木ラインと岸田総理の間の溝がさらに深まった」などと報道しており総裁再選が絶望視される。だがここにきてもう一つの深刻な問題が起きている。岸田総理大臣の任期内の憲法改正が絶望的になった。政局利用の疑いが持たれている上に実務的な審議時間も確保できそうにないのだ。

保守論壇の中には「スター」高市早苗氏を押し上げる意見もあるそうだが、国民の関心事は生活の向上であって憲法改正にはない。

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今回の政治資金規正法改革案では実は「何が政治資金なのか・何が政策活動費なのか」という定義ができなかった。「条件闘争政党」自民党は最初から50万円以下は政策活動費ではないという独自の主張を展開。維新の反発を招いた。

締めくくりの質疑によると「選挙資金は含まれるのか」とか「何をもって経費というのか」というコンセンサスが得られないまま「後日検討」に回っている。実は重要な定義ができないままで「法案の締切日」が設定されてしまった。

この議論を見ていて「同じことが憲法で起きると大変なことになるだろうなあ」と感じた。つまりスケジュールありきで拙速な議論が行われるとまとまる議論もまとまらなくなってしまう。憲法の場合「細かいことは法律で詰めましょう」ということになり何もまとまらないということが起こる可能性がある。

実際の憲法議論でも同じような問題が起きている。緊急事態条項が最優先課題とされているが「緊急集会」の定義が与野党でまとまっていない。憲法審査会の議論を見てもらうと良くわかるのだが政治資金規正法と同じようにテクニカルな議論が延々と続いている。おそらく今の状態で具体的な条文が提示されてもさまざまな不確かな情報が飛び交うだけになってしまうだろう。

TBSの報道によると岸田総理の周辺からは「このままでは(麻生・宮沢総理のように)自民党を下野させた総理大臣という実績しか残らないと危惧する声が聞かれるようになったという。このため「憲法改正を優先して憲法発議をした始めての総理大臣という名前を残すべきだ」という意見が出ているという。

TBSは護憲色が強い。追い込まれた岸田総理が「憲法改正の是非を国民に問う」として解散するのではないかという話を継続的に扱っている。

今回の政治資金規正法の改正案は総理大臣が直接与野党党首との会談に臨み「結論ありき・詳細未定」のままで合意文書を作ってしまった。このため現場が混乱し一度合意されていた法案が再提出となりドタバタのままで委員会採決が中止になっている。締め切りを優先したい総理大臣が憲法で「一部野党と合意」するようなことになると国会の憲法審議は大混乱することだろう。

さらに党内議論の取りまとめにも課題が残る。実は自民党の憲法議論には3つの「流派」がある。

  • GHQに否定された価値観の名誉回復を狙う日本会議のような人たち
  • 日米同盟を維持しするためにアメリカへの協力が欠かせないとする人たち
  • 翻訳によって作られた日本国憲法条文には問題が多く国際情勢も変化しているのだから与野党で落ち着いた議論を行い修正すべきだという人たち

そもそも自民党内に思惑の違いがあるため、政局がらみで野党を巻き込んで「議論を滅茶苦茶にされたくない」という人たちが多い。朝日新聞は次のように書いている。

自民内には、求心力低下に悩む首相が、右派の支持を得ようと改憲に前のめりだとの見方もあるが、同本部幹部は「政権延命に憲法を使うことはあってはならない。我々も大変警戒している」と釘を刺す。

また、浜田国対委員長はそもそも現実的に討議時間が確保できないと言っている。「会期延長なしサミットまで」と政治資金規正法の問題の解決を急いだためにただでさえタイトだった国会スケジュールが大混乱した。

岸田総理が憲法改正に前向きな理由は憲法改正勢力の離反を恐れているからだ。櫻井よしこ氏などは「改憲派集会で櫻井よしこ氏「小石河連合ではやり遂げられぬ」 維新や国民も具体的議論主張」と主張している。岸田総理が憲法改正を断念してしまうと党内議員たちの離反が始まることになる。だがこのことが返って政局利用だと疑われ憲法改正の実現を難しくするという皮肉な状況が生まれている。

また保守論壇の一部には中国の脅威を念頭に「憲法改正派のスターである高市早苗氏を押し上げるべきだ」という声も出ている。

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