バイデン大統領がガザ地区のロードマップを発表した。これまでハマスに提示してきたものと同じ内容で新鮮味に欠ける。にもかかわらずロードマップを提示した理由は何なのか。報道を読むと少なくとも３つの狙いがあることがわかる。大統領選挙対策、イスラエルに対する暗黙の働きかけ、エジプト外しだ。
日本ではすっかり報道されなくなったガザ地区情勢だが、今も解決の見通しが立たないまま混乱が続いている。混乱の理由はアメリカの政局、イスラエルの政局、そしてエジプトの政権事情だ。
第一の「アメリカ大統領選挙対策」は明白だ。民主党はエスタブリッシュメントの支援に期待する人たちと若者・有色の中産階級の間に重大な亀裂が生じつつある。バイデン大統領はユダヤ系の支援に期待しているが若者・有色の中産階級の中にはパレスチナ人に対する共感が生まれつつある。これが表面化したのが各地の大学に広がった抗議活動だった。このままこの対立が激化すれば民主党党大会や大統領選挙本選に大きな影響が出かねない。このため「和平交渉は継続中である」というメッセージングが必要だったのだろう。
当然、共和党は「民主党は左派に乗っ取られておりバイデン大統領はハマス寄りだ」という印象を付けたい。議会ではネタニヤフ首相演説が計画されている。次の大統領選挙を目指す共和党のニッキー・ヘイリー氏はイスラエルに乗り込み「ハマスの後ろには、ロシア・イラン・中国がいる」と根拠のあやふやなメッセージを発信し続けている。共和党は「明確なイスラエル支持」を訴えつつユダヤ系が民主党から離反することに期待を寄せている。
次にイスラエルに対する暗黙の働きかけがある。バイデン大統領のスピーチではイスラエル市民に支援を求めていたがアルジャジーラは「Biden’s ceasefire statement was directed to Israel’s divided government」と分析している。つまり市民に蜂起を求めているのではなく分裂した戦時内閣にメッセージを送っているというのである。
Xにはこれを裏付けるような投稿があった。イスラエルにはネタニヤフ氏の他に戦時内閣に加わっていない首相経験者のラビド氏、戦時内閣には加わっているがリクード所属ではないガンツ氏、戦時内閣に加わりリクードにも所属しているガラント氏という三人の有力な政治家がいる。あくまでも「この投稿によると」だがそのうちの２名に対する働きかけの結果は思わしくなかったようだ。両者とも「関わることを断った」と書かれている。
この短い投稿からはなぜ両氏がコミットを断ったのかはわからない。バイデン大統領の念頭には「早くこの厄介ごとを終わらせたい」という気持ちがある。どうやらガンツ氏は戦争の終結には後ろ向きのようである。あくまでも世論を背景にネタニヤフ氏代わって主導権を握りたいという気持ちが強いようなのだ。つまりアメリカに接近したもの総選挙目当てだった可能性がある。ガンツ氏は議会において早期総選挙を求める法案を提出したが採決される見通しは立っていない。
ちなみに元ネタを提供しているのはイスラエルからの「トクダネ」を多く掴んでいるアクシオスに所属する記者のようである。
最後の目的はエジプト外しだ。
今回、ブリンケン国務長官はまずサウジアラビア、トルコ、ヨルダンの外務大臣に説明をしている。その後カタール経由でハマスに情報が伝達されたというレポートが入ってきた。カタールの首相も和平提案を歓迎しているようだ。前回の枠組みからエジプトが抜けていることがわかる。
CNNの情報によるとエジプトは和平提案の内容を書き換えてハマスに伝えたという疑念を持たれている。エジプトの政権はムスリム同胞団を軍事クーデターで倒して生まれた政権だ。このムスリム同胞団から分派したのがハマスと言われている。つまりラファ検問所が崩壊しガザ地区から難民が流れ込んでくるとその中には確実にエジプトの現政権の崩壊を望む人が紛れ込んでいるはずだ。
このためエジプトの第一優先は一貫して「ラファの死守」である。イスラエルはフィラデルフィア回廊をほぼ制圧したがエジプトはイスラエルがここからハマスを含むガザの難民を送り込むのではないかと警戒しているようである。
アルジャジーラとアラブニュースが「エジプトは独自にアメリカやイスラエルとラファ検問所について階段を行う」としている。アラブの他の国はガザ地区の状況を改善したいと考えているようだが、エジプトにとってはそれらは「対岸の火事」であるということなのかもしれない。
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