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バングラディシュで7名の日本人が殺された

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バングラディシュで7名の日本人を含む20名が殺害された。亡くなった人の国籍はイタリアが一番多く、インド人とアメリカ人が含まれている。襲撃された場所はダッカの中でも一番裕福な地区のカフェだったそうだ。亡くなったのはJICAの事業に協力している人たちである。
ISが犯行声明を出しているが、実際にISが関与したかどうかは分からいとのことだ。CNNは全ての犯人がバングラディシュ人の過激派で政府が逮捕を試みたことがあると伝えている。
このニュースは日本ではあまり伝えられなかった。バングラディシュに駐在員がいためにレポートができなかったのだろう。当初、日本政府が犠牲者の氏名を公表しなかったために、国内で家族のところに押し掛けて「取材」することもできない。結果的に、初期のニュースで短く伝えられるだけだった。
パリでテロが起きたらニュースになる。旅行などでパリに行った経験がある人も多いだろうし、フランスのような先進国でもテロが起きるとしたら、東京でも起こりえるという連想が働くからだろう。パリには親近感がある。「私たちの世界」の一部だ。しかし、トルコやバングラディシュのような国でテロ事件が起きてもあまりニュースにならない。今回は日本人が殺されたわけだが「私に関係がなければ」あまり関心を持たれないのだということが分かった。バングラディシュは「私たちの世界」ではないのだ。
報道で伝わってくるのは「日本人だから撃たないでくれ」と言ったが無駄だったというものだ。安倍総理のせいで日本人が狙われるようになったという人がいるが、これは言い過ぎかもしれない。バングラディシュには日本の援助が入っている。日本人は貢献しているという自負があったのかもしれない。これが裏切られてしまったわけだ。決して憲法九条があるから自分たちは安全と考えていたわけではないだろう。
だが、このJICAの貢献がバングラディシュの為になっていたかどうかは、慎重に検討すべきだろう。
バングラディシュはイギリスの植民地から「非ヒンズー圏」が独立してできた国だ。しかし領域が東西に分離していたために東側が独立して今の形になった。当初は非宗教国家だったのだそうだが、イスラム教を国教にした。しかし、最近のイスラム過激派の伸張を背景にもう一度イスラム教を非国教化しようという動きがあるそうだ。テロリストたちはこうした動きに反発を強めているのかもしれない。
だが、混乱の背景にはやはり貧しさがあるようだ。日本人の想像が難しいレベルの貧困だ。
バングラディシュはとても小さな国のように見えるが、人口は1億5000万人以上で日本より大きな国だ。経済的にはとても貧しく、3/4が1日2ドル以下で暮らす貧困層だ。
人々が貧困から脱出できないのはなぜなのだろうか。
JICAのページによると、現代的な意味での政府がほとんど機能していないということである。米が豊富に取れるために食料自給率は90%以上あるのだが、人口が多すぎるので全ての国民が農業に従事することができない。政府も安定せず、金融システムも脆弱なので、国民の多くは貧困から脱することができないのだ。政府も産業を育成したり、外資を導入して投資を呼び込もうという発想がないようだ。
国民の不満は潜在的なテロの温床になるだろう。JICAはほとんど機能していない政府を通じてしかバングラディシュにアクセスできないので、結果的にバングラディシュを貧困国から脱却させることができない。今回、JICAの協力会社の人たちは、富裕な(日本のスタンダードでは普通なのかもしれないか)レストランで食事をしている最中に襲われた。
JICAの事業に従事する人たちは外国の成長に貢献しようとしている立派な人たちなのだが、現地の人がそう思っているかどうかは分からない。一部のエリートに協力しておいしい思いをしているだけだと思われている可能性もあるのだ。従事者は「貢献だ」と思っていたことが実は「搾取」なのかもしれないということになる。
日本政府は今のところ「テロには屈しない」と言っている。これはJICAなどの経済支援を続けるということを意味しているのだろう。すなわち現地に駐在している邦人が引き続き危険に晒されるということになる。そうした人たちを365日24時間警備する覚悟があるのかが問われるところだ。
「テロには屈しない」というだけでは問題は解決しないわけで、実行力のある対応が求められる。それを提示できないなら、紋切り型で力強さを演出するだけの発言は避けるべきだろう。
と、同時に政府援助が本当に効果的なのかを真剣に考える必要がある。「民衆を豊かにする」という口実で投資して、日本企業と現地政府が潤うという形のバラマキは、悲惨な結果を招きかねない。「テロには屈しない」という言葉は正義のように聞こえる分だけ、危険な思考停止ワードだと言えるだろう。