昨日のアメリカのニュースでは大学紛争の話題が多く取り上げられていた。ニューヨークのコロンビア大学には警官隊が踏み込み、LAのUCLAでは親イスラエルと親パレスチナの集団が激突した。「第二のナクバだ!」などと叫ぶ人もいて一時状況は騒然としたという。大統領選挙目前のアメリカ合衆国では権威主義的ポピュリズムが蔓延しており他者を排除したいという隠れた欲望が収まる気配はない。
トランプ陣営は人々の欲望に火をつけることにより寄付金と票を集めている。支持者たちは自分が守ってもらえていると感じているが実際には彼らは奪われる側だ。
ポピュリズムは容赦なく人々から奪うが奪われた人たちがそれに気がつくのはずっと後のことである。
数々の汚職によって失職と収監の危機にあったネタニヤフ首相は10月7日のハマスの攻撃を奇貨としてガザ地区の攻撃を行う。国内で政権を支える極右を願望を満たす狙いもあった。トランプ政権はイスラエルを支援することでユダヤ系の支援を獲得したい。盛んに反パレスチナ感情を煽ることになった。ユダヤ系の支援を取られたくないバイデン政権もイスラエル支持をやめられない。
ところが国内にいる有色人種たちの中に虐待されるパレスチナ人たちと自分達を重ね合わせる人たちが出てきた。まず、ニューヨークのいくつかの大学で親パレスチナ・反イスラエルのデモが起きる。するとトランプ氏はますます反パレスチナのメッセージングを強めてゆく。解任の危機にあったジョンソン下院議長がこれにあやかろうとしてコロンビア大学の学長の解任を要求する。解任圧力に恐れをなした学長は親パレスチナ・親イスラエル運動を排除しようとして状況を刺激した。一部破壊運動に発展したためニューヨーク市当局もこれを見過ごせなくなり学生の排除運動に発展した。
大人たちの保身が状況を悪化させ続けている。
親パレスチナ・親イスラエル運動は全国に飛び火していて全米で60以上の大学で争いが起きている。
たとえばUCLAでは親パレスチナと親イスラエルのデモ隊が衝突した。トランプ氏のエンドースメント(承認)に気持ちが大きくなっている親イスラエル側の学生は「第二のナクバだ!」と叫んでいたそうだ。ナクバはかつてパレスチナで起きた虐殺と追い出しの意味である。何十万人もの人が家を追われたとされているがその実態は必ずしも明らかになっていない。警察は親イスラエルだから傍観していたという投稿も目にしたがローリングストーン誌によると学校側からの介入の判断が1時間ほど出なかったため手出しができなかったそうだ。
アリゾナ州立大学では警官がヒジャブを剥ぎ取っている。イスラム系=テロリストという偏見もあり警察の介入が思わぬ事態を引き起こすことも想定される。こうした動きはすべてSNSで捕捉され拡散される。人々はますますパレスチナの状況と自分達の状況を重ね合わせることになるだろう。
人々はもともと「自分と価値観が違った人たちを排除したい」という隠れた欲望を持っている。しかし特にアメリカでは人種差別に対して厳しい社会的制裁がある。この欲望に正当化の理由を与えることで支持を取り付けるのがトランプ氏のやり方である。
人々は実際には押さえつけられていた獣のような欲求を解放されただけなのだが「失われた何かが回復した」と感じる。トランプ氏や福音派の伝統などを崇めることで自分が何か大きなものの一部になったとも感じることができる。主観に彩られた権威は人々の弱った自我を肥大化させるのだ。
この過程でアメリカが持っていた自由という価値観が失われ自分達のコミュニティの安心・安全も奪われてゆく。実際に彼らが破壊しているのは自分達なのだが争いに夢中になっている間はそれに気がつかない。そして破壊するものがなくなるか彼らが正気を取り戻すまで破壊活動は続く。
アメリカの学生たちは高い奨学金を借りて大学に通っている。彼らは学期末(春頃に学期が終わり9月から再開される)という重要な時期にさしかかかっており取り返しのつかない時期を奪われてしまったことになる。
トランプ氏のポピュリズム的手法はアメリカの未来という大切な資産を貪り食いながら成長し大統領再選を目指しているがおそらくその動機の一部は刑事裁判から逃れることにある。
今回の動きを見ているとまるで体内にあった癌細胞が身体中に転移しているように見える。この癌細胞は「安全が脅かされるかもしれない」という恐怖を餌にして成長する。人々の体には免疫細胞があり癌細胞を捕食している。アメリカの民主主義にどのような免疫細胞があるのかにも注目が集まる。