国語算数理科社会とともに学校生活で習う重要項目に道徳がある。道徳といっても馬鹿にしたものではない。「嘘をついてはいけません」というような簡単な約束事はその後の社会生活を円滑に営むためにきわめて重要な社会との約束事である。だが今の日本の学校は一見簡単なこの道徳を子供に教えることができない。
灘高から東大法学部を経て文部科学大臣に上り詰めた盛山氏の発言が二転三転しており子供たちのお手本にならない。撤退することもできないまま野党に打たれ続けている。マスコミももう政治家の嘘にいちいち腹を立てたりしない。ああまた何か言っているよと面白おかしく記事にするばかりだ。
嘘というのは名誉毀損にあたるのだろうか?という気もする。正確にいえば盛山氏の記憶が「曖昧」なだけだ。
自民党はアンケートを実施しており盛山文部科学大臣は「統一教会との関わりはない」と自己申告していた。朝日新聞で関わりが指摘されると今度は一転して「そういえば記憶が蘇ってきた」と答弁する。しかし今度は「政策協定にあたる推薦確認書」に署名をしていたという報道が出てきた。すると盛山氏の蘇っていた記憶はまた曖昧になり「覚えていません」を連発した。
立憲民主党は政策協定書を全て見せるようにと要求した。ところが今度は「推薦状は200以上もあるので全ては覚えていない」し貰ったものは全て捨ててしまったと答弁した。これを素直に捉えると「自分が欲しいのは票だけなので皆さんとの約束なんか大して重要ではないのですよ、捨ててしまうんですよ」と宣言していることになる。政治家としてはもはやおしまいと言って良いだろう。
新聞各紙ももはや盛山氏が正直に説明するだろうとは思っていない。今度は「記憶にございません10連発だよ」などと面白おかしく記事にしている。盛山氏の名誉のために厳密にいえばこれは「嘘」ではない。記憶が曖昧なだけだ。日本は政治家の無理のある答弁が冷笑される国になった。しかし盛山氏には守らなければならない何かがある。
そもそもどうしてこんなことになったのか。
旧統一教会は韓国の儒教思想とキリスト教が混じり合った独特の教義を持っている。儒教と言っても韓国に残る男尊女卑の古い考え方を継承したものである。ところがこうした男尊女卑の思想が日本のネット保守層の求める男性中心の社会像と合致していた。自民党が統一教会の政策を放棄してしまうと日本のネット保守層の離反につながる。こうした事情があり自民党は統一教会に影響を受けた従来の考え方を総括できなかった。
自民党が下野していた時に作られた憲法草案は今でも護憲派から攻撃されることがある。天賦人権を否定するなどかなり問題がある草案だ。自民党が現実的改憲政党になるに従ってこの草案はあまり顧みられなくなっているが、党内の反発を恐れた自民党はこれを破棄できずにいる。憲法草案にも「伝統的な日本の家族観の維持」を訴える修正箇所があるのだが、これがどの程度韓国の影響を受けているかはよくわからない。
結果的に憲法改正も難しい状況だ。岸田総理はネット保守の離反を恐れて憲法改正に前向きな姿勢を示している。しかしながら憲法改正に前のめりな産経新聞は「首相の改憲目標に黄色信号 自民「今国会で発議難しい」 憲法審後ろ向き」で岸田総理の姿勢こそが憲法改正の障害になっていると指摘している。
この「リーダーシップがなく総括もできない」という優柔不断な状況が統一教会の目の付け所だった。選挙にあまり強くない候補に近づいて支援を持ちかける。その時にそっと「我々の提案を飲めば応援してあげるからこの書類にサインしてください」と囁く。のちに彼らが偉くなると「我々は写真を持っているんですよ」と仄めかす。今頃同じような政策協定にサインした議員たちは戦々恐々としているだろう。
これが国との法廷闘争を抱える統一教会にとっては大きな武器になっている。教団の解散がかかっているのだからあらかじめ予想できた攻撃だった。SNSのXで鈴木エイト氏などはすでに岸田総理への波及を懸念している。いずれにせよ岸田政権はあらかじめ予想できた攻撃を防ぐ手立てを持たない。仮にここで盛山氏を更迭してしまうと同じ事例が出た時に更迭が相場になってしまう。例えば岸田総理に同じ事例が出たとすると「自主更迭=つまり総辞職」に追い込まれてしまうのである。
田崎史郎氏は法廷闘争を抱えている統一教会に政府が負けないために盛山氏を庇うしかないと説明している。だが、実際にはもうすでに負けていると言える。
田崎氏は「官邸を取材しますと、官邸の方の捉えた方は、こういうことなんです。朝日新聞と週刊新潮に同じ(推薦状を受け取っている盛山氏の)写真が出ています。この写真が流出したのはなぜかと考えると、官邸の方が言われていたのは、旧統一教会の関係者の方がこの流出に関与したのではないかと見ているわけです」と言い、「だからこの一連の報道の背景には、旧統一教会があるのではないかと、関係者が関与しているのではないかと思っている。そうすると、ここで盛山さんをやめさせたりすることは、官邸にとって旧統一教会に屈服したことになるわけです」と説明。
新しい辞任ドミノを恐れる岸田総理は盛山文部科学大臣を更迭することができない。そのまま嘘をつき続けるしかなく文部科学大臣として子供たちに「大人には大人の事情があるが、君たちは嘘をついてはいけないよ」と言い続けるしかなくなってしまったのである。