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ついに「白人のための純血のアメリカ」という議論まで 2024年の主役はやはりトランプ氏なのか

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民主主義擁護が国是のアメリカの大統領選挙が揺れている。

トランプ氏が「移民はアメリカの血を汚す」と発言した。ヒトラーを思わせる議論だが本人は「我が闘争」など読んだことがないからヒトラーの主張とは違っているといっている。コロラド州では南北戦争の時に作られた憲法を持ち出してトランプ氏の排除を目指すが却ってトランプ派を結束させるのではないかと言われているそうだ。一方の民主党も反トランプ以上のメッセージを見つけることができていない。攻撃対象になっているヒスパニックの人たちの中にも民主党を離反してトランプ氏に期待する人たちが生まれている。

これと言った結論はない。とにかく一筋縄ではいかないアメリカの大統領選挙の関連記事を集めた。

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トランプ氏は「不法移民がアメリカの血を汚す」とだけ言っており、国内にいる有色人種を名指ししたものではない。正確な表現は「Immigrants are poisoning the blood of our country」だ。つまり移民が合法であるか不法であるかは問題にしていない。APによると不法滞在移民について言及して言及している時の発言だった。厳密にはヨーロッパ系であるか非ヨーロッパ系であるかにも触れてはいないのだが、南からやってくるヒスパニック系の人々をはじめとした肌の色が暗い人たちを指していることは明白だ。「アフリカ、アジア、南米からきている」人たちを問題視している。

トランプ氏の「強み」は論理を超えて人々の感覚に直接訴えるという点にある。娘婿のクシュナー氏はユダヤ系であり本来であればユダヤ系を迫害したヒトラーを模倣するはずはない。そもそも何人かいた妻にも移民がいる。つまり言っていることが無茶苦茶なのだ。

ただこの言葉はアメリカのヨーロッパ系白人の「有色人種の血が入るとアメリカの肌の色が暗くなる」という潜在的な恐怖心に強く響く。前回キャンペーンのMake America Great Againでは意識されなかった「アメリカは誰のものか」という議論が前進した形だ。彼らはヨーロッパ系がアメリカの支配者でありルールを決める存在であり続けるべきだと考えている。そしてその地位を失うことを恐れている。

実際にアメリカ合衆国では人種の置き換えが進んでいる。ヨーロッパ系よりもヒスパニック系の出生率の方が高いためやがてアメリカ合衆国の白人はマジョリティでなくなるものと予想されている。民主主義は「みんなのルール」が重要視されるためこれまでヨーロッパ系の人々が民主主義という名の下に行っていた有色人種抑圧ができなくなるばかりか自分達が迫害の対象になりかねない。

問題なのはトランプ氏の発言そのものではなく「純血信仰」に共感する人が大勢いるという点にある。トランプ氏は不規則な発言のうち「受けるもの」を選別する能力に長けている。ただそれだけだ。

結果的にこの発言は白人至上主義者たちを勇気づける。つまり、トランプ氏が次の大統領になってしまうことはアメリカにいる有色人種にとっては命に関わる問題になることが予想される。

コロラド州の最高裁判所は南北戦争の時に作られた憲法条文(修正14条第3項)を引っ張り出しトランプ大統領を連邦に対する反逆者であると指定した。大統領選挙にエントリーする資格がなくなる。この試みはトランプ氏が指名した保守系の多い最高裁判所で審議されるうえにもともとコロラド州でトランプ氏が投票人を獲得する見込みはないために実効性はないと考えられているそうだがメッセージとしては大きな意味を持っている。

コロラド州の取り決めは却ってトランプ陣営を結束させるのではないかと言われているそうだ。また司法が民主主義を定義すべきなのかという懸念も提示されている。さらに資金集めでもトランプ氏はこの判断を有利に使う可能性がある。迫害懸念が高まればトランプ氏を守るためにお金を出してもいいという人が増えるからだ。一筋縄ではいかないなと感じる。

トランプ氏の発言には明らかに問題がある。特に有色系アメリカ人にとっては命の危険を伴う。だが、バイデン大統領は経済問題や外交問題を解決できておらず「トランプ氏から民主主義を守る」ことだけが唯一の結束の理由になってしまっている。バイデン大統領はトランプ氏の人格攻撃に余念がない。

興味深いことに本来迫害されかねないヒスパニックの人たちがバイデン氏から離反し始めている。本来は保護してくれる人なのだがバイデン氏が何を言っているのかよく理解できなくなっているようだ。今回の高いインフレで生活が苦しくなったヒスパニックの人たちがバイデン大統領に失望し共和党支持に回っているという分析がある。

焦点:米民主党の地盤に異変、トランプ支持に回るヒスパニック有権者

ヒトラーがユダヤ人排斥を着想した経緯と今回の事象を比較すると面白いことがわかる。諸邦の集合体に過ぎなかったドイツはオーストリアやフランスに勝利しドイツ帝国としてまとまってゆく。ところが「諸国との戦争に勝ち続ける」以外に結束する動機を作れず、最終的に第一次世界大戦に負けたことで多額の賠償金を課せられた。敗戦したドイツ諸邦はお互いに協力できず「ドイツ人とはなにか」という大きな問題に直面することになった。この空白に新しい目的を与えたのがヒトラーだった。ヒトラーは聴衆に何が受けるのかを敏感に感じとり結果として「共産主義とユダヤ人」がアピールするということを学んでゆく。

今回トランプ氏は「我が闘争など読んだことはなく自分はこのメッセージを独自で思いついた」というようなことを言っている。必ずしもこれは嘘ではないのかもしれない。アメリカ合衆国は経済的には絶好調でむしろインフレの抑制を迫られている。つまり経済的に見ればドイツとは真逆のはずだ。だが実際には当時のドイツと同じようなメッセージが響いており、ほんらは迫害対象になりそうなヒスパニック系すらもトランプ氏に惹きつけられていることを考えると少なくとも一部のアメリカ人の中に「敗戦気分」や「厭戦気分」が蔓延していることがわかる。ただ、彼らが一体何と戦っているのかは報道の中からは見えてこないが「アメリカ合衆国とは何なのか」が見えないと感じる人が増えているのだろう。

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