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インドの野党議員143人が登院停止に 背景にあるモディ政権の暴走

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総選挙を控えたインドで野党を潰すあからさまな動きが起きている。今は野党になっている既成政党(INDIA)系の議員のうち143名が登院停止になった。既成政党とポピュリズム政党の争いである。

インドの上院はラージヤ・サバーと呼ばれる。定員は245人で与党(国民民主連盟)系が多数派を占めている。国民民主連盟の主要政党はインド人民党(BJP)だ。各州の議員が指名する間接選挙方式になっている。下院はローク・サバーと呼ばれる。定数は545人でこちらも国民民主同盟が与党だ。こちらは直接選挙で選ばれる。

下院は小選挙区制度だが指定カースト・民族の議席が確保されている。最近では女性に1/3の議席を割り当てるべきだとする改革も行われている。少数派を取り込んだ改革が行われているが同時に民族ポピュリズム運動という負の側面がある。つまり多様性推進というより数に勝る非支配層を政権支持基盤に取り込むという意味合いが強い。

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現在の与党の中核にいるインド人民党は既成の政党ではない。ヒンドゥー教の規範を重要視するヒンドゥ至上主義政党である。もともとは民族系のファシズム団体が基盤となっておりモディ首相もその流れを汲むなどとする分析もある。

背景にあるのは国民の深刻な政治離れだった。既存政党のインド国民会議派が汚職などで民衆から離反された。国民会議派は一時政権を取り戻すが2014年にモディ氏が率いるようになってからは再び下野している。名家が主導する政治に国民が不信感を抱くようになっていったのだ。

かつての与党であった国民会議派は単独ではポピュリズム政党に勝てないため野党連合INDIAを作って対抗することにした。次の議会選挙は2024年に行われる。モディ首相は2014年から維持している政権の三期目を目指す。二期10年なので選挙は5年に一度しか行われないことになる。インド人民党は選挙では着実に勝っているが議席を守れない州も出てきた。5年ぶりの政治の季節を前に激しい選挙戦が予想される。

そんなインドで議会襲撃事件が起きた。今回の襲撃そのものは大きなものではなかったが22年前に大規模な議会襲撃が起きており十数人の死者が出ているそうだ。議会に押し入った二人は失業者で生活に不満があったとされている。

野党は徹底的な原因解明を行うように呼びかけた。強い与党の失点を探して野党が徹底審議を呼びかける図式は日本でも見られる。だがインドでは与党がこれを逆手に取った。

与党側が支配する議会が野党側議員が状況を混乱させたとして141人を登院停止にした。上院議員が46人、下院議員が95人である。下院の定数が545人だと考えると1/6以上の議員が登院停止措置を食らったことになるが、メンバーのほとんどはINDIAのメンバーだった。当然野党側は民主主義への攻撃だとの批判を強めCNNがこれを伝えている。インドで民主主義が危機にあるというわけだ。

THE HINDUの最新のニュースではでは登院停止の人数は143名になっている。登院停止に抗議した2名が追加で登院停止になったそうだ。結果としてINDIAのメンバーのうち残っているのは42名だけになった。

BBCによると締め出された人たちは「冬議会」の間議会から締め出されることになる。冬議会は金曜日まで続く。どのような法律が審議されるのかについて言及はない。

ポピュリスト政党により順調に民主主義が破壊されているインドだがアメリカを中心とする西側陣営はモディ首相を大目に見てきた。対中国という文脈で「西側につけておいた方がトクである」という計算が働いているからである。モディ首相もこのことがよくわかっておりロシアに接近しつつも西側諸国との間の関係を保つなど「ピボット」の恩恵を十分に受けている。

イスラエルの例を見るとそのうちインドのヒンドゥー至上主義もそのうちどこかで暴発するのかもしれない。THE HINDUによるとモディ政権になってからこの手の野党議員の登院資格停止はモディ政権になってから度々同じようなことが起きており、その度に規模が大きくなっている。今回の143名の登院資格停止は史上空前の規模だったそうである。

民主主義陣営を守るとする西側の戦いはその主張とは逆の効果をうみだしていることになるが、西側陣営も追い込まれている。どんな手段を使ってでも今までの既得権を守らなければならない状態で「共通の価値観を守る」などときれいごとを言っていられるような状態でもないのだ。

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