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移民奔流 中南米からアメリカ合衆国への移民の流れが止まらない

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ロイターがグアテマラからアメリカ合衆国に流れてゆく移民の問題について書いている。
土地を売ってブローカーにお金を払いアメリカ合衆国に渡る人についてのルポである。

成功すれば故郷に立派な家が建てられるが無事にアメリカに渡れる確証も仕事が得られる保証もない。それでも移民の流れが止まらない。

一方のアメリカ合衆国もこれ以上移民を受け入れられないという状況が生まれつつある。バイデン大統領に対する不支持の主な理由となっているが感情的にこじれにこじれており解決策は見いだせそうにない。

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グアテマラはメキシコの隣にありアメリカを目指す移民の集結地点になっている。中にはダリエン地峡と呼ばれる南アメリカと中央アメリカの間にある地域を超えてきた人たちもいる。ダリエン地峡には道がなく車は通行できない。それでも大勢の人々が地峡を越えて中米を目指す。最終的に彼らはグアテマラからメキシコに流れ込む。メキシコ政府はグアテマラ国境で移民たちを阻止しており高速道路が占拠させる騒ぎも起きているそうだ。

グアテマラの移民流出の背景にあるのは政情不安だ。もともと米国資本のプランテーションを保護するためアメリカ合衆国が介入を繰り返してきた歴史がある。これに耐えかねた左派との間で内乱になり1996年までは不安定な状況が続いていた。

既に8月に大統領選挙は終わっているが政権交代はしばらく先になる。検察が選挙戦で勝利した「セミージャ運動」に不正があったとして捜査しており、アバレロ次期大統領はクーデターの試みであると政権を激しく非難している。

グアテマラは経済的には「中米中位」であり平均的な生活レベルはニカラグアやホンジュラスほど悲惨ではない。だがこれは「平均」の話だ。上位10%が富を独占しており貧困率が極めて高い。特に貧困な状態に置かれているのは先住民だ。1,700万人のうち2/3は1日2ドルで生活しているという報告もある。

そんなグアテマラの寒村に住むメンドーサさんは土地を210万円で売りコヨーテと呼ばれる密入国業者に息子を預けた。息子は不法入国に成功しニュージャージー州で「割のいいエアコン修理の仕事」見つけたそうだが、無事が確認できるまで母親は毎日泣いて暮らしたそうである。

グアテマラの政治には期待ができないという人たちが大勢アメリカ合衆国に渡っている。送金は4年間で180億ドルに達しているという。不法でも移民に成功すれば家族に仕送りができる。メキシコ国境に接する西部ウェウェテナンゴ県にはキリスト教福音派の教会が増え立派な新築の家が並んでいる。成功事例を目にすれば「自分もそれに乗りたい」と考える人が増えるだろう。貧困に置かれた人たちはグアテマラではまともな仕事は見つけられない。

立派な成功体験のように思える。だが、その「成功」はアメリカ合衆国では下層の仕事に過ぎない。成功者として記事に紹介されるカノさんがアメリカで稼いだお金は一ヶ月に1,300ドルだったそうだ。

背景事情は極めて複雑だがアメリカ合衆国と中南米には奇妙な共存関係ができている。

  • グアテマラには民族に根ざした貧富の差があり先住民にはチャンスがない。まともな政治がないためこうした人たちは貧困状態に置かれたままだ。まともな政治がなければ外国からの投資が行われず産業が育成できない。
  • 一方でアメリカ合衆国は旺盛な消費に支えられ雇用が豊富にある。特に低賃金労働者は足りていないのだろう。

このため、カノさんのように一ヶ月1,300ドルという稼ぎでも大満足という人たちがいるわけだ。独自の市場原理が働いている。需要と供給がマッチしているのである。だから移民の流れは止められないのだ。

一方でアメリカ側にも複雑な事情がある。こちらは経済問題というより感情的な軋轢になっている。

人口動態が変わりつつありヨーロッパ系の間に「このままでは白人が主役でいられなくなる」という焦りがある。低賃金労働者に頼っているという事情はありつつも移民たちに国を乗っ取られてしまうのではないかという焦燥感は感情的な対立を生み出している。特に南部にはその傾向が強い。

アメリカ市民の中にはアメリカは常に苦しい境遇に置かれている人たちを助ける「善い国」であるべきという自負心を持っている人たちがいる。だから、移民たちが審査されている間も人道的な待遇を行わなければならない。とはいえ審査の間は仕事はさせられないわけだから、滞在費用がコストとして重くのしかかる。

南部の国境沿いの州には複雑な思いがある。地域では徐々に有色人種の数が増えている。一方で成功した都市は「民主主義の擁護者」を気取りいいかっこうをしているという妬みもある。これがWOKE(意識高い系)という反発を生んだ。

都市住民に対する羨望込みの反発は「移民の不法投棄」という現象を生み出した。バスなどに乗せてニューヨーク市のような聖域都市に住民を送り込むのである。つまり州の間で嫌がらせをしている。

ニューヨーク市の規定はホームレスを許容しない。全員に対して避難場所を提供しなければならないことになっている。ニューヨーク市の一等地にあるルーズベルトホテルも避難場所に設定されている。市内各所に同じようなホテルが多くあるそうだ。

ニューヨーク市は2022年10月に既に非常事態宣言を発令しており、連邦や州に援助を求めている。アメリカの理想と善意を体現するためにニューヨーク市は努力をしているのだから助けてほしいということだ。

南部諸州は移民の流入に憤りニューヨークなどの聖域都市は資金難に直面している。結果的にバイデン大統領の支持は失われる。

もはやアメリカ合衆国には「国として一丸になって問題を解決しよう」という気概はない。下院議長のマイク・ジョンソン氏は「お金が欲しいなら聖域都市の地位の剥奪が伴う」と脅している。南部諸州が持っている成功への羨望を利用しているのだろう。

対立はエスカレートするばかりである。連邦政府の予算は11月17日までしか持たない。現在ジョンソン議長は来年までの暫定予算案を提案しているのだが、こちらは共和党強硬派からの反発を受けており民主党の支持がなければ成立しない。一方で民主党と協力すると共和党の内部からの反発を受けかねない。最終的にななんとかするのだろうが11月17日の連邦政府閉鎖に向けて、今週は「議会政治ショーの1週間」ということになりそうである。

日本では全く伝えられないニュースだが、アメリカ合衆国は今そんな状態になっている。

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