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ジャニーズ問題はメディアの完全黙殺から「人類史上最悪の性被害」へ

ジャニーズ性加害当事者の会が会見を開きTBSが伝えている。タイトルが「「人類史上最悪の性虐待事件」ジャニーズ性加害問題当事者の会が会見で主張 ジャニーズ事務所「できるだけ早く会見」」となっている。人類史上最悪か……と感じた。BBCが伝えるまで誰もこの問題には触れてこなかったことを考えると極端から極端に触れたという気がする。BBCに加え「国連」という権威が参入したことで今度はジャニーズ叩きが加速する可能性がある。

今回はこの良し悪しを考えようと思う。「どこか小学校の学級会に似ているな」と感じた。

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小学校の学級会で生徒の一人が立ち上がり「キタガワ君はいけないと思います」と指摘する。これまで黙認してきた子供たちも一斉に「そうだそうだ」と言い出す。だが「なぜいけないのか」という理由はない。おそらく単に先生が「それはいけないことだ」と指摘したからである。子供たちの内心に規範はない。単に大人たちの意見をそのまま受け入れて他人を叩くのが日本式の教育でありしつけである。

ジャニーズ事務所の創業者であるジャニー喜多川氏の悪癖は古くから知られていた。1990年代には裁判も起こされており事実認定も行われていた。だが、マスメディアが正面からこれを捉えることはなかった。テレビ局も雑誌もジャニーズ事務所に依存しているため事務所の機嫌を損ねたくなかったのだろうと考えられている。

この黙殺は突然終わった。きっかけは2023年3月18日のBBCニュースだった。ジャニー喜多川氏をJ-POPの捕食者(プレデター)として告発したのだ。外圧に対する反発もあったもののこの告発を無視できなくなった。告発者のモービン・アザー氏はこれを単なるジャニーズ事務所の問題だとは捉えられてはいない。長年日本社会がジャニー喜多川氏を英雄視し続けているとして「社会が見てみぬふりをしている」と糾弾している。つまりもともとの狙いは日本社会に再考を促すことだった。

今回の国連の調査を受けて「ジャニーズ性加害問題当事者の会」のメンバーは声を詰まらせ、中には涙を流す人もいた。当事者の中には医療機関に通院しPTSDなどの症状に苦しんでいる人もいるというがこれまで誰にも助けてもらえなかったという。

ジャニー喜多川氏の性被害よりもその後の社会的な無視の方がトラウマとしては大きかったのではないかと思う。調査団はさらに日本政府の取り組みも求めている。

「加害者に対する透明性ある捜査の確保、被害者への謝罪や金銭的補償」に関し、国連の指針に基づき、日本政府が義務を負う必要性を強調した。

また日本社会に根強く残る不公平なジェンダー規範や社会規範に原因があったとも指摘する。つまりBBCの報道と同じように「社会にも問題はある」と言っている。

だがこの指摘が日本社会で受け入れられることはないだろう。学級会で子供たちがいっせいに「そうだそうだ」と糾弾するように常に周りの空気を読み多数派を形成するのが日本式である。

これまで問題を無視してきたTBSが「メディアの報道姿勢にも問題はあった」と態度を一変させたのは、第二次世界大戦の総括に似ている。これまで権威の側に立って戦争を翼賛してきた人々はGHQが「戦争はいけないものだった」と指摘すると一夜にして態度を変えた。今回はBBCと国連がGHQと同じ役割を果たしているといえる。

これまで問題を直視してこなかったという後ろめたさが強ければ強いほど「いや私はこれに納得していなかった」と主張する人が増えるだろう。単に叩きたいから叩くという人もいるかもしれない。ジャニーズ事務所は人類史上最悪の性虐待に加担していたという主張は今後声高に主張されることになるのかもしれない。

ジャニーズ側が作った再発防止チームの狙いは、おそらく被害者を抑え込み事務所のダメージを最小限に抑えることだった。そのため聴取は圧迫面接のようだと指摘するメディアもある。すっかり空気が入れ替わった今となってはこれは悪代官の所業にしか見えない。今後はCMでのタレントの取り扱いも難しくなるだろう。

ジャニーズ性加害「再発防止チーム」の聴取はまるで圧迫面接 元Jr.が証言(東スポ)

政府への圧力も高まる。朝日新聞とTBSは「国はきちんと対策を打っていない」と糾弾する姿勢に転じた。

政府は対策には消極的だが「何もしていない」とは思われたくない。普段、政権に協力的な姿勢が目立つ日本テレビは「政府はジャニーズ問題を念頭に対策を打とうとしている」と広報したという。ただこれも文春に「あまり目立たないこども家庭庁の活動の宣伝なのだろう」と疑われている。

日本の倫理・人権意識はどこか小学校の学級会に似ている。その目的は相互理解促進ではなく「村の圧力」で誰かを叩き同調圧力を強める点にある。このためメンバーは常に相手を叩くことができる権威を探しているのだ。日本社会の風通しが良くならないのはそのためなのだろう。

いずれにせよ今後ジャニーズ事務所に味方する者にとっては厳しい状況が続きそうである。これまで問題を放置していたのだからなんとかして耐えるしかない。結局のところ自分達が蒔いたタネなのだ。日本の改革はガイアツによって進行しその成り行きはどこか重苦しい。内心に従って行動した方が気持ちはよさそうだが社会にそれを許容する空気はない。

それが良いことなのか悪いことなのか、意見は人によって異なるだろう。

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