すでに知っているという人も多いかもしれないがトランプ氏が議会襲撃をめぐって「国家を欺いた罪」などで起訴された。選挙制度を否定したことが重大な裏切りだとみなされた。だが、トランプ氏は共和党の中ではトップを独走しておりこのまま大統領に就任するかもしれない。裁判が民主党に対して「武器として利用されている」と考える人が多いのだ。
どうしても「理不尽だな」という気持ちが拭えないので多少感想も含まれるが、極力批評や分析を抑えて制度について簡単にまとめた。
BBCがYouTubeに興味深いフッテージを出している。アメリカの司法制度をまとめているのだ。今後トランプ氏の裁判と大統領選挙を理解する上では重要な知識だ。
まず検察官が選ばれる。
州や地方自治体が選ぶ場合もあるが国の機関によって選ばれる場合もある。このほかに司法省が選ぶ特別検察官とという人が置かれる場合もある。その後大陪審にかけ「起訴するか」を決める。大陪審は陪審員とは違い起訴するかどうかだけを決めるのだそうだ。ここで基礎が決定されると罪状認否が行われる。被告は罪を認める代わりに減刑を求める答弁取引ができる。司法取引などと呼ばれることもある。日本では例外的に経済・薬物事案などで検察との間で司法取引を認めているのみだが、アメリカでは裁判プロセスに組み込まれている。
現在トランプ氏の裁判は起訴が行われて罪状認否まで来ている。トランプ氏の起訴は40にまで増えているそうだ。さらにこれに加えてニューヨークでも起訴されている。こちらはビジネス詐欺容疑だ。34の重罪がカウントされている。アメリカには「重罪」というカテゴリがあり軽犯罪と区別されている。
起訴のプロセスでは司法省が任命したジャック・スミス特別検察官が「起訴状をよく読んでほしい」と訴えた。
トランプ大統領は罪状認否のために出席し全て無罪を主張した。
有罪判決を受けてもトランプ氏が大統領になれる理由を説明する。実はアメリカには「有罪の人は大統領になれません」という規定がないという。だから当選すれば大統領になれる。理由は非常に単純だ。ただし刑務所から執務ができるかはわからない。そんなことは今まで一度も起こらなかったからである。
ただしさすがにアメリカでも有罪になれば投票しないという人が多い。
共和党にも穏健な人たちがいる。75%が「トランプ氏は政治的動機によって起訴された」という意見に同意している。一方で重罪で有罪で有罪判決が出れば投票しない答えている人たちが45%いる。また服役中であれば52%が投票しないと言っている。つまり裁判が遅延して起訴が取り下げられれば支持するが確定すれば見限るという人が多いのだ。もっとも「それでも投票する」と言っている人もいるという点も忘れてはならない。
このため罪状認否では裁判の進行を遅らせるという戦略がとられたとCNNは伝えている。有権者に「魔女狩り」を訴えるために裁判を利用しその上で訴訟を取り下げるという戦略である。起訴プロセスを選挙キャンペーンに利用しそのまま逃げ切ろうということになる。
当選さえしてしまえば「自分に恩赦を与える」というオプションと「トランプ氏が支配する司法省が起訴を取り下げる」というオプションが出てくる。アメリカの法律にはさまざまな規定がある。これらを掘り起こして自分達の有利になるように恣意的に運用するというのがいかにもアメリカ流だ。
この戦略は成功する可能性がある。普通の大統領選挙であれば経済政策などが議論の対象になる。ところが今回の選挙では「自分はディプステートに虐められている。これを許せば今度はあなたたちが虐げられるだろう」という訴え方をしているそうだ。これに賛同する人たちがいる。かつては日本、中国、メキシコ、ロシアなどが盗んでいると言っていたトランプ氏だが今のお気に入りはディープステートのようだ。
そもそも起訴されている人を熱心に応援する人が多いのはどうしてなのだろうか。実はバイデン大統領の経済政策は失敗したと考える人が多い。特に大統領が約束したインフラプロジェクトの成果を実感できていないという人が多いようだ。
バイデン大統領に投票した人たちのうち19%は「誰に投票するかわからない」あるいは「誰か他の人に入れる」と言っている。トランプ氏に投票すると言っている人も6%いるそうだ。42%が経済状況が悪化したと考えており経済政策は支持されていない。バイデン氏を支持する重な理由は「過激主義に対する懸念」だった。トランプ氏を抑えるためにはバイデンしかいないというのが主に支持される理由ということになる。
バイデン氏支持者、経済に不満 他候補に投票も=世論調査(ロイター)
状況を整理すると次のようになる。
バイデン政権の政策がうまくいっていない。このためトランプ氏の勢いが衰えない。大統領になってしまえばあらゆる手段を使って裁判プロセスの妨害ができるようになる。だが仮に有罪判決が出たとしても大統領への立候補ができなくなるという規定はない。たとえ有罪で一生刑務所から出られなくても。その人が大統領であってはいけないという決まりは存在しないのである。
仮に人々が「有罪になる疑いがある」か「有罪である」ことを織り込み済みでトランプ氏を大統領に選んだとすればそれを理由に下院が弾劾裁判を起こすことも難しいだろう。
投票によって提示されるアメリカの「民意」がいかに強力なものかがわかる。その是非はともかくとして、おそらくはこれが本来の国民主権というものなのかもしれない。