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安倍政権が戦争をやりたがっているというのは、いくらなんでも言い過ぎ

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NHKでヒトラーの特集をやっていた。政権初期の経済対策について時間を割いているのが特徴的だった。特集によると、ヒトラーは全国民に仕事を割り振り人気を集めた。福利厚生を充実させ、週休二日制なども導入した。さらに、自動車産業を振興し、全国に高速道路網を張り巡らせた。このため、戦争に突入してからしばらくの間は国民は好景気の恩恵を享受したのだという。
いくつか疑問がある。第一の疑問はなぜソビエトに戦争を仕掛けたのかということだ。当初、ドイツは軍事的に圧倒的に優位だった。独ド不可侵条約があり、ソビエトの侵攻を心配する必要がなかったことも一因になっている。そのままの状態を維持していれば、少なくともしばらくの間は失業対策としての戦争を維持できたのではないだろうか。
もう一つの疑問は、お金を借りることができなかったドイツ政府がどうやって公共事業の原資を得たかという点だ。こちらは調べがついた。公共事業を受注した企業がメフォ手形という手形を発行したのだという。引受先は銀行になっていて、最終的には中央銀行が信用を担保していた。発明者はヒトラーではなく、その前任者たちだったようだ。ヒトラーの政府は現金を用意することなく、国債も発行せずに公共事業ができたのだ。
さらに、高速道路の労働者は給与を得られなかったらしいという記述が見つかった。食料や住居などを現物支給されていたのだという。いわば勤労奉仕だが、それでも失業よりはマシだった。後には兵士が増員され、それが公共事業のような役割を果たすことになった。もっとも、戦争終結期には極寒のソビエトに送られる兵士も多かったのだから「余暇」どころではなかっただろう。
労働者は賃金は得られなかったが、休みと福利厚生施設が与えられていた。さらに「ドイツ民族を復興する」という崇高な目的まであったのだ。現代でいえば、給料は得られないがネットゲームし放題みたいな政策は人気を集めるかもしれない。そう、考えるとどちらがマシなのか考えさせられる話ではある。
海外からの支援は得られず、外貨もなかったので、公共投資を支えた資金は資金は国内で調達されていた。ということは、しばらくの間食べるのに困らないほどの資金が蓄積されていたことになる。ドイツはすさまじいインフレに見舞われており。失業者もあふれていたのだが、そんな不況の中でも「持っている人は持っていた」ことになる。不況とは、持っている人が資金を手放さないということなのだ。
メフォ手形は償還期限を過ぎても引き当てることができなかったようである。償還期限はあったが、逃げ水のように引き延ばされたのだ。また、企業も一定以上儲けることが禁じられるようになった。一定以上の儲けを使って国の証券を買わされたようである。国民にも貯金が奨励された。これも戦争の原資になったようである。つまり、戦争を継続しなければ、ヒトラーの甘言に沸き立っていた人たちが、彼に怒りをぶつけるようになるのは時間の問題だっただろう。このようにしてヒトラーは勝ち続けるしかなくなってしまったのだ。
メフォ手形の原資については推測が多い。資料の多くが戦争で散逸してしまったのだそうだ。だから、ヒトラーの経済政策は評価が分かれる。結局は維持不可能なスキームだったのだが、中には「良い政策だ」と評価する人もいる。結果的に企業や資産家から資金を巻き上げて、格差を縮小したからだ。生産資源も破壊されてしまったので、格差縮小政策としては効果を上げている。よく、最後の希望は戦争」という人がいるが、それを地で行く政策であることは間違いがない。
よく、安倍政権の政策はヒトラーと比べられることがある。安倍政権が戦争のできる国づくりを目指しているのではないかというのだ。ヒトラーと比べる限り、この推測は間違っていると言えそうだ。戦争をするためには国民を抱き込む必要があるのだから、最初はポピュリストとして国民受けする政策を実行するはずである。しかし、安倍政権はどちらかといえば企業寄りの政策を実行している。
また、ヒトラー期のドイツには「世界情勢に対する敵意」のようなものがあり、これが他国への侵攻の要因になった。日本はどちらかといえば「アメリカ中心の平和」に対する信認があり、国民の多くが周辺諸国への敵意を持っているという状態ではない。
一方、安倍政権にはヒトラー期のドイツと似ている点もある。
ヒトラーを首相にした保守政治家たちは共産主義の台頭を怖れて「突破力のありそうな」ヒトラーに期待した。そうして一度はクーデターに失敗して投獄された男を首相に祭り上げたのだ。ドイツには緊急時に内閣に全権を委任することができる法体系があり、それを利用された。こうした体系を作り出したのはヒトラーではない。安倍政権は憲法改正をして似たような条文を盛り込もうとしている。憲法改正はできるかもしれないが、それを利用するのは別の人になるだろう。
現在、政府は国民の貯蓄を原資にして借金をしている。しかし、これが破綻しそうになると「政府は直接通貨を発行すれば増税しなくても済む」などと言い出す人が現れるのだ。経済がわからず、解決する知恵も意欲もない政治家はこうした甘言にやすやすと乗せられてしまう。仮にこういう提案を言い出す政治家が出現したら、その人はヒトラー候補と呼ぶ事ができるだろう。


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