スコットランド行政府のスタージョン元首相が一時拘束された。疑惑はSNPが集めた資金に関するものだったが一時釈放されたことから逮捕のために十分な証拠を集めることができなかったものと思われる。特定の政党が急進力を高めるために政治的にほぼ不可能なアジェンダを設定し、その裏で腐敗してゆくというのはよくある話のように思える。だが報道を見ても「可能性」に関する言及が一切見られない。実はスコットランドではこの手の発言がかなり厳しく規制されているようである。
報道は突然のものだったようだ。警察が「ある女性を逮捕した」というニュースがあり、それがスタージョン元首相(英語では第一大臣)だったということがわかった。半日ほど拘束されたが更なる捜査が必要ということになり釈放された。スタージョン氏は「自分は潔白である」と主張している。
捜査当局が調べているのは66万ポンドの寄付金である。そもそもスタージョン氏の首相辞任はかなり急に発表されたがなぜ辞任に至ったのかについて明確な説明は行わなかった。このため「何か裏で大きな問題が起きていた」と考えると辻褄はあう。
辞任の表明からしばらくして、夫で元SNPの最高経営責任者のピーター・マレル氏が逮捕されておりマレル氏の母親の家からは豪華なキャンピングカーが押収されている。二週間後には会計責任者のコリン・ビーティ氏が逮捕されている。今回のスタージョン氏を含む3人は結局「捜査が進展するまで釈放」という扱いになっており疑惑は中に浮いたままである。
突然の辞任や周辺にいた人たちの逮捕など状況的には極めて怪しいのだが報道は抑制的だ。
スタージョン前第一首相の逮捕、何が問題になっているのか 英スコットランド
スコットランドの法律はかなり厳しいようだ。BBCの解説によるとスコットランドは将来の裁判に影響を与えかねない言論はメディアだけではなくソーシャルメディア上の政治家だけでなく一般の人々でも処罰の対象になるそうだ。少し長いが引用する。
Despite her release, police have said the case remains active for the purposes of the Contempt of Court Act 1981.
It means everyone has to be careful about what they say to avoid potentially prejudicing any future trial.
This applies to politicians and members of the public on social media as well as broadcasters and newspapers and the rules around what can and cannot be said about this – or any other – case are interpreted much more strictly in Scotland than in some other parts of the world.
Scotland is not the United States, for example, where pundits merrily speculate about the guilt or innocence of a suspect long before the case goes anywhere near a jury.
Why was Nicola Sturgeon arrested and what happens next?
ここからあくまでも一般論ということになるのだが、イギリスのEU離脱やスコットランドの連合王国離脱などの「できるかどうかわからない」ほどの高い政治的目標は求心力を高めるために利用される可能性がある。
スコットランドの場合はかなりの額の寄付金が集まっているのだが、そもそもスコットランド独立のための住民投票が実現する可能性が低い。つまりそのお金の使い道が決まるまでは誰かが預かっておかなければならない。
それでも連合王国政府のEU離脱後の経済政策は行き詰まっており、対抗勢力としてのSNPの人気は高い。2021年の議会選挙では歴史的勝利を収めていた。SNPはスコットランドの独立を訴え続け急進力を維持し続けてきた。人気が高かったため「なぜ突然辞任するのだろう」と言われてきたのだが、政治家としての出口を模索する動きだったのかもしれない。
現在のSNPの党首であり首相はイスラム系のハムザ・ユサフ氏だが、晴れない疑惑と66万ポンドの資金を抱えつつあまりまとまっているとは言えないこの政党を引き続き率いてゆくことになる。BBCはユサフ氏の抱える問題についても短く言及しており「なんらかの内紛要因」も抱えているようである。
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