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ボリス・ジョンソン英国元首相が押される前に自ら崖を飛び降りる

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ボリス・ジョンソン元首相が議員辞職した。ロックダウン破りのパーティーの後の「言い訳」が虚偽答弁であったと問題視された。ただこれが直ちに議員資格の停止に結びつくことはないはずだった。このためジョンソン氏は「押される前に飛び降りた」などと言われている。元首相は最後のステートメントでも「私を追い出そうとしており結論ありきの調査だった」と調査委員会を非難している。

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声明の中でボリス・ジョンソン氏はこの法廷を「カンガルー裁判」と呼び労働党、自由民主党、SNPなどの野党を非難した。さらにBrexitを無効にしたい議員が保守党の中におり2016年の国民投票の結果を覆そうとしているとも指摘している。とりあえずありったけの根拠を並べて自分の正当性を主張しているということになる。

さらに「報告書は嘘っぱちだが自分は抵抗する手段がない可哀想な存在なのだ」と位置付けようとしている。

ただ「なぜ今辞めたのだろうか」という疑問は残る。ジョンソン氏は議員資格を一定期間停止される可能性があった。ただリコールでもされない限り議員辞職にはならない。押される前に飛び降りたと言われるのはそのためである。BBCは「この報告書をきっかけに選挙区からリコール請願が引き起こされるのを恐れた」と分析している。

CNNもかなり違和感を持ったようだ。政治的な意図というよりも「演出だった」としている。

議員辞職により、ジョンソン氏は政治生命の最後に至るまで自らの手で演出できるようになる。パンデミック中の行動を巡る調査の結果として補選が必要になったり、次回の総選挙で議席を失ったりすることはなくなり、国民から拒絶される不名誉な事態は避けられる。

今回の件で明らかにとばっちりを受けた人がいる。それがスナク首相である。慣例に従って「ジョンソン氏の名誉リスト」を修正せずにチャールズ国王に送ったことが批判されている。BBCによると名誉者リストは辞任する首相に「名誉ある人物」を指名する機会を与えるリストのことだ。スナク首相はこのリストの取り扱いに苦慮していたようである。

CNNのいう「パンデミックの行動による補選」が行われるとジョンソン氏だけでなく名誉リストに乗っていた側近たちも補選の対象になる可能性がある。つまりレポートが出る前に「飛び降りてみせる」ことでこの辺りのことが有耶無耶にできるのだ。ただしこれも保守党の将来を考えたというよりは単に自分の側近を守るための演技だった可能性が高い。

スナク氏の予想通り、このリストは野党だけでなく与党からも批判されている。慣例として首相は前任者の「名誉」に拒否権を発動してはいけないことになっているそうだが非常に不名誉な終わり方で自ら議員辞職した首相経験者に対して慣例を守るかどうかは議論の分かれるところである。ガーディアンは「いじめっことおべっか使いのリスト」と表現している。スナク首相もジョンソン内閣の閣僚として「おべっか使い」という評価なのだろう。

Sunak faced an outpouring of criticism from within his own party for allowing Johnson’s list. One formerly loyal Johnson aide said it was a “list of bullies, sycophants”.

このリストの持つ意味は大きいようだ。庶民院の議席はなくなり貴族院に議席を得る。既に貴族院には800人の議員がいる。新しく貴族院の議員になるのは7名だ。そしてそのうちの多くが「パーティーゲートの隠蔽に関わった」として人々に記憶されることになる。本当に彼らは貴族院ふさわしい人たちなのか、そもそもイギリスの貴族院は必要なのかという議論に発展しかねない。

野党の一部はこれを「保守党のソープオペラ(労働党のアンジェラ・レイナー副党首)」と言っている。つまりジョンソン氏の側近たちの名誉が守られても保守党のためにはならない可能性が高いのだ。

ボリス・ジョンソン首相は「実現しそうもないアジェンダ」を掲げて上り詰めた人の代表格のような政治家である。イギリスが不調なのは全てブリュッセルにいるEU官僚とそれに追随する一部の既得権益を持った政治家のせいであるという虚偽のメッセージは「EUからの独立」という壮大な夢が実現するまでは問題視されなかった。

だがそのメッセージが有効なのは「夢が叶わない」間だけである。Brexitが実現すると魔法が解けてしまう。最終的に残ったのは虚言癖があるがそれを改めることができない政治家という実像だけである。

最終的には報告書に追い詰められ自ら飛び降りるという選択肢を選ばざるを得なかったことになる。

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