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日本では詐欺電話の掛け子は逮捕されるだけだが、メキシコでは殺されて埋められることもある

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CNNの日本語版が「メキシコでコールセンターの従業員が袋詰めの遺体になって見つかった」という短い記事を書いている。どうやら不動産詐欺に関わっていたようだ。コールセンターというと整備された職場のように思えるが、日本流にいうと「掛け子」だったのだ。日本では特殊詐欺で逮捕されるだけで済むのだがメキシコの場合は口封じで埋められてしまうことがあるようだ。そもそもなぜ国は何もしてくれないのかが気になって調べてみた。どうもメキシコはそれどころではないようである。

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メキシコのグアダラハラ近郊で45個のバッグが埋められているのが見つかった。中に入っていたのは5月に行方不明になった人たちの人骨であった。ある種の不動産詐欺や電話恐喝に関与した可能性があるという。

BBCもこの事件を報道している。メキシコはアメリカ合衆国向けの不動産電話詐欺が「産業化している」ようだ。悪名高い犯罪組織「ハリスコ新世代カルテル(CJNG)」によって運営されていたとBBCは書いている。

日本でもフィリピンの入管施設から「詐欺」の指令が出ていたという問題があった。発展途上国から日本のような豊かな国に向けて詐欺が行われるという意味では似たような事例だ。だが、メキシコのケースはフィリピンよりもずっと組織化が進んでおり、さらに言えば詐欺加害者の処遇も日本よりも過酷であるということがわかる。

「弱者が搾取され加害者化する」という非常に痛ましいケースだがなぜ国は何もしないのか。

メキシコは長い間「麻薬戦争」と呼ばる闘争を続けていると言われている。その歴史は意外と複雑である。

元々は地域権力と麻薬業者の間に癒着があったようだが、その権力者が地元のギャングに代わっている地域が出てきている。メキシコは州の権限が強い連邦制の国家なので州の政権が破綻すると「無法状態」になる。さらに2006年にカルデロン大統領が「麻薬戦争」を宣言し麻薬カルテルとの戦いに軍を動員したことで暴力の連鎖が始まった。麻薬戦争で命を落とした人は40万人以上に昇るという報道もある。

このため失踪者の数は当局が把握しているだけでも10万人を超えているそうだ。45の遺体はそのうちのほんの一部なのだということがわかる。

現在のロペスオブラドール大統領も明らかに統治に失敗している。軍が麻薬組織のメンバーを勝手に処刑したとして問題になっている。大統領は「人権侵害」の批判を恐れて調査を約束しているのだが、そもそも軍も掌握できていないということになる。

ジャーナリストたちは政府の汚職体質を糾弾しつつ麻薬戦争にも対峙しなければならない。このため大勢の記者が殺されている。2022年には13名が亡くなっている。しかし、ロペスオブラドール大統領は会見の中に「ウソをつく人は誰だ」というコーナーを設け記者を批判しているという。

TBSのこの記事は「報道の自由が守られなくてもいいのか?」と問題提起しようとしているのだが、そもそも報道の自由より前に「最低限の国民の安全」という基本的人権すら守られていないという現実がある。報道の自由も民主主義も「国民の基本的人権」の上に成り立っている。メキシコは既にこの基本的人権が連邦レベルで保障できていない。

別の人権団体は「2022年8月の時点で既に18人のジャーナリストが亡くなっている」といっておりそもそも何人のジャーナリストがなくなっているのかさえ把握できない状態のようだ。

国が国民の基本的人権を保障できなくなるという状態を今の日本で想像するのは難しいのだが、メキシコを見るとそれがどんなものなのかということがよくわかる。

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