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アメリカは異星人に気球で狙われていると本気で信じる人たち

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日本のメディアでも米中気球合戦の話題は広く取り上げられている。当事国のアメリカはさぞかし揺れているのだろうと考える人も多いかもしれない。だが実際にはそれほどの脅威とは捉えられていないようだ。ABCのYouTubeをみたが出演者たちがニヤニヤと気球について話している。ただ話の内容がどうも何かおかしい。「地球外生命体」がどうなどと言っているようなのだ。英語が苦手なせいで聴き間違えたのだろうとその時は思った。だがそうではなかった。

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確かに最初の気球はバス3台分と言われる計測機器を積んでいたため「中国からの偵察気球なのではないか」と騒ぎになった。アラスカから大西洋に抜けるまでバイデン政権が何もしなかったことでトランプ前大統領らが「なぜ撃ち落とさないのか?」と批判をはじめ騒ぎになっていた。

ただ、一度見つかると「実はこれも怪しいのではないか」と思われるものが次々と出てきている。

アメリカ合衆国政府もカナダ政府もこの対応に追われている。例えばBBCによるとヒューロン湖で見つかった気球を打ち落とすために使われたAIM-9Xサイドワインダーの価格は1発当たり40万ドルなのだそうだ。円安が進んでいる現在の円換算は5,280万円になるという。1発外しており2発目が当たったそうなのだがつまりは気球の処理に1億円以上かけている計算だ。カナダ政府も捜索のためには積雪量の多い山岳地帯を含む3,000平方キロメートル探す必要があると言っている。

もともと世論対策だったことを考えるとこれは法外な支出といえる。アメリカ政府は債務上限に達しており6月に政府の資金は枯渇するという状況だ。だが世論はそれだけでは収まらず「実は宇宙人の襲来なのでは?」などと言い出す人まで現れた。

アメリカでは自分達の平穏な生活が何者かに脅かされていると信じる人が多いのだろう。さらに科学的に厳密な表現を理解できない人も増えている。これが陰謀論が広がる素地になっているようなのだ。

北方軍のグレン・バンハーク司令官が「飛行物体が異星人に関係したものだった可能性は排除していない」と説明したことで騒ぎが広がったようだ。特に二回目以降の気球はどこから飛んできたものかがわかってはいない。真面目な司令官は「特定できない以上あらゆる可能性は排除できない」と科学的に正しいことを言ったに過ぎない。

明確に否定しなかったことから「その可能性がある」という人たちが出てきたのだろう。ホワイトハウスの報道官が否定する騒ぎになった。ジャン=ピエール氏は「大切なこと」なのでとばかりに二回言っている。

おそらく日本で気球から「宇宙人襲来」を連想する人はそれほどいないだろう。アメリカでは陰謀論が広がりやすくなっていることがわかる。また、こうした陰謀論が話し合われる言論的な空間も形成されていることも窺える。

バイデン政権は中国をライバル視することでアメリカの世論を一つにまとめたかった。だがアメリカには「台頭する移民たちに主役の座を奪われるのではないか」と心配する人たちが大勢いる。これが「外から何者かに狙われている」という漠然とした被害者意識につながっているのかもしれない。バイデン政権の対中強硬姿勢はこれを刺激してしまったのだろう。あとは中国人だろうが宇宙人だろうが「誰かが外からアメリカを狙っている」ということになる。

もちろん世論対策が必要という意味では実は中国も同様の状況にあるのかもしれない。

中国政府も「アメリカからの気球が見つかった」と騒ぎ出している。アメリカが説明するまで自分達も説明しないということにしたいのだ。ただ報道を見る限り実物を提示したり写真を見せたりはしていないようだ。またSNSでも騒ぎになっていない。Quoraでこの件について書いたところ「偏西風に逆らって飛べる気球などあるものか」という冷静なコメントがついた。

確かにそれはそうだ。

メンツを気にする中国政府もまた大衆に向けて「自分達は悪くない」と主張し続ける必要がある。ただ映像的証拠を示さなくても反論が成り立ってしまうところから「アメリカがやっているなら自分達も悪くない」と考える人が多いことがわかる。ジャーナリズムが発展していないため「政府の言い分を検証する」という文化が育っていないうえに、西側に対する被害者意識があるのだろう。かつて重要な港湾を切り取られて植民地化されたという歴史があるからだ。このため本来は優秀なはずなのに国力の増大が遅れたと考える人は少なくないはずである。

日本でも気球が見つかった。以前から東北地方に気球が飛んできているという話があった。だが日本は専守防衛のため気球が攻撃してこない限り撃ち落としは難しいのだろう。そのため政府はこれを認めてこなかった。

だが今回の騒ぎで「実は気球を目撃していた」とする報告例が複数上がっている。

何もできない日本政府は外交ルートを通じて「領空侵犯は絶対に認められない」と抗議したそうだがそもそも中国は気球を飛ばしたとは認めていないのだから実質的には何も意味はないだろう。おそらく政府が何もできないという事実を目の当たりにして状況を心配する人も増えてくるものと思われる。

では日本人は何を恐れているのか。

先日、中国人が沖縄県のある島を買い中国のSNSでバズったという話題をお伝えした。これが、単なる「ネタ」には終わらずSNS上では静かに波紋を広げているようだ。

政府もSNSの懸念に対して応えてゆく必要があるのだが法的には何もできない。安倍元総理の後継として期待されていた保守の星で経済安全保障担当の高市早苗さんは「法的には何もできないのです」と説明せざるを得なかった。

日本にも「中国の勢いに侵食されるのではないか」という懸念がある。気球騒ぎはこれを刺激することになるだろう。

こうして風に流されるふわふわとした小さくて白い物体は各国に決して小さくない影響を与えている。

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