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「シン・日本共産党宣言」をきっかけにリベラル識者たちが日本共産党に疑念を抱き始める

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日本共産党方面が何やら騒がしい。「シン・日本共産党宣言」という本を出した共産党員が「分派を形成している」として除名された。これを取材するマスコミに共産党幹部が噛み付いたためマスコミ方面が騒ぎになっているという。

統一地方選挙への影響を懸念する人もいるが、むしろリベラル勢力が共産党離れを起こすきっかけになるように思える。やはり共産党は自分達が思っているような存在ではなかったことが明らかになってしまうからだ。その意味では「メディアとの交戦」を選んだ共産党執行部は早く路線を修正した方がよさそうである。

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改めて記事を拾ってみて驚いた。もはや日本の政治にはほどんど影響がない共産党だがマスコミの関心はかなり高かったようだ。これでも一部に過ぎない。

日本の政治への影響を懸念するものはなくどちらかというと「内紛扱い」されている。中には「分派」というかつての共産党の分裂騒ぎを思い起こさせるワードも飛び交う。中にはリベラル系の識者やメディアの声も混じっている。ただ、共産党側は「分断工作だ」と憤っているだけのようである。



元々のきっかけは松竹伸幸さんという人の「シン・日本共産党宣言」という本だ。党首公選制を訴えて23年間党首の座に「居座って」いる志位和夫体制を批判した。ただ、年齢を見て興醒めした。松下さんは67歳で志位さんは68歳なのだそうだ。

共産党の問題は分派闘争ではなく高齢化による内部崩壊だろう。党員数は50万人をピークに30万人を割り込んでいるという。この党員たちが細々と支えてきた赤旗も縮小傾向だ。じわじわと先細る現状に危機感を募らせている人は多いだろう。

おそらく松竹さんもその一人だったのではないか。

松竹さんはジャーナリストなのだが今回初めて名前を知ったと言う人が多いに違いない。つまりあまりWebでの情報発信力はないが今回内紛・除名と言う騒ぎになり初めて注目された。

松竹さんは志位さんが長年居座っている姿勢を「民主的でない」と主張している。では実際に日本共産党はどの程度「民主的な政党」なのだろうか。日本共産党は「民主集中制」と呼ばれる不思議な体制を敷いている。これは中国共産党が「中国には民主的な選挙がある」と主張しているのと同程度には民主的だ。つまり我々一般が考える民主主義とはかなり異なっている。

仮に日本共産党が政権を取れば日本の民主主義も「民主集中制」を採用するのだろう。実態は一部の人たちの寡占独裁と集団指導体制になる。この寡占独裁を赤旗の読者のような労働者が支えるという形態である。

仮にこの形態が共産党党員を幸せにしているのなら長期衰退傾向にあっても外から文句を言う筋合いはない。ところが内部からの異論に執行部は対応できなかったことから「さほど幸せではない」人たちがいることがわかる。あとはこれが「ほんの例外」なのかそうでないのかが問題になる。統一地方選挙で結果が出るだろう。

今回の問題はむしろそこではないように思える。これまで何とか自分達を言い聞かせてきたリベラルが「ああやはり共産党には問題があった」と気がついてしまいそうだ。森を作る人も森の中の生態系もざわめいている。

「左傾化」しているという日本のリベラル系メディアだが共産党のような独裁体制(共産党が主張することろの民主集中制)を採用したいとまでは思っていない。それでも日本のリベラルメディアが共産党の独裁気質をあまり問題視してこなかったのは村山富市総理が政権入りをきっかけに自衛隊を容認し、社会党が没落してしまったからだろう。

リベラルメディアはその政治的拠点を失ったものの再構築できなかった。現在では森そのものが消滅の危機にある。

今回日本共産党がリベラル系メディアと交戦する道を選んだのはリベラルメディアにとっては良いことだろう。日本共産党は「メディアは自分達の主張に従うべきだ」と言っておりメディアの忠告に従って「確信的利益」を手放すことはないだろう。独裁と言おうが共産党の指導と言おうが民主集中制と言おうがこうしたトップダウンの姿勢は変わらない。

結局、志位和夫さん・田村智子さん対朝日新聞・毎日新聞との間で言い争いになった。志位さんが間違えて産経新聞を名指しすると「見せ物としてこれ以上に面白いものはない」とばかりに週刊誌や右派メディアまでが騒ぎ立てる状態になっている。政治的にあまり影響はない。単に騒ぎとして面白いだけだ。

では松竹さんがいうような民主的な共産党は作れるだろうか。おそらくこれは無理だろう。

よく知られていることだが、日本共産党の成り立ちには意外と「ガラス工芸」的繊細さがある。それを守れるのはおそらく志位さんのような理論職人だけだろう。

戦後合法化された日本共産党は制憲議会にも参加し体制に融和路線を取る。GHQが共産主義者も抱き込んで陣営を固めようとしたということなのだろう。当然スターリンはこれが面白くない。日本共産党を批判し日本共産党は迷走の歴史を辿り始める。

宮本顕治ら国際派は「批判を受け入れるべきだ」としたがそれに反発する徳田球一・野坂参三ら所感派が北京に逃亡した。北京機関・徳田機関などと呼ばれるものを作り武装闘争路線を取る。その後野坂は帰国し国際派と和解した。ところがなぜか野坂は1990年代にスパイ容疑をかけられ除名されてしまう。

日本共産党の歴史はソ連や中国の影響を背景に内部の人間関係が絡む非常に複雑なもので外から見ても内情がよくわからない。もともとスターリンらの批判を受け入れたはずの宮本路線はその後次第に中国やソ連と距離を置くようになりその思想は不破体制に引き継がれた。

こうして作られた繊細なガラス細工は赤旗が支える収益とともに今の執行部に引き継がれている。今でも日本共産党の赤旗ではスターリンはかなり否定的に描かれており、中国共産党の拡張主義に対する批判もある。志位和夫委員長が習近平体制を批判するコメントを出していたりする。

これに加えてもう一つのガラス細工がある。それが「暴力と革命」の評価である。

分派闘争の経緯は日本共産党に今でも影を落としている。警察庁は51年綱領を根拠に今でも日本共産党を監視対象にしている。一方で日本共産党側は51年綱領は綱領でないという不思議な言い訳をしている。日本共産党は若者をターゲットに「共産党のいう革命はドラスティックに社会を変えることで決して怖いものではありませんよ」と宣伝するWebページを公開している。

ただ、おそらく若者は今の共産党には(あるいは政治そのものにも)興味がないだろうし、そもそも説明に無理がありわかりにくい。これを読んで共産党に投票しましょうという人が増えるとは思えない。さらに言えば彼らが守ってきた赤旗がもたらす収入は先細りしつつある。

このような不思議な総括を全て引き継ぎ、党内に残る反米路線を整理し、さらに現在の政治状況に合致したリベラルな政党を作ることが全く不可能とは思わない。だが「こうしたものを切り離して新しい政党を作る」方がずっと簡単である。ただ60代後半の人たちに「これまでやってきたことを全て捨てて新しい政党を作る」のはかなり心理的な障壁が高いだろう。彼らはこれまで作ってきたものをめぐって争い続けなければならない。

仮に今回の構造を素直に見れば「リベラル」がこのまま共産党に頼るのは無理なんだろうなと言うことに気がついても不思議ではない。だが実は日本のリベラル界隈もかなり高齢化が進んでいる。最近のニュースを見ると毎日新聞が体制を縮小させていることがわかる。だが毎日新聞だけ溶けかかっているわけではない。新聞などの紙媒体全体が消えかかっている。日本で最も歴史が古い週刊朝日も休刊が決まっている。

共産党が消えかかっているだけではなく実は日本の言論を支えてきた紙媒体が(リベラルも保守も)一斉に消えかかっている。これは「森が消える」ということなのだが、当然森の中で暮らしてきた生態系が破壊されると言うことを意味している。おそらく中の人たちはこの深刻さに気がついている。

「Web媒体は当てにならない」などと言っている場合ではないということになる。誰かが新しい森を育てないと生態系そのものがなくなってしまいかねない状態になっているといえるだろう。

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Comments

“「シン・日本共産党宣言」をきっかけにリベラル識者たちが日本共産党に疑念を抱き始める” への4件のフィードバック

  1. William 47th Jr.のアバター
    William 47th Jr.

    文章を読んで違和感を持ちました。

    ひとつめ。
    こういういいかたをすると語弊がある (話を単純化しすぎだという意味で) のだけれど、日本共産党が「分派」などを排除するのは今回がはじめてではないですし、今回のような「大物」はもちろん末端の党員に対するものも含め、同党ではよく行われてきた (今も行われている) 組織運営手法です。
    そんなことはちょっと日本の近現代史を調べればわかると思うんですけどね。たとえば川上徹の著書なんかでもその一部を取り上げていますよね (あくまでも例です。ほかにもあります)。

    ふたつめ。
    戦後だけ見ても、日共の指導部の方針に異を唱えて自ら組織を離れたり、逆にそのことで組織から排除されたりした人は大勢います (いまでもいます)。その一部は社会党系、新左翼、現在の民主党系、あるいは党派から距離を置くいわゆる「市民派」などにも関わっていきます (これらの起源が全部共産党にあるという意味ではないですよ、念のため)。
    なんでもいっしょくたに「リベラル」とまとめて、「リベラルだから日本共産党を支持しているのだろう」と仮定するのは分析が雑すぎるのですよね。上のようなひとたちは、どっちかというと日共は嫌いだけど、動員力などの影響を無視できないから協力し合ってるだけじゃないでしょうか。

    以上の2点から、「リベラル勢力が共産党離れを起こすきっかけ」だとか「『リベラル』がこのまま共産党に頼るのは無理なんだろうなと言うことに気がついても不思議ではない」といった感想は的外れかと思います。今回のことについて大方の人は関心も持たないでしょうし、あえて問うたところで「よその組織内の内紛などどうでもいい」としか答えられないでしょう。

    ちなみに、「自分は右でも左でもないが……」と前置きしてから発言する人って往々にして、「右」や「左」に自分の勝手なイメージを投影しておいてそれを否定するという話法を用いがちだとおもいますね (個人の感想です)。

    1. 個人のご感想をありがとうございました。お気持ちお察しします。それにしてもWillam 47th Jr.とは素敵なお名前ですね。
      山添拓さんのような30代の議員さんもいらっしゃいますから若い方が中心となって赤旗に代わる収益モデルを作れるといいんでしょうね。とにかく現在の長期衰退傾向を食い止めないと政党が維持できません。

  2. William 47th Jr.のアバター
    William 47th Jr.

    編集後記に書いてらっしゃるのを見ましたが、私は「共産党の支援者」ではないですよ。ですから当然「表立って支持ができない」ということは起こりませんし、察していただく「お気持ち」も持ち合わせてはおりません。
    私は、文中で述べた「どっちかというと日共は嫌い」の方の人です。あの文を読んでそこが読み取れないというのは、よくよく思い込みの強い方なのか、単に分析が雑なのだとおもいます。
    あと、「個人の感想」は最終段落だけです。まあ以上述べたように、感想ではなく事実のようですね。では。

    1. わざわざ重ねてご返信いただきありがとうございました。お気持ちはお察しします。

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