話がおかしい人が一人混じっていると全体の空気が微妙になることがある。国際コミュニティにおける中国政府の対応にはどこかこうしたチグハグさがあり世界を困惑させる。日本と韓国向けのビザ発給を停止したようだ。報復とみられる。どうしてこんなことになったのか。
中国は新型コロナを管理できなくなった。正確には締め付けをきつくし過ぎてしまい人民のコントロールができなくなったといって良い。そのためにゼロコロナ政策を大胆に転換した。政府のいうことは全て正しくなければならない。今度は「コロナは安全になったのだから」という理由で対応のために作った施設が次々と撤去されているようだ。
中国政府は政府が威厳を保つためには政府が言ったことは全て正しくなければならないと考えている。人民は政府のいうことは信じていない。SNSの情報を元に右往左往しているようだ。胃腸薬が売り切れたという話もある。
今度は中国からは変異株は発見されていないなどと言い出した。変異株は自然現象であり政府がコントロールできる対象ではないというのが西側の了解なのだがメンツと体裁にこだわる中国政府は「変異株が中国から出れば政府のメンツが保てない」と考えるのだろう。500地点の観測網を設けているから監視は十分だと胸を張る。
中国政府は新型コロナウイルスが「中国ウイルス」と言われていたことにまだ腹を立てているようだ。確かにトランプ氏の言い方は酷過ぎたがあれはもうずいぶん昔のことである。「まだ恨んでいるのか」という気になる。
中国人民が体裁とメンツを気にする政府の被害を受けるのは仕方ないのかもしれないのだがWHOにも感染者数を報告しなくなってしまったようだ。実体が分からなくなりWHOは困惑している。WHOは中国政府が体裁を気にすることがわかっているのだろう。「きっと集計が遅れているんですよね」と優しく忖度している。WHOもあまり当てにできそうにない。
そんな中、中国最大の祝日である春節が始まる。今年は大晦日の1月21日から一週間お休みとなり翌週の土日が振替出勤日となるそうだ。今年も大勢の人が移動するものとみられる。おそらくコントロールされていない大勢のウイルスを持った中国人が国内外を移動することになるだろう。国民保護の観点から各国政府が中国からの移動者を制限するのは当然のことだ。日本政府は中国からの人の流れを止めたわけではない。「増便は受け付けない」と言っている。春節対応で検査体制は増やせないだろうからこれは仕方がない。さらに「72時間以内の陰性証明」を求めている。極めて真っ当な措置だ。
だが中国政府はこれをメンツを潰されたと感じたようだ。韓国では中国から入国してきたコロナ陽性者が逃亡するという事件があり大々的に報道された。何もしないわけにはいかなくなった韓国政府は中国内の韓国公館を通じた観光用の短期ビザ(査証)発給を停止し、渡航者には入国前後の検査を義務付けていたそうだ。ビジネスは止めなかったが観光旅行客は管理しきれないと思ったのだろう。
本来ならば中国政府の方から「私たちの人民が迷惑をかけました」くらいのことを言ってもよさそうだが、逆に「対抗措置」として韓国でのビザを停止し「差別的待遇をやめろ」と抗議していたようだ。このついでに日本でのビザ発給も止まったようだ。おそらく中国政府は「中国政府の言い分は間違っていませんでした、全て科学的であり問題はございません」と言ってもらいたいのかもしれない。
とりあえず中国政府の考えるコロナ対策に対する認識はどこかピントがボケている。このズレた大国とどう付き合ってゆくのが良いのかということになるだろう。その失敗例をアメリカに見ることができる。
アメリカ合衆国はベネズエラの政権を敵視し経済制裁を行った。ベネズエラ政府の対外資産を凍結したのだ。さらに野党勢力を応援し「暫定政府」を作った。この暫定政府に凍結した資産を管理させる予定だったようだ。ところが暫定政府はうまくゆかない。そのうちにベネズエラの石油が欲しくなり政府とも交渉を始めた。その結果「暫定政府」から「暫定大統領」が放逐されてしまう。暫定政府メンバーが与党と直接交渉できるようになったため「暫定大統領」が邪魔になったのかもしれない。
ところがベネズエラ政府はすでに統治に失敗している。国民は国を逃げ出しアメリカ合衆国に向かう。反政府の暫定政府を支援しているのだから「政府から迫害されています」といえば政治亡命だと認めてもらえるという気持ちもあるのではないかと思う。さらにコロナ対策を理由にして難民希望者を追い出していたタイトル42が執行停止になるという噂も広まり、国境に移民の「雪崩」が生じた。
バイデン政権は結局この雪崩を制御できず「一部をメキシコに引き取って欲しい」などと言っている。メキシコは2022年10月に一部を受け入れ始めたのだが数としては全く不十分な状況である。
日本でも「中国共産党政府が倒れればいいのに」と考える人は多いだろう。だがベネズエラ型の悲劇を見るにつけ「なんとなく安定したまま」で封じ込めるような方法を考えた方がいいように思える。専制主義の政権を壊したからといって、あとから民主主義の政権がニョキニョキと生えてくるということはない。
民主主義陣営の日本もそれなりにいろいろな問題を抱えている。コロナ対策にしても中国よりはマシなのだろうが死者数は抑えられていない。ここは他国の問題に首を突っ込まず自分達の問題に専念すべきなのだろう。