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日本の経歴詐称とは桁が違う。次期共和党下院議員ジョージ・サントス氏の経歴はほとんど全部が嘘。

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小さな嘘をつくより大きな嘘をついた方がバレにくい。小さな嘘をつくと辻褄が合わなくなるが大きいと却ってバランスが取りやすくなるからである。ニューヨーク州選出で下院議員に当選したジョージ・サントス氏のケースがそれにあたる。履歴書のほどんと全てが嘘だったということがわかったそうだ。「辞任しろ」という圧力が高まっているが本人は否定しているという。

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ジョージ・サントス氏はユダヤ系の家系に生まれバルーク大学(ニューヨーク市立大学バルーク校)とニューヨーク大学を卒業した後でシティグループとゴールドマンサックスで働いた……と思われていた。だがこれらは全て嘘だったそうだ。サントス氏はユダヤ系ではなくカトリックで、どの大学も卒業しておらず、たんにシティグループとゴールドマンサックスのために働いたと言いたかっただけで就職はしていないそうである。

サントス氏は経歴詐称を認めたそうだが、このまま1月に議員に就任するつもりのようだ。嘘は申し訳なかったが犯罪は犯していないというのがその理由である。

もちろんアメリカ合衆国でも経歴詐称は問題になる。おそらく企業で同じことをやれば解雇の対象になるだろう。当然サントス氏の経歴詐称も問題になっている。

共和党は即刻この人を会派から追放するべきなのだろうがそうはなっていない。理由は二つある。まず下院の議会構成は僅差で共和党が多数になっているに過ぎない。つまりいくら嘘つきだったとしても議会で多数派を握り続けるためには彼の協力が必要である。さらに共和党もバックグラウンドチェックをやっており経歴の嘘が見抜けなかったことで責任を問う声も出てくるだろう。

ではなぜこんなことが起きたのか。おそらくはこの偽の経歴が民主党に勝てる候補としてぴったりの経歴だったからだろう。でっちあげていただから当然なのだが「勝ち負けにこだわった」ことから出た人災の側面がある。選挙結果はそもそも僅差でありおそらく典型的な共和党候補では勝てなかったのだろう。

日本での候補者の選定方法を見ていると「そもそも政治家の家に生まれる」か「娘婿となって出馬する」か「誰かが連れてくる」ことが多い。つまり誰か身元保証人になる人がいる。縁故主義という批判につながることが多いがこれが「古くからの支持者に対する裏切り」の抑止力になっている。日本は個人を信頼しないのだ。

もちろんアメリカ合衆国でも「身辺調査(バックグラウンドチェック)」は行われるようだ。さらにディベートなどで個人の資質が審査される。だが、今回はそれよりも派手な経歴が優先されたことになる。

Quoraでこの話を最初に教えてくれたアメリカ人によるとこの地区には他に多数のライバル候補者がいたそうだ。アメリカはディベートなどをやって候補者を決めているはずだ。つまり少しでもおかしいところがあればバレていたはずである。ところがこの人の場合は「ほぼ全ての経歴が丸ごと嘘」だったので誰にも気づかれなかったようだ。逆に「この経歴なら勝てる」として最終候補者として選ばれ、そのまま当選してしまった。

ではこの地区の有権者が好む経歴とはどのようなものだったのか。彼の家系はブラジル出身である。祖父はユダヤ系のウクライナ人でナチの迫害を逃れてウクライナからブラジルに逃げてきた。市立大学からニューヨーク大学に進み(これは苦労して学業を修めた人によくみられる経歴だ)大手金融会社への就職を成功させた。その後は実業家としても成功している。そして彼はゲイを公言していた。

おそらくアメリカには「同性愛の方がかっこいい」と考える人もいるのだろう。サントス氏は「自分はゲイを公表していて(Openly Disclosed Gay)隠したことは一度もない」と主張している。それが嘘だという証明はできないのだが、実は女性との離婚歴があったそうである。こうなると「一体何か本当のことがあるのか?」という気になる。

当選が決まりニューヨークタイムスが「あれ、この人の経歴はちょっとおかしいのでは?」と気がつくまで誰も経歴詐称に気が付かなかった。

おそらく最後の砦は「実業家である」という点なのだろうが、ブラジル日報によるとサントス次期議員の収入源はブラジルでねずみ講ビジネスをやっているとして訴えられている会社である可能性があるそうだ。

よくアメリカの政治は長い期間をかけてディベートをやるから経歴詐称が起きにくいなどと言われることもある。だがそれは嘘つきが罪悪感を持っていることが前提になっている。この人の場合はおそらく筋金入りなのだろう。このため、就任の数日前まで誰にも経歴詐称を気づかれなかったのである。

CNNも一応この問題を政治的問題として真面目に取り上げたいようだ。だが司会者もコメンテータたちも「この話題をどれくらい真面目に取り上げるべきなのか」迷っているようである。中にはニヤニヤと笑っている人もいた。

ただし、彼を支持したユダヤ系のコミュニティや同性愛コミュニティはかなり真剣に憤っているようだ。特にユダヤ系のコミュニティは怒っているのではないかと思う。サントス氏は「自分はユダヤ人(Jewish)だと言ったことはなく」「ユダヤっぽい(Jew-ish)」と言っただけなどと言い逃れをしている。

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