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立て続けに送電設備が狙われるアメリカのちょっと悲しい事情

1970年代に育った子供たちはショッカーに代表される悪の組織が日本のインフラを破壊するというテレビ番組を見て育った。狙われるのは水道などのインフラや中東からのオイルタンカーだった。アメリカでは1990年代の終わりに「資本主義を壊滅させる社会騒乱」を題材にした映画が作られたりしている。だが現在のアメリカではこれが実際に起こっているようだと言われている。送電設備がサイバー攻撃などではなく物理的に狙われていて実際に停電被害も起きているのだが、まだ犯人は特定されていないようだ。このエントリーでは現代版のプロジェクトメイヘム(騒乱計画)について考える。

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アメリカ西部にあるワシントン州のピアース郡で月曜日に変電所などの送電設備が4か所襲撃された。何者かが設備に侵入し故意に設備を破壊したのだ。結果的に14,000戸が停電し散々なクリスマスになった。電力会社が停電解消に向けて作業しているがまだ電力が復旧していない家がある。作業員たちもクリスマスの休暇を台無しにされたことになる。

インフラを狙ったテロ的な行為はサウスカロライナやノースカロライナでも起きている。組織的な犯行が疑われるのだがどうもそうではないようである。

アメリカではトランプ政権末期ごろから「アメリカはディープステートと呼ばれる人たちに乗っ取られている」という陰謀論が広まっている。こうした陰謀論を利用する形でトランプ大統領が「選挙は盗まれている」と主張し議会襲撃につながった。

どうやらこうした陰謀論を信じている人たちの間で「アメリカのインフラを滅茶苦茶にして内戦状態を起こさないとこの国は取り戻せない」という考えが広まっているようだ。ノースカロライナ州のムーア郡のケースでは停電が何万戸にも及んだ。夜間外出禁止令が出され不要不急のレクリエーションプログラムなどが中止された。全郡の電力が止まってしまったため実際に治安の悪化が起きかねない状況だったのだろう。

仮面ライダーなら正義のヒーローが出てきてショッカーの悪の企みを阻止して終わりになる。だがアメリカではそうはならない。こうした陰謀論者は全米各地に広がっており普段は普通に社会生活を営んでいるからである。

東京新聞はトランプ大統領の影響で白人至上主義者によるテロ攻撃の懸念が強まっていると断定的な書き方をしている。東京新聞が根拠にしているのはCNNの報道だ。CNNは反政府組織が14ページに渡るインフラ襲撃計画をオンラインフォーラムに投稿していると書いている。

ところが厄介なことにこうした計画だけでは罪にならない可能性が高い。つまり計画する人と実行する人がいて初めて犯罪が成立するからである。捜査機関は実際に変電設備を襲撃した人たちを探すのだが襲撃計画を閲覧している人はおそらくたくさんいるのだろう。特定には至っていないようだ。

これまでアメリカで懸念されていたのはアメリカに敵対する国がサイバー攻撃を仕掛けてアメリカの国家インフラを攻撃するというような事態だった。

セキュリティについて継続的に扱っているWiredはどうやら国内の陰謀論者たちはもっと手っ取り早くインフラを攻撃できる可能性に気がついたようだと書いている。こうした事件は、ワシントン州、オレゴン州、ノースカロライナ州、サウスカロライナ州で起きていることがわかっている。これらはどれも物理攻撃によって破壊されている。

では彼らはなぜ送電インフラを物理的に攻撃しようとするのか。

CNNはLGBTQ+コミュニティのイベントを中止させるために変電設備を狙った可能性などについて言及している。普通に考えると「そんなバカな」と思える。だが「我々の想像の斜め上」という言葉がある。そもそもこうした情報を閲覧している人の数は多く「動機が想像の斜め上」ということになる。

ネットの極端な言動などスルーすればいいと思う。まともに相手をしても感情的にすり減るだけだからである。ただネット上の極端な意見を放置し続けていいということにはならないようだ。

内乱を起こして社会変革しようというような考えを「プロジェクトメイヘム(騒乱計画)」などと言ったりする。かつてこうしたプロジェクトメイヘムは映画の中で仮想的に語られるだけに過ぎなかった。プロジェクトメイヘムが資本主義を破壊するという映画「ファイト・クラブ」は1999年の作品だ。おそらくその当時のアメリカで実際に「プロジェクトメイヘム」が語られる日が来ると思っていた人はいないはずである。

だが、現在のアメリカにはこうした計画をネットに上げる人がおり、さらに「行動に移されて多くの停電被害をもたらしたのではないか」と恐れる人たちがいる。いずれ捕まるのだろうがまだ実行犯は捕まっていない。つまりこうした懸念は払拭されないままだ。さらにこうしたことが複数の州で起きていることから実際に行動してしまう人たちが一人ではないということもわかる。彼らはSNSによって緩やかに結びついているだけであって厳密には組織的な存在ではない。つまりファイト・クラブの時代よりも明らかにタチが悪い。

CNNによるとこの手の「プロジェクト・メイヘム(社会混乱計画)」は2020年頃から増えているそうだ。ちょうどトランプ氏が選挙に負けバイデン政権ができた頃である。もちろんトランプ氏がこのプロジェクト・メイヘムを指揮しているわけではなく単にそのようなムーブメントに乗っているだけなのかもしれない。アメリカ議会下院は1年にかけてトランプ氏と議会襲撃の関係を調査したが決定的な証拠は出てこなかった。

CNNなどトランプ氏に敵対的なメディアはこうした陰謀論を支持している人たちを社会の敵と位置付けようとしている。2024年に大統領選挙への出馬を検討しているトランプ氏が念頭にあるのだろう。問題はトランプ氏が出馬しないと決めたとしても社会に蔓延る陰謀論者がいなくなることはないということである。こうした極端な考えはアメリカ社会全体に薄く広く広がっている。

アメリカいるようなこうした極端な考え方を持つ人たちを防ぐためにはどうしたらよかったのだろうかと考えた。学校教育できちんとした政治社会教育をしておくべきだったのだろうなと思う。政治的リテラシがない人たちの間に情報が溢れかえったことが不安の原因になっているからである。

ふと、日本は今どれくらいアメリカの状況に近づいてしまっているのだろうかなどと考えた。かつてアメリカ人が「現実にはこんなことは起こらないだろう」と思っていたように日本でも多くの人が「アメリカで起こっているようなことは日本ではあり得ないだろう」と考えているはずである。

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