アルゼンチンで現職の副大統領の暗殺未遂事件が起きた。日本とは違って「支持者からもみくちゃにされた」中での凶行だった。ビデオの映像から引き金が引かれていることがわかるそうだが弾は発射されなかったようだ。銃が詰まっていたのだ。容疑者の特定も進んでおり「ネオナチのタトゥーが入っていたようだ」などと伝えられ始めている。大統領は民主主義に対する挑戦を非難した上で9月2日を「副大統領への連帯を示す休日にする」という宣言を出した。
- サインを求めて集まってきた支持者に紛れ込んでいた。
- 地元メディアによると容疑者はブラジル人のようだ。CNNによるとブラジル国籍で連邦警察に拘留されている
- 副大統領にはパタゴニアでの公共事業をめぐり汚職の容疑がかけられている。検察は禁錮12年と政治活動の禁止を求刑
だが例によってこれではよく事情がわからない。BBCの英語版には少し詳し目の説明が出ている。おそらくほどなくして日本語でも記事が出てくるだろう。
BBCの英語版によると容疑者は35歳のブラジル人だが母親がアルゼンチン人であり幼い頃にアルゼンチンに移住している。2021年にナイフ所持が理由で逮捕されている。ソーシャルメディアに残っている映像にはネオナチのタトゥが入った映像が確認できるそうだ。アパートから100発の弾丸の箱2つが押収されている。
Pictures of him taken from his social media posts and published on Argentine newspaper websites depicted him with tattoos associated with neo-Nazi groups.
Cristina Fernández de Kirchner: Gun jams during bid to kill Argentina vice-president
YoutTubeを検索すると確かに肘に鉤十字と車輪が組み合わされたタトゥーが入った映像がいくつか検索できる。SNSの情報拡散力の速さを実感する。
アルベルト・フェルナンデス大統領はこの暗殺未遂事件を民主主義への挑戦として非難した上で9月2日を「キルチネル・デ・フェルナンデス副大統領との連帯を示すために」休日とするよう宣言を出したとブエノスアイレスタイムスの英語版が伝えている。
このニュースがややこしいのはキルチネルという名前が二人分出てくるところとフェルナンデスという名前が複数出てくるという点だ。今回ターゲットになった「フェルナンデス・デ・キルチネル」副大統領は夫も大統領だった。このためキルチネル大統領が二人存在する。
また現在の大統領もフェルナンデス大統領だ。フェルナンデス大統領は両キルチネル政権で官房長官を務めていた。また逮捕された容疑者はフェルナンド・アンドレス・サバグ・モンティエル(Fernando Andrés Sabag Montiel)という名前であり、事件を発表した治安担当大臣の名前はアニバル・フェルナンデス(Anibal Fernandez)というそうだ。
BBCによるとフェルナンデス・デ・キルチネル副大統領は上院議長として不逮捕特権を持っているため、最高裁判所の特別プロセスを経ない限り収監されることはない。しかし大統領退任以降多くの汚職裁判に直面している。
アルゼンチン政府は過去何度かデフォルトを経験している。最近も債権国と交渉して負債を整理したばかりだが整理担当だった経済担当大臣がTwitterで辞表を発表して辞めてしまった。
数々の疑惑から身を守るためには常に権力の座に居続けなければならない。そのためには支持者たちに分配を続けなければならないのだが政府財政には限りがある。外国から金を借り続けるとアルゼンチン経済は信任されなくなり高いインフレが恒常化する。このためアルゼンチン国民は自国通貨が信頼できない。政府は米ドルの流通を制限し自国通貨の安定化を図っているためアルゼンチン国民は危険を承知で仮想通貨に頼っているそうだ。
アルゼンチンはかつて先進国だったため、没落した先進国がその後どうなるのかがよくわかる事例になっている。また臨時の休日が指定されたことからアルゼンチン政界が今後の混乱を警戒している様子もわかる。経済的に不安定な状態が続いているため動揺した市民による不測の事態も想定されるからだ。