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トランプさんをいじめるな。リズ・チェイニーさんが共和党予備選挙で敗北

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日本ではトランプ前大統領にスパイ容疑がかけられていたというようなことが話題になっている。中には有罪判決が出れば大統領選挙に出られなくなるのではないかという解説をするテレビ局などもある。さぞかし共和党には逆風なのではないかとも思えるのだが、逆の動きが起きている。トランプ氏を擁護する動きが広がっているようだ。しかも突発的な動きではない。ある方向に向かって着実に進んでいる。その中心にいるのはいつもトランプ氏だ。トランプ氏が赴くところすべてが政治的劇場に変貌する。参加者たちは「アクター」としてその中で生き生きと勝利を叫ぶのである。

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各媒体がリズ・チェイニー氏の予備選敗北を驚きをもって伝えた。リズ・チェイニー氏は連邦議事堂襲撃事件調査委員会に参加した2名のうちの1人だ。BBCも「チェイニー氏への嫌悪感」を持つ共和党支持者の声を紹介する。TBS News Digが伝えるところではトランプ氏は対立候補のヘイグ氏の応援に回り「チェイニーさんにはうんざりだ」「出ていけ」「お前はクビだ」などと演説してワイオミング州の共和党員たちから拍手喝采で迎えられた。

わざわざ一部の民主党員が支持政党を共和党に登録し直してリズ・チェイニー氏の支持に回ったようだが結果はヘイグ氏の圧勝だった。ワイオミングに「トランプ熱」が蔓延していることがわかる。

この話だけを聞いても「リズ・チェイニーさんの側にも個人的な問題があったのではないか?」と思いたくなる。つまり負けたのは反トランプの議員ではなくリズ・チェイニー氏自身なのではないかというわけだ。

トランプ大統領の弾劾に賛成した10名はアメリカではThe Impeachment 10と呼ばれるようだ。CNNのまとめによるとこのうちレースに生き残ったのは2名だけだった。4名は引退し4名は敗北した。生き残った2人はカリフォルニア州とワシントン州の選出でどちらも農業関係のリーダーのようである。背景は定かではないが「繁栄から取り残された」という怒りが比較的及びにくかったのかもしれない。

インフレが加速し中間層が経済競争から脱落するかもしれないという不安を抱えているアメリカの多くの地域で「トランプ熱」が蔓延していることがわかる。こうした影響が及んでいないのは経済的に成功している例外的な地域だけなのかもしれない。

そればかりではなくFBIはトランプ氏をいじめているとしてSNSなどで報復を呼びかける人たちも出てきているようだ。時事通信が伝えている。明らかにし法秩序への挑戦だがそれを気に止める様子はない。彼らはこれを自由を守る抵抗だと思っているのだろう。

トランプ氏が今回の件で大統領選挙への出馬資格を失うかどうかはよくわからない。民意から一定の支持があるだけでなく、政治的な思惑で憲法規定を曲げてはいけないと主張する専門家も多いと時事通信の別の記事が伝えている。憲法に書いてある条件は「米国生まれ」「35歳以上」「米国に14年以上居住」だけなのだそうだ。

アメリカがどこに向かっているのかは今の時点ではよくわからない。「スパイ疑惑」などがありつつも、アメリカの有権者の一部が「それよりも大切な守りたいものがある」と考えていることがよくわかる。彼らが望んでいるのはおそらく憲法秩序の部分的な破壊なのだろう。危険な兆候がある時点ではこうした問題を機に止める人は多くない。だが一旦「プロセス」が始まると今度は少数者が止めることは難しくなり「あの時気がついていればよかった」ということになる。

いずれにせよアメリカではもうこのプロセスが始まってしまっており行き着くところまで行き着くしかないと言えるのかもしれない。彼らは憲法の精神を盾に秩序への反抗を試みている。「書いてあること」の方が実現しようとしていることよりも重要であるという原理主義的な憲法理解がアメリカを蝕んでいるように思える。

ただこうした庶民の怒りがそのまま政治的なムーブメントになることはない。これを一つにまとめるためには優秀なアジテーターが必要だ。優秀なリアリティショータレントだったトランプ氏にはその才能があり共和党の集会を即座に「劇場」に変えてしまう力があるようだ。

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