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現役警察官の丸刈り抗議などを受けて尹錫悦大統領の支持率が急低下

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尹錫悦大統領の支持率が下がっているという。背景を調べようとYouTubeで流れてきた報道をいくつか見てみた。尹錫悦大統領は2つの期待を失いつつある。それぞれが改革志向の若者と民主化を成し遂げたという自負がある穏健層の離反となって現れている。特に後者は警察官の抗議運動に発展しておりカメラの前で丸刈りをする警官まで現れた。

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背景1:李俊錫代表の失脚

今回の支持率低下の背景は2つある。1つ目が「国民の力の代表」に関するゴタゴタだ。支持率急落のきっかけになったのは、尹錫悦大統領が代表代行の権性東代表代行に送った「いいね」がスマホ越しにすっぱ抜かれたという事件だった。議員が閲覧していたものを後ろにいたカメラが偶然捉えたのだ。壁に耳ありという感じがするのだが、なぜそれくらいのことで支持率が下がるのか不思議にも思う。権性東さんはもともと院内代表という立場にあり議員の取りまとめ役だった。大統領に言うべきことは言うと宣言してはいるものの「既得権側」の人であることは明らかだ。

李俊錫(イジュンソク)代表は性的接待の証拠を隠蔽するように命じたということで国民の力から党員資格6ヶ月の懲戒処分を受けた。二元代表制の建前から大統領と議会は適切な距離を保つ必要がある。尹錫悦大統領は表向きは「静かに見守る」姿勢を見せていたが裏では「よくやった、すっきりした」と李俊錫氏の悪口を言っていた。これが「二面性がある」とみなされた。

ただ「こんなことで支持率が低下するかな」と思える些細な事件である。「こんなことくらい」で支持率が低下するのは李俊錫氏が代表になった経緯にある。

李俊錫氏は現在37歳のニューリーダーでハーバード大学で経済学とコンピュータサイエンスの学位を持つ。朴槿恵大統領に「新進気鋭のベンチャー経営者」という経営を買われ党改革のための改革委員長に抜擢されたのがキャリアの出発点だ。

転機になったのは朴槿恵大統領の弾劾だった。この時に朴槿恵大統領を守った保守には「旧態依然とした守旧派」のイメージがついた。文在寅政権ができてからも信頼は回復せず、保守系政党は統合と再編を繰り返す。是非ともイメージアップを図るためのニューリーダーとして李俊錫氏が期待されるようになった。

李俊錫氏は「保守のイメージを刷新する」ためにはうってつけの人材だったが年齢要件があり大統領候補にはなれなかった。ただ「清新な顔」として党首には選ばれた。

イメージ刷新のために担がれた改革派が「目的を達成した」という理由で用済みになるというのはよくあることだ。尹錫悦政権ができるとすぐに李俊錫氏は性的接待疑惑を暴かれて失脚した。代わりに代表代行になったのが議員の取りまとめ役の権性東さんだったと言うわけだ。

党員資格停止処分を受けているが李俊錫氏本人は代表辞任を否定し「所詮保守の議員たちは保身しか考えていない」と批判を強めている。この「いいね」の一件で尹錫悦大統領には「所詮既得権益に結びついた人」という印象がつきつつあるのである。また国民の力は今後党外からの批判に晒されることになるだろう。

背景2:警察改革

ただこれだけで尹錫悦大統領に対する支持率がここまで下がることはなかったのかもしれない。もう一つ事件が起きている。警察官が尹錫悦大統領に反旗を翻している。特に警官たちのがバリカンで頭を丸める「丸刈り抗議」がニュースになり韓国社会に動揺が広がった。韓国語ではソッパルと呼ばれているようだ。なぜそんなことになったのか。

すでに過去の記事に書いた通り、共に民主党は、検察が文在寅政権と革新系議員を追求できないように検察の権限を弱める検察捜査権廃止法を無理矢理に通した。この法律はムンジェイン保護法などと揶揄された。政権が変わるたびに「王殺し」とも言えるような過激な追及が繰り返されているため報復を恐れたのだろう。

尹錫悦政権は国情院に権力を集約することでこの法律に対抗しようとしていた。国情院の過去のトップを告発し「復讐の始まりか」ともささやかれた。

ところがこれがなぜか警察から反発されることになった。事情は少し込み入っている。検察の力が削がれると権限の一部が警察に移ることになる。この警察が信頼できないと思ったのか尹錫悦政権は警察を監視する組織「警察局」を作った。

聯合ニュースによると具体的には人事を掌握するのが目的だったようである。日本の内閣が内閣人事局を作って人事を掌握する手法に似ている。もちろん尹錫悦大統領にも言い分はある。最下級の巡警から上がってくることができる警察幹部が極めて少ないため「これを民主化する」と言っている。つまり実力主義に改めるというわけである。

大統領が人事に首をつっこむ前に今の人事を既成事実化しようとしていた金昌龍(キム・チャンリョン)警察庁長官は「混乱の責任を取る」形で辞任している。警察トップの慌てぶりがわかる。次期庁長にとされているのが尹熙根(ユン・ヒグン)氏だ。

ハンギョレもこの件について書いている。まさに韓流ドラマというドラマチックな展開である。警察局に反発した幹部たちが集会を開いた。騒ぎが大きくなることを恐れた政権は懲戒に乗り出す。すると幹部たちはこぞって「ではどうか私も懲戒してください」と言い出したのだ。YouTubeでフッテージを探したところ次のような現役警官の抗議運動が見つかった。今回は丸刈りと訳したが「切髪(ソッパル)」というそうだ。つまり抗議運動はトップの反乱ではなく全体に及んでいる。

尹熙根(ユン・ヒグン)氏は現在次長である。ハンギョレによれば「警察局を作る代わりに大幅に待遇を改善する」という取引を持ちかけ次期幹部候補たちに屈辱的提案と反発されたことが今回のいざこざの出発点になっているようである。ユン氏にとってみれば「尹錫悦大統領に忠誠を尽くせば自分が警察のトップになれる」のだから悪い話ではなかったのだろうが、おそらく警察内部での人望はあまりないのかもしれない。

このニュースだけを見ると「なんだ警察エリートの既得権争奪ゲームか」などと思う。だが現役警察官の抗議を見ると考え方は変わる。これらのフッテージを見ると「民主警察の歴史:ミンジュキョンチャルヨクサ」という言葉が使われている。韓国には軍事政権時代に警察・検察が協力してきたという暗い歴史があり現在の警察官は自分たちが民主警察の担い手であるという誇りを持っているのだろう。

大統領が人事を掌握し権力に取り込もうとしているという反発がセッパル(丸刈り)という過激な行動を生んでいるものと思われるが、それが国民に共感されて支持率低下につながったものと思われる。

若年層は改革に期待していたが李俊錫氏潰しによって裏切られたと感じているのだろうし、1988年ごろまで続いた非民主的な軍事政権を知っている中高齢者たちも警察の反発に対して危機感を抱いているのではないかと思う。

この二つの事情を総合すると、権力を奪取した瞬間に人事を掌握し既得権保護に走る保守政治家とそれを擁護し権力闘争に邁進する大統領という図式が生まれてしまう。7月29日時点では支持率は28%にまで落ち込んでおり不支持は62%という数字が出ているそうだ。

日本のメディアは「落ち着いた日韓の対話どころではない」と心配している。

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