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国情院ルートで文在寅政権への追求が始まる

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韓国の国家情報院の元委員長2人が国情院から告発された。韓国では、尹錫悦政権が文在寅政権の権威を失墜させようとする動きが始まったものとみなされているようだ。追求される側になった革新系のメディアの中には共に民主党の議員の声を紹介し「尹錫悦政権の復讐」などと書くところもある。

だがこれは長年続いている政治ショーのほんの一部にしか過ぎない。キャストは入れ替わり立ち代わりだが長年登場する人気キャストも多い。尹錫悦氏は間違いなく主要キャストの一人である。

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韓国の国家情報院はもともとKCIAと呼ばれていた。アメリカのCIAをモデルに朴正煕政権時代に作られた軍政時代の遺産である。金大中大統領時代に組織改変され現在に至るそうだ。

朝日新聞によると告発されたのは二人の元院長である。容疑は以下の通りだ。

  • 朴智元(パクチウォン)前院長:2020年9月に北朝鮮沿岸の海上で北朝鮮側に射殺された海洋水産省の船員について、「北朝鮮へ行く意思があった」と事実をねじ曲げた
  • 徐薫(ソフン)元院長:北朝鮮の船員2人が韓国への亡命の意思を明らかにしたにもかかわらず、北朝鮮に送還した

いずれも朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)との関係に配慮した措置を糾弾されている。文在寅政権はアメリカのトランプ大統領を巻き込み朝鮮戦争を終戦するという計画を持っていた。文政権側は2021年12月の段階でも「おおむね終戦合意はできているが北朝鮮側の提示する前提条件が整備されていない」という公式的な立場を維持していた。こうした背景を持つ政権が北朝鮮との関係悪化を懸念しこのような措置をとるのは自然だ。

となると当然尹錫悦大統領の思惑も見えてくる。国家情報院の院長を告発すれば「誰に命じられてやったのだ」ということになる。つまり文在寅政権の追い落としを狙っていると考えることができる。つまり北朝鮮への接近は文在寅政権や革新系の野望を満たすための手段でありそのために韓国人の人権が踏みにじられたという主張を展開するものと思われる。

時事通信は与党と野党のレスポンスを伝えている。与党側は国情院は文在寅大統領が関与したという確実な証拠をつかんでいるのだろうと主張し野党側は狙いは文在寅前大統領の追い落としだろうと警戒している。狙いが文在寅大統領なら決して座視しないと徹底抗戦の構えである。

ではなぜ尹錫悦政権は国情院ルートを選んだのだろうか。

韓国には情報機関とは別に検察が存在する。検察は強い権限を持っているのだが文在寅政権の末期に検察庁法が改正された。TBSの記事によると検捜完剥とか文在寅保護法などと言われたそうだ。政権交代があると検察が乗り込んできてありとあらゆる疑惑を捜査する。完全に潔白な政権などなく何かに引っかかってしまうためそのまま裁判所に引き立てられて晒し者にされるというようなことが繰り返されてきた。

ただし建前としては検察は独立組織であり政権に忖度をしないということになっている。

土壇場で法律を改正して「権力喪失後」に備えてきた文在寅政権だが尹錫悦政権は検察がだめなら国情院ルートでと考えたのだろう。国情院は政権との関係がより深いため建前上の「政治捜査と政権の意向は分離している」という原則は忘れ去られ、さらに事態をエスカレートさせることになってしまった。

革新系のハンギョレがあらましを記事を書いている。ハンギョレはこの一連の活動を「粗探し」と呼んでいる。ハンギョレは革新系のため文政権に親和的で尹政権には批判的だ。

国情院の中に「監察審議官」と呼ばれる新しいポジションが作られ厳しい内部監察が進められているという。チェ・ヒョク大邱西部支庁副部長検事が起用されたということなので検察の機能を国情院に移してきたことになる。尹錫悦大統領は使える手は全て使って前政権の疑惑を追及するという姿勢を見せており、大統領というより検察総長が国のトップになったというような状態に見える。

Wkipediaには尹錫悦大統領は水原地方検察勤務時代に国家情報院の世論調査事件を調査し「ゆきすぎた捜査があった」として一ヶ月の定食を受けているそうだ。この世論調査事件で国情院に工作を命じたのは李明博大統領でその時のターゲットは文在寅候補だったのだという。

この事件は朴槿恵大統領時代には全容の解明ができず文在寅大統領時代に全容解明が進められていた。だが李明博氏側は「政治報復だ」として反発していた。日経新聞があらましを書いている。尹錫悦大統領はこの事件の当事者の一人であり、なおかつかつて対峙した国情院に対して今度は上司として指令を出している。

尹錫悦大統領が連れてきた新しい「監察審議官」のもとで戦々恐々としている国情院幹部は多いのだろうということが容易に想像できる。あたかも韓流ドラマを見ているような展開だ。

アメリカのように大衆民主主義が進んだ国では、国民が民主党系と共和党系に分かれて激しい罵り合いを繰り返している。保革分断が定着している韓国ではこのような状態は起こらず庶民はまるでドラマを見るように延々と繰り返されるこの復讐劇を眺めている。その意味では今回の出来事も長々と続いている大河ドラマの新しいシリーズが始まったという感じなのかもしれない。登場人物は入れ替わり立ち替わりなのだろうが、尹錫悦大統領は長年登場している主要キャストの一人であり今回は主人公として物語を牽引することになりそうだ。

だがこのドラマが尹錫悦大統領の最終勝利で終わるかどうかはわからない。大統領の任期は5年・1期限りのためこのシリーズが終わったら「次は向こう側」でキャスティングされる新しいドラマが始まるかもしれないからだ。

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