岸田総理の「新しい資本主義」と骨太のグランドデザイン(案)はなぜこんなに不評なのか?

岸田政権が発足してしばらく経った。政権そのものの支持率はそれほど悪くないものの「新しい資本主義」の評判は良くない。一体何が不満なのだろうと考えて記事を探して読んでみることにした。探してみて驚いた。誰もが不満を表明しており褒めている声が全く聞かれない。さらに驚いたのはその不満の内容が人によってバラバラなところである。

ただよくよく調べて見ると対立点は明確だ。それは「成長か分配か」という点にある。論点は意外と簡単なので識者の声はまとまりそうだがなぜかまとまらない。さらに国民の関心も高くない。そもそも実体がなく期待していないという人が多いのではないだろうか。






議論のベースそのものは非常に簡単である。成長を重視すべきか分配を重視すべきかという点である。最終的にはどちらもということになるのだが「まずはどちらから始めましょうか?」というのが議論の内容だ。

もともと岸田総理は原丈人さんの「公益」資本主義をベースにした分配重視型の民主主義路線を提唱していた。ところが政権発足後にこれが社会主義的で資本主義を理解していない人の愚策であると批判されたところから軌道修正が始まる。原さんらが「分配色が後退した」と難色を示す一方で、金融界・産業界は依然「企業や投資家に敵対的なのではないか」と警戒心を持っている。これが様々なところで反響を起こしており議論がまとまらないまま様々な批判が出ている。

論点は成長と分配

成長について

成長についての議論は2つある。1つは日本的なわかりやすい議論だがもう一つは欧米の政治状況に基づいた分析なので日本人には馴染みがないかもしれない。

成長をめざすべきだという点までは一致しているのだが「構造改革をすべきだ」とか「古い企業を解体すべきだ」などと方法論についてはまとまりがない。これまでさんざん「提言」をやっているが全く受け入れられていないという諦めがあり「もう何を言っても仕方がない」ということになっている人が多い。

一方でこれと違った論もある。新自由主義を貫徹すれば自ずと企業は成長するが岸田政権は社会主義色が強すぎるため必ず失敗するだろうというものだ。日本人は「強い人が全てを持ってゆく」という新自由主義の考え方はあまり好きではないようだが、当然欧米系の新自由主義論者という人もおり「これまで通りの新自由主義的な経済政策を続行すべきだ」という声も若干聞かれる。

分配について

分配についての議論も実は二つある。一つは経済の専門家の分析だ。成長の結果があって初めて分配があるという極めて真っ当な議論である。だが、安倍政権のトリクルダウンセオリーに期待していた人たちもいる。彼らは安倍総理が約束してきた「いつか来る恩恵」が岸田総理によって反故にされるのではないかと感じているようだ。産経新聞がそのような論調で記事を書いていた。

中途半端さから警戒心を持たれている

このように元々の論点は明確なのだが中途半端になっているため警戒感につながっている。当初の「公益」資本主義政策を維持しつつ市場が懸念する点を払拭してくれればよかったのだろうが、思わぬ反発に方向転換をしたことで「何を言っているのかわからない」ということになった。それが警戒心につながっている。

成長を重視する人たちの警戒心

まず成長を重視すべきだという人たちは、岸田政権の政策は社会主義的であり自由な企業活動を阻害するだろうと警戒している。こうした資本主義の修正はバイデン政権下やマクロン政権下でも行われており企業や投資家には歓迎されていない。特にバイデン政権は強烈なインフレに見舞われているが従来の「環境派」の姿勢が「反企業的だ」とみなされており産業界とは敵対的な関係にある。

岸田総理はこうした正面衝突を避けた形なのだが産業界からは警戒心を持たれているようだ。

分配を重視する人たちの警戒心

一方でこのままの自民党の政策では成長が起こらないのではと警戒する人たちもいる。彼らが心配しているのは単に投資だけが促進されても中所得から下のひとたちが投資の恩恵を受けることはないという点だ。だから投資促進策は「富裕層の優遇にしかならない」と考える。

また産経新聞のように漠然と安倍政権のトリクルダウンに期待していた人たちは「トリクルダウン期待」もなくなりそのまま取り残されるかもしれないと感じているようだ。

岸田政権の骨太の方針の問題点はいろいろなところに配慮をした結果、誰にとっても満足がゆく回答になっていないというところだと感じた。つまり何も選択しないことで「中途半端だ」という印象を持たれているのだろう。ではこれが政権にとって不利なことなのかということになる。実はそうではない。何も決めないことで誰にも嫌われないという利点があるのだ。

骨太の方針が全く浸透していないにも関わらず岸田政権の支持率は極めて高い。

政策の評判の悪さは支持率の高さと表裏一体

安倍元総理のメッセージは極めて明確だった。安倍政権を熱烈に応援する人もいれば全く支持しないという人もいた。だが岸田政権にはこのような強烈な好き嫌いがない。これが政権支持率の高止まりにつながっている。

つまりこの中途半端な姿勢がなぜか政権の支持につながるという不思議な状況が生まれている。

ただしこの状況がいつまで続くかはわからない。成長と分配という言葉は難しすぎておくわからないが物価高は身近な話題である。現在野党から「岸田インフレ」という言葉が出始めている。岸田総理がインフレを起こしているわけではないが野党のレッテル貼りが成功すれば人々は岸田総理のせいでインフレが起きたと誤認しそれに沿った投票行動を起こすようになるだろう。

参議院選挙の注目点を聞いた共同通信の世論調査によると42%の人が物価高対策に注目して投票先を選ぶそうである。現在岸田総理の対策が十分だと思わない人は79.6%になるそうだ。


参考文献

以下、今回読んだ各論記事を紹介する。一応文章を作るために要約したので興味のある人はご覧いただきたい。なお検索して乱雑に選んだため順番には特に意味がない。

岸田首相は賃上げと株主還元のどちらが先なのか

スタート時には新自由主義の問題点が挙げられていた。だが実際に骨太の方針が出ると前政権の成長戦略に近いものになっていた。原丈人さんは「分配政策が足りない」と不満を表明した。

貯蓄から投資へ訴えるのではなく投資がしやすい環境を作ることが重要だ。老後やもしもの時の不安に備えるためにリスク性向が低い貯蓄に向かうのは当然だ。政府の対策は単に投資行為を簡単にする政策であり投資そのものの優位性を高める政策になっていない。

投資シフトが進むためには企業が業績を上げて株主に還元する必要があるが政府は分配もやって賃上げにより労働者にまず分配しろという。企業がどちらに分配すべきか迷うのは当たり前だ。原丈人さんはまず分配という立場だが岸田政権の方針は一貫していない。

筆者はインフレ期待を高めて成長を重視するという立場だ。

「資産所得倍増プラン」唐突政策に浮かぶ2大問題

投資優遇策は富裕層優遇策だ。これは総裁選の時の「格差是正と分配」と異なる。岸田政権が成立してから株価が大幅に下落する岸田ショックが起こり金融所得課税の強化という当初の提案は失われた。岸田政権は政策の練り直しを迫られ真逆の方向に政策転換したのだ。なんらかの理由で企業が成長を始めれば家計は投資の恩恵を受けるだろうがそうでなければ単に富裕層が儲けて終わりなる。

岸田政権がいうように家計が投資を増やせば貯蓄は失われる。国債を買い支えていた貯蓄が減れば国債依存は見直さざるを得なくなる。すると長期金利が上昇し円高圧力が増す。

家計は合理的な判断で投資でなく貯蓄を選好している。政府の掛け声だけでこれを変えることはできない。物価が上昇しないなかで貯金が先行されるのは当たり前だ。低成長では貯蓄でも名目資産が減らないからである。

投資を促進するためには成長率を高めなければならない。個人が株式投資を増やせば日本経済が活性化するのではなく、日本経済が活性化するから個人は投資を増やすのだ。つまり成長が先であるべきだ。

岸田首相の“新しい資本主義”に「今更感」が強い理由、何が足りない?

自民党の経済政策はいつも後手後手だ。今回の岸田総理の骨太の方針もがっかりするような内容だった。

安倍政権時代には賃上げに失敗しているがその反省は全く生かされていない。AIに投資すると言っているがそんなことは10年も前から言われている。企業がAIに取り組まないのは旧態依然とした年功序列型の企業慣行が温存されているからだ。スタートアップ投資環境もグリーンエネルギーへのシフトも周回遅れからの回復であり成果は期待できそうにない。

今までできていないことを引き続きやるのは必ずしも悪いことではないのだろうがそれを新しい取り組みだと提示されても鼻白むばかりである。岸田政権はまず「なぜ今まで有効な対策を打ててこなかったのか」を国民に説明すべきだ。

岸田首相の「新しい資本主義」がまったくダメでも「資産所得倍増プラン」は少しは使えそうなワケ

新しい資本主義のコンセプトは依然迷走している。ただ体裁としては非常に立派で霞が関文学の力作だとは言えるだろう。

グランドデザイン案は「1980年代から2000年代にかけて新自由主義が世界経済の牽引役となった」という認識を持っており、それは正しい。そして日本はその波に乗り遅れたから成長ができなかった。

おそらく目端のきいた人はグランドデザインを読み込んで「政府がどこにお金を落とすのか」を探すはずだ。例えば資産運用や証券ビジネスをやっている人は関連項目を探すだろう。おそらく岸田政権は中所得者向けの投資優遇策を推進するはずだ。おそらく積み立てNISAあたりが優遇されるのではないか。

新しい資本主義には読むべきところはないが、政府が何を優遇するかということはよくわかる。せいぜい今あるビジネスを有利に進めるのに利用するくらいがいいのだろう。

【論調比較・岸田政権の新しい資本主義】 「分配が後退、アベノミクス回帰」の評あふれる

岸田政権のグランドデザインが出た。当初に比べ「格差是正策」が後退した。政権に近いはずの産経新聞までもが格差是正政策の抑制に批判的だ。読売新聞もアベノミクスの成長戦略に逆戻りしたと書いている。政権に批判的な朝日・毎日・東京新聞に至っては「金持ち優遇」で失望感が拭えないとけんもほろろだ。

一方投資家に近い日経新聞とBloombergは家計が投資に向かうべきという点に期待を寄せているようだ。ただしBloombergは金融資産課税や環境への配慮など左派的な政策には警戒心を持っている。

結果的に岸田政権は分配を先送りにしたと批判された。だが、左派色も払拭できない状態になっておりどっちつかずの印象である。

新資本主義は「売り」か「買い」か、岸田首相の真意探る金融市場

岸田政権が発足すると金融資産課税などへの警戒感から8営業日連続で株価が下落し「岸田ショック」などと言われた。この株価下落は2009年以来の長さだった。

岸田ノートに象徴される岸田政権の左派色は稀に見る議論を巻き起こした。岸田政権の支持者たちの言い分を聞いていると社会主義にしか聞こえない。中間層の不満に応えるため分配を意識するという左傾化はバイデン政権やマクロン政権でも見られる一貫した姿勢だ。だがこうした社会主義的な政策は「岸田総理は資本主義がわかっているのか」という批判を巻き起こした。

姿見えぬ「新しい資本主義」 所得倍増など課題なおざり

岸田政権の経済政策の具体策がまるで見えてこない。過去の新自由主義的な政策の歪みは解消されず逆に取り込まれてしまったのではないか。個別論は出てきたが「新しい資本主義とは何か」という答えに根本的な答えはない。議論は安倍元首相・菅前首相時代から全く前進していない。特に新自由主義からの脱却に答えがなく格差が是正されそうにない点に不満が残る。

原丈人氏の公益資本主義ではアメリカ型の新自由主義を見直し企業が従業員や社会に還元する仕組みが重要だと訴えている。たとえDXやグリーンイノベーションで企業が成長しても国民が豊かにならなければ何の意味もない。

「新しい資本主義」が失敗する理由

新しい資本主義は社会主義色が強い。こんなことでは企業は成長できない。必要なのは新自由主義的な改革だ。こんなことでは新しい資本主義は失敗するに違いない。

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