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コロナで政府から借金したが「もう返せません」と自己破産する人が続出

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まともに生きていれば借金なんかしないはずだし、借金したらきっちり返済するのが人の道だという常識がある。共同通信が「コロナで借金した人が相次ぎ自己破産、既に20億円が返済困難に。国の無利子貸付制度が生活再建に結び付かない深刻な理由」という記事を出している。

「借金踏み倒しか」と感じるのだが背景には切実な事情があるようだ。

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共同通信は冒頭でこうまとめている。

  • 新型コロナウイルスの影響で生活が苦しくなった人に国が無利子でお金を貸す仕組みがある。
  • 返済期限はまだ先にもかかわらず、既に「返せない」と自己破産する人が相次いでいる。
  • 返済困難な金額は現時点で約20億円に上り、今後さらに膨らむのが確実だ。
  • 大半が返ってこない恐れもあり、最終的には国民負担に跳ね返る。

これだけを読むと「真面目に働いている人が損をする」と憤る人が多いのではないかと思う。ただ共同通信は実際に借金をした人たちを取材している。そもそも多重債務状態だった人や生活がギリギリという人が多いそうだ。こういう人たちが簡単に借りられる金を借りた挙句「もう無理だ」と考えて返済を諦めてしまっている。つまりコロナはきっかけでしかない。

なぜこうなるのだろうか?と考えながら記事を読んだ。背景にあるのは「貧困は自己責任であり恥ずかしいことだ」という思い込みのようだ。このため他人に救済を求められない人が多いようだ。かといって自分で自活の道を探すこともできない。いよいよ困窮した結果として「もう返済は無理だ」と言って自己破産してしまうのである。

いくら政府が様々な政策支援メニューを準備したとしても「それを受けるのが恥ずかしい」とか「国や社会に負い目を感じる」という恥の文化が蔓延しているわが国ではその制度が本当に必要な人に届かないことがわかる。各政党は選挙のたびに「こんな素晴らしい制度を作りましたよ」というばかりで実際にそれが使われない理由までは考えない。

これに加え地方自治体も人が減っていて余裕がない。そのため「とにかくお金だけ貸してしまおう、後のことはなんとかなるだろう」と考えた結果大勢の自己破産者が生まれ回収不能な貸付は国庫の負担になる。困窮者支援は実際には「社協」と呼ばれる別組織が受け持っている。貸付の管理が忙しいため支援まで手が回らなくなっているそうである。

生活保護も役に立っていない。この記事は「生活保護に陥ったらもう経済活動には戻ってこない」という前提が置かれている。だから生活保護受給者を減らすために一定の効果があったと評価する人もいる。だがそもそも援助を受けてもどうにもならなかったのだから、こういう人は黙って消え去るか生活保護を受けるのかという二つの選択肢しかない。

では、これは一部の「負けた人たち」の問題なのか?ということになる。確かにこの記事だけを読むとそう受け取れる。経済活動から脱落し「消え去るか」「生活保護か」という人が問題だという印象を受けるからだ。

だが実際には問題はこれだけではない。実は経済に張り付いている人の方が問題が大きい。かつて当たり前だった経済を安定させたあとで家庭を築こうというゲームが成り立たなくなっているからだ。

日経新聞に「「出産する人生を描けず」 家事・育児時間、女性5倍」という記事が出ている。とりあえず自分一人で生きてゆくのが精一杯でとても家庭を作るところまで気が回らないという人が増えているのだという。経済による社会参加と子育ての両立はもはや「無理ゲー」になりつつあるということがよくわかる。

彼らがふざけているとか能力が足りないとか怠けているとはとても思えない。普通に当たり前に生きていると子供までは作れないという人が増えている。

この記事によると「若ければ若いほど年収の水準が低い」そうだが「子育ては女性がするものである」という社会的な思い込みは変わっていない。結果的に女性が「子供を育てるのは無理だな」と感じてしまうのだろう。

実際に「生活が立ち行かず誰にも助けてもらえない」ことを理由に自己破産する人が多いことを考え合わせると実は若者の方が「自分ごと」として現実をきちんと捉えているということになる。子供を産むことができる時間は限られているがその時期はキャリア形成期間にもあたる。となると、現実問題としてはどちらかを「自己責任で」選ぶしかない。

社会全体が「無理ゲー」を押し付けているという現状を考え合わせると「政府から借金をしておいて返せないとは何事だ」とはとても言い出せない。経済活動から退出する人が増えていることも問題だが「子供が生まれなくなり社会が徐々に溶けてゆくこと」の方が問題は大きいと言えるだろう。

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