フランス大統領選挙の第2回目の投票結果についての集計が出てきた。このエントリーは最新ニュースではなく振り返りとしてフランス大統領選挙の概況を見てゆく。
大統領選挙は予備選と決選投票の2回が行われるうえに決選投票は前回と構図が全く同じだったためフランス人の心の変化がわかりやすい。争点は視点を国際的な地位に向けるのか人々の暮らしに向けるのかという点だった。形式的にはマクロン大統領が勝利したことになっているのだが実際にはかなり離反が進んでいる。中でも注目すべきなのは離反票の増加だ。実はルペン候補の得票数を超えており「第二勢力」が棄権票だったのだ。これは、最初から棄権した人に反ルペン票が乗ったためだ。おそらくこの結果は議会選挙に反映されるのだろう。二大政党離れで誕生したマクロン大統領は今後「政治離れ」という新しい課題に取り組むことになる。
第一にルペン氏は前回よりも躍進した。前回2017年の選挙では33.9%の得票率だったが今回は41.46%だった。直前にNATOから離脱しロシアと修好するなどと宣言していたため「このような極端な主張をすると大統領になれなくなるのではないか?」などと思われたのだが、実はマクロン大統領への拒絶反応がかなり広がっていることがわかる。ルペン候補は早々と選挙結果を受け入れ「フランスを諦めない」と表明をした。おそらく自分の主張がある程度有権者に受け入れられたという手応えを得たのではないかとすら思える。
ルペン氏を支持する人はロイターのインフォグラフィックによると北と南に偏っており中央部が抜けている。北はドイツやベルギーに近い地域で南はスペインに近い地域である。そしてこの地域は2017年よりも広がっている。都市部(パリ、ナント、リヨン、トゥールーズ、マルセイユ、ニース)をぐるりと取り囲む地方部でルペン氏への投票が伸びている。
ル・モンド紙が強調するのは棄権票と白票である。マクロン氏への獲得票数は18,779,641票、ルペン氏の獲得票数は13,297,760票だったそうだ。実は棄権票(Abstention)が13,656,109票あり白票が3,018,990票もある。この棄権票をルペン氏がもう少し多くとっていればフランスはNATOから脱退していたかもしれない。反マクロン派が割れたことでかろうじて危機が回避されたということがわかる。
マクロン大統領が具体的な提案をしても「それは嫌だ」とだけいう人が増えているのだ。とはいえ彼らが一致団結してマクロン大統領を倒そうとも考えない。これが現在のフランスの姿だ。
では今回第二勢力になった「棄権し続ける人」たちはどこからきたのか。ル・モンド紙はそこまでは分析していない。代わりにそれを分析しているのがガーディアン紙である。
マクロン氏に投票した人は当然マクロン氏に投票し、ルペン氏に投票した人たちはルペン氏に投票した。ルペン氏より極右とされるゼムール氏に投票した人はルペン氏に流れた。面白いのは左派のメランション氏に投票した人たちだ。ごく少数がルペン氏に流れたが半数はマクロン氏に投票し半数は棄権を選んだ。当のメランション氏は「ルペン当選を阻止するためにマクロン氏に投票するように」と呼びかけていた。半数はメランション氏に従い「反ルペン票」を投じ半数は「メランション氏が大統領にならないなら選挙には興味がない」と考えたことになる。
この図式を守ると左派と右派が協力することはなさそうだがマクロン政権に協力することもないのだろう。ガーディアンによればメランション氏の地盤はパリとその郊外なのだという。パリ近郊では危険者の数が多く「最初から棄権した人」と合わせて第2勢力になった。
2017年の大統領選挙では既存の左右政党に期待を持てなくなった人たちがマクロン大統領誕生の原動力になった。つまり二大政党離れがマクロン大統領の支持につながったのだ。だが、その後イエローベスト運動などを経てマクロン離れが広がっている。彼らの一部は既存政党より極端な主張を掲げる候補者たちを熱烈に支持するようになった。一方で既存政党への支持は戻っていない。政治からの離反がさらに進んでいることがわかる。こうした政治に嫌気がさした人たちをどうにか振り向かせようと各候補者共に過激な主張に走ることになる。その一つがルペン氏のNATOの司令系統から外れるという議論だったのだろう。ルペン氏はマクロン大統領には勝てなかったもののかなりの躍進を見せた。今後さらにこの主張を強めるのではないかと思う。