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ロシアがウクライナに傾倒すればするほど極東ロシアに中国が侵入して来る

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ロシアは今東西フロントで二つの戦いをやっている。西側ではウクライナに抵抗され軍の将官・兵士・軍艦などを失った。東側では「平和な戦争」が進行中である。極東地域に中国人が押し寄せている。

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ウクライナはソ連の一部だった歴史がある。ソ連はウクライナに二つの期待をしていた。小麦の生産地と東部で採れる石炭などを基礎とした東部の工業である。レーニンの時代はこの地域がドイツに盗られないようにウクライナ民族懐柔策をとっていたのだがスターリン時代には政策を一変させた。ウクライナ人から食料を取り上げロシアに送ったのだ。この時に餓死した人たちの人口はウクライナ人の多い地方ほど多かったと言われている。このときの恨みがロシアに対する徹底抗戦の基礎になっている。

だがこのロシアの方針が逆効果になりかねない地域がある。それがロシア極東地域である。今ロシア極東地域が次第に中国人に侵食されているという。日本語では産経新聞の2016年10月の記事がヒットする。

元になったABCの記事の日付は2006年になっている。10年前の記事を押入れから引っ張り出した感じである。ロシアと中国の国境を管理するアレクサンダー・シャイキン氏が中国から150万人が18ヶ月の間に不法侵入して来たと言う警告を出したと言う内容だ。予算獲得とモスクワの視線を引き付けるためにシャイキン氏が事実を誇張した可能性もある。

この中に重要な指摘がある。そもそもこの当時のロシアは10年も国勢調査をやっていなかったのだという。つまりどれくらいの中国人が流入して来たのかということはそもそもよくわからない状態になっていた。記事の日付から見てソ連崩壊の余波が続いていたことがわかる。

いずれにせよ、中国東北部の人口に比べると極東管区の人口は少なすぎる。600万人程度なのでとても中国人の流入には太刀打ちができない。

この記事を読むと日本人が見落としていることに気がつく。いくら広大な土地や地下資源を持っていてもそれをお金に変えることができなければ「単なる広大な荒地」にすぎないのだ。

この地域は中国が前身国家とみなす清が不平等条約で取られた領土である。さらに現在の中国政府もこの条約については認めていない。つまり、中国政府には「この土地を自分たちのものにしたい」と言う欲求がある。だが中国には軍事的野心はないし野心は必要ない。

ロシアはおそらくはこの地域を単独で経営することは難しいだろう。中国東北部に多くの人が住んでいることからみて、気候が厳しいから人が集まらないわけではないのだろう。おそらくモスクワからの投資がないことが過疎の原因だ。

資源を換金し土地を耕すためには労働力が必要だがわざわざ辺境地にでてくる人はそれほど多くない。中国が入ってくればこの地域はもっと繁栄するだろうがその利益はおそらく北京に吸い取られモスクワには回ってこないだろう。

2019年にはBBCがロシア極東の中国人労働者について取材している。2014年以来欧米との関係が悪化するとプーチン大統領は中国に依存するようになった。産経新聞が書いていた当時は「不法移民」だったのだが今では合法化されたのだろうということがわかる。

BBCの記事は、ロシア人が土地を中国人に渡したところその土地を全て中国人に貸し出されてしまったと書いている。2008年の金融恐慌の後で中華人民共和国がロシア極東に関心を寄せるようになったそうだ。こうしてロシア国境部の街に中国人のエリアが作られてゆく。

もともと中国人は土地の所有ができない。だからロシアでも中国でも土地の利用形態は変わらない。もともと民主主義でもないので自治にもあまり関心がない。

さらに中国人はロシア人たちよりも勤勉であると書かれている。こうなると軍事力は必要がない。自然競争でロシア人が中国人に打ち勝つのは不可能なのだ。

産経新聞はこの記事をおそらく「日本の中国脅威論」に結びつけようとしていたのだろう。日本もこうなったら大変だから民族主義を高揚させるべきなのだという理屈である。だが中国はわざわざ海を越えて日本にやってくる必要などない。すぐそばに「未開のフロンティア」ができつつあるからだ。

ここまでがウクライナ以前の状況である。ロシアはどう言うわけかウクライナ側に領土を拡張しようとしている。だが、今回の経済封鎖で西側との関係が悪化すればますます中国依存を強めることになるだろう。その中国依存の結果、彼らは極東の実質的支配権を失いつつある。ウクライナ情勢が緊迫すれば緊迫するほど極東が中国に盗られる可能性が増えてゆくのだ。中国は極東支配に軍隊を使う必要はない。単に鍬やトラクターがあれば十分なのだ。

こうしてプーチン大統領のロシアは西側との緊張をエスカレートし領土を中国に侵食されるという状態になっている。謀略には成功しても国家経営には行き詰っているということがよくわかる。

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