韓国で大統領選が行われユン・ソギョル(尹錫悦)が大統領に当選した。文在寅が革新系政権だったため「保守による政権交代」と言われる。革新政権で崩れた日韓関係の修復を期待する声もあるが、この政権が保守政権なのかと言われると少し違和感がある。日韓関係も大きく変わることはないだろう。
崩れつつある保革対立という構図
韓国の政治は長らく「保守対革新」という構造があると言われてきた。
- 保守:軍事政権による開発独裁的なやり方を支持しアメリカとの同盟を重要視する。慶尚道の開発が優先されたために慶尚道(釜山など)に支持者が多いとされる。
- 革新:軍事政権が民主派を弾圧した経緯からアメリカとの同盟よりも中国や北朝鮮との関係を重要視する傾向がある。慶尚道に蔑視されていた全羅道に支持者が多いとされる。
ところがこの傾向が今は成り立たなくなっているという観測がある。辺真一さんによると保守系が票を取れないとされていた全羅道でユンソギョル大統領はかなりの得票をがあったそうだ。
高齢者の間には古くからの保革構造が残っているようだが若年層は必ずしもそうでもないらしい。一方で国民の政治参加意識は高い。今回は77.1%という暫定の投票率が発表されている。
さらに「保守でも革新でもない」という人が大勢現れた。アン・チョルス(安哲秀)という第三の候補も最後まで選挙戦を撤退しなかった。ユン・ソギョルもイ・ジェミョン(李在明)も嫌だという人がアン候補を支持していたことから対立構造からこぼれ落ちているひとが大勢いるのである。
選挙互助会化した保守政党国民の力
政党も必ずしも保守でなくなりつつある。日本で例えていうと金権政治が打破できなくなった自民党が分裂した結果、外から人気のある政治家(例えていえば小池百合子さんや橋下徹さん)を招き入れたという構図になっている。
韓国の保守政党を破壊したのがパク・クネ(朴槿恵)大統領だった。大統領が弾劾された後も保守政党は支持を回復することができず「党名ロンダリング」を繰り返して国民の力という名前で統合された。ユン・ソギョル新大統領は当初は独自での選挙戦も考えたようだが「大統領選挙戦を維持できない」という理由で既存政党に後から乗った形になっている。
ユン・ソギョル新大統領はもともと「特別検事の特別捜査チーム長」としてパク・クネ大統領を追い落とした経歴からムン・ジェイン大統領に検察総長として起用されたという経緯がある。だがムンジェイン政権の不正も見逃すことができず大統領と不仲になってゆき最終的に職務停止を命じられてしまう。このように権力と折り合いが悪い。こうした人が保守政党の議員たちと妥協できるとは思えないのでおそらく今後もなんらかの混乱があるのではないかと思われる。
日本側にも関係修復の意思がない
ただ、日本人は特に韓国の政治には興味がないようだ。K-POP好きや韓国コスメ好きはそもそも政治に興味はない。また政治に興味がある層も「大統領が変わったら反日ではなくなるのか」という点にしか関心がない。外ではなく「自分たちがどう思われているのか」ということにしか目がゆかないのだろう。
ユン・ソギョル新大統領は「反日カードは使わない」と宣言したようだが党内基盤が脆弱なためリーダーシップを発揮できるかは微妙なところだ。
さらに日本の総理大臣は外交ビジョンがない岸田文雄であり、自民党の外交部長は「一切妥協はするな」という佐藤正久だ。妥協と話し合いが外交なのだから「一切何もするつもりはない」というのは日本側から外交努力はしないという宣言である。
この調子ではおそらく日韓関係が急速に変化することはないのだろうと思わされる。妥協してでも協力すべき課題がないからである。急速に世界の安全保障環境が変わる中、日本と韓国だけは従来通りの面子にこだわる外交姿勢を崩していない。そもそもどちらもアメリカに依存しているので自力で関係修復を図ろうという意欲はない
日米同盟・日韓同盟に依存した非常に不思議な二国間関係と言える。