大勢の死者と難民を出しつつあるウクライナ危機だが、プーチン大統領が心理的にどのように追い詰められて行ったのかわかりつつある。一方で、悪役が生まれたことで救われた国もある。中国とアメリカ合衆国だ。
新型コロナによって誇大妄想に取り憑かれたプーチン大統領
プーチン大統領がどのようにして今のような状態に追い詰められてきたのかということがだんだんわかってきた。クーリエが「ある勝利記事」について書いている。プーチン大統領は今回の作戦に自信を持っていて48時間以内に片付けられると考えていたようだ。このため勝利宣言をあらかじめ準備していた。どういうわけかそれが漏れてしまったのである。
プーチン大統領の勝利宣言には大ロシアがベラルーシと小ロシア(ウクライナのこと)をまとめてゆくという決意が書かれている。一方でアングロサクソンに対する敵意も覗かせる。大陸ヨーロッパとアングロサクソンは全く別のものだというのである。
一部事実が入ってはいるものの全体的にはほぼ「虚構」に近い内容になっている。その背景にあるのは自分たち大ロシアに対する過大な意味づけだ。おそらく自分たちの実力や存在を過大評価している。簡単いうと誇大妄想ある。
さらにプーチン大統領はこれまで2008年のジョージア(グルジア)や2014年のクリミアで成功を収めてきた。これが良い思い出として輝きを増していたのだろう。この成功体験もプーチン大統領にウクライナ侵攻のしんどさを過小評価させていたものとみられる。ウクライナの面積は日本の1.6倍もありロシア人に虐げられた経験を持つ人たちが大勢暮らしている。元々ロシア系住民が多いクリミア半島を手に入れるのとは難易度が全く異なる。
ではプーチン大統領はなぜ現実世界を正しく把握できなくなっていたのか。時事通信の解説委員室がこんな記事を出している。プーチン大統領はレニングラードKGBの同僚を中心とした仲間に囲まれていた。サンクト派のシロビキ(武闘派)というそうである。クリミアの併合は彼らによる密室決議だったそうだ。
これに加わったのが新型コロナウイルスによる半隔離状態だった。未知のウイルスという脅威がプーチン大統領に精神的圧迫を与えた可能性が高そうである。危機感の中で多様な情報から隔離されるという状態にあったことになる。
日本の定年ネトウヨと同じマインドセット
実はこれは日本のネトウヨにもみられるマインドセットだ。定年して家に閉じこもり自分が好きなニュースばかりをみているうちに誇大な民族意識にとらわれるというおきまりのパターンだ。元々は普通の一般市民だったはずだが社会から孤立することで誇大な自己意識をもつようになるわけだ。
背景にこれから自分たちはどんな老後を過ごすのだろうという不安感や危機感がある。つまり危機感がある人が多様な情報から隔離されると誰でも同じような状態になる可能性がある。
日本のネトウヨはネトウヨ首相を応援したり匿名でヤフコメに悪口を書き込むくらいのことしかできない。だがプーチン大統領は核兵器を持っていて国連の常任理事国のトップリーダーでもある。彼の孤立はロシア兵士に多くの死者を出し国民を経済混乱に陥れた。そればかりかウクライナの市民が80万人以上も難民となり故郷を追われた。
悪役を得て救われた国もある
一方でこれで助かった国がある。バイデン大統領の一般教書演説が発表された。民主党と共和党の間に深刻な亀裂があり民主党の中にも造反者がいるという状態になっていた。
だが、ことウクライナの対応についてだけはスタンディングオベーションだったという。外に敵を作ることによってしかまとまれない国なのだということがわかる。
皮肉なことにこれで救われた国がもう一つある。それが中華人民共和国である。おそらくウクライナがなければ新疆ウイグル自治区や香港のことが話題として取り上げられていたはずだ。ところが今回新疆ウイグル自治区や香港の話は全く出なかった。実はアメリカ合衆国は新疆ウイグル自治区や香港にはさして興味がなく単に叩くための材料が欲しかっただけということになる。つまり中国も世界の悪者という地位を引き受けなくて済んだということになるだろう。
現在ウクライナ情勢をめぐっては様々な側面が語られている。今回の切り口では新型コロナで孤独に苛まれたリーダーが狭い範囲から情報を取ることにより自己を肥大化させていったことがわかる。だが世界は強力な悪者を求めている。もはやそれでしかまとまることができないからである。
つまりプーチン大統領はコロナによって世界の悪者という皆が求めている役割を自らに引き寄せたことになる。