ニューヨークのクオモ州知事が辞職する。かつては新型コロナ対策のヒーローと呼ばれた知事だったが最終的に同じ民主党の州司法長官に告発されたことが辞任のきっかけになった。日本と比較すると身内でかばい合うことを優先するか有権者への信頼を優先するかと言う違いがある。日本の政治は政策に期待せず血縁関係を優先するので政治家は有権者の信頼を得る努力をしなくてもいい。ところがアメリカはそうではない。だから政権交代が起こり政党の自浄作用も期待できるのである。
クオモ州知事はかつてアメリカの新型コロナ対策のヒーローと見なされていた。だが、これは「トランプ大統領と比べてまとも」という意味に過ぎなかった。トランプ大統領がいなくなるとこの比較優位性が失われて逆風が吹き始めた。高齢者施設をコロナ病床として使った手法は賞賛されたのだが実は対策が十分ではなかったと言うことがわかった。高齢者施設での死者が15,000人もでたのだがトランプ大統領から追求されないようにと8,500名と過小報告していたそうだ。これが露見し死者数を上方修正した。州議会はクオモ州知事に大きな権力を付与していたのだが「それを見直す」と伝えられていた。
中でも注目されるのが「これを告発したのが誰か」と言う点だ。Business Insiderによるとその後色々なことがわかった。まずこの施設の問題を告発したのはニューヨーク州司法長官レティシア・ジェイムズ氏だった。つまり身内に告発されたのだ。
メディアも一時期はクオモ州知事をもてはやしていたそうだが不都合な真実が表出するにつれて失望と戸惑いに変わって行ったという。
この隠蔽騒ぎが落ち着かないうちに「どうやらセクハラもやっていたらしい」ということになり州司法長官は独立委員会による調査を命じた。
自民党であれば絶対に起こらないような事態である。自民党は組織防衛を第一に考えるのだろうが、州司法長官は内心(つまり何が善であるか)を優先した。州司法長官が自分の仕事に誇りを保つためにも有権者から信頼を得るためにも重要なことだったのだろう。
現在、自宅療養による患者放置が問題になりつつある日本においてニューヨークの事例は対岸の火事ではなくなりつつある。だがこれと行って強いライバルのいない日本では自宅療養と政権の問題は検証されないまま忘れ去られる可能性が高い。
特に選挙を控えた政権が医師会と何を話し合っていたのか?という問題は極めて縦横である。ニューヨーク州では高齢者施設はコロナで死者が出ても責任(民事・刑事訴追)を問われないという免責措置が取られていた。州知事が献金を受けていたのではないかという話も出ているそうだ。
ろくなケアをしてもらえなかった遺族は施設を訴えようとしたがこの免責措置のために裁判が起こせない。形式的に病床を増やして形を作ったが中身については全く議論されていなかった。しかし後で訴えようとしても免責措置だけは取られていて訴えることができない。感染症対策がしっかりと取られていない高齢者施設に「マッチの火を放り込んだ」とBusiness Insiderは指摘している。
日本であれば「パンデミックは災害であるから仕方がない」ということになってしまいそうだがやはりアメリカではおかしいことはおかしいという世論がある。
総合的に考えるとかなり込み入った事件である。トランプ大統領との対抗上「強い州知事」が求められていたのだが、その対策は実は場当たり的で人物的にも問題が多かった。だがトランプ大統領が酷すぎるので辞任には至らなかった。一応トランプ大統領という脅威が去りワクチンの成果で新型コロナもある程度落ち着きつつある。そこで事後検証の動きが出てきているのだ
問題を全くなかったことにした方が生き残る確率が高い日本と自浄作用を働かせないと生き残っていけないアメリカの違いを感じる。自民党では次期総裁選に向けた動きが始まったが、菅政権が「フルスペックの総裁選を逃げ切れるのか」ということが争点になりつつあるようだ。国会議員は地方票を入れた総裁選をやりたくないが地方には不満が溜まっている。とはいえライバルになる野党がない日本では当面政治の自浄作用は期待できそうにない。有権者にとっては難しい政局が続きそうである。