東京オリンピック・パラリンピックがらみでまた嫌な事件が起きた。またまた文春砲である。
開会式のプランナーさんが渡辺直美さんを豚呼ばわりした演出を提案して文春砲に引っかかり辞任を表明した。私はオリンピック開催には反対だったのだが精神修養の一環としてやるべきなのかもしれないと思い始めている。
ただ、この話にはかなり奥行きがある。日本は企画にカネを払わない。そのことがよくわかるのである。おそらくプランニングの仕事をしている人は組織委員会に文句を言った方がいい。こんなことではいつまでたってもプランナーの地位が上がらないからだ。
思えば今回の東京オリンピック・パラリンピック(以下東京五輪)は日本の嫌なところやダメなところが詰まった大会になりつつある。問題点をざっとあげてみた。全く苦労しなかった。
- 竹田会長や電通にまつわる買収疑惑
- エンブレム盗作問題
- 派遣業者や建築業者だけが儲けているのではないかという政権のお友達疑惑
- 国際コンペの建築家のいう通りの競技場もまともに作れない国内ゼネコンの技術力のなさ
- 森元会長の女性蔑視発言とその後始末のまずさ
ざっと思い返しただけで色々な問題が出ている。まず日本がもはや最先端の先進国ではなく、先進国後発グループの一員になっていることがわかる。次にゼネコンと電通がらみの案件が多いことにも目がゆく。中抜き業者が跋扈するという世界である。これに派遣業者を加えればこの国で儲けているのがどういう人たちなのかということがよくわかる。
確かに、有名なCFプランナーが女性の容姿を引き合いに出し安易な笑いを取ろうとしたという後進性はある。こうした演出はテレビの低俗なバラエティーショーで多用されていた。つまりお金も芸もない中で安易に笑い取ろうとすれば誰かの容姿や知性を貶めて笑うのが一番手頃なのである。日本の意識低い系のクリエーターは世界から見れば遅れている。佐々木さんもその一人として記憶されることになった。
今回問題になった佐々木さんは「常に広告のことばかりを考えている人」なのだそうだ。どうして佐々木さんは周囲が呆れるような思いつきを仲間に披瀝して見せたのだろうかと思った。もともと低俗で腐った人だったのかと思った。
佐々木宏さんの弁明が掲載されているので読んでみた。
要するに予算が削られた中で何かインパクトのあることをやらなければならないということになりダジャレとルックス攻撃というアイディアが出たようである。これまで面白い広告をたくさん作ってきた。安倍マリオもウケけた。佐々木さんならパパッと何かいいアイディアを思いついてくれるのではないかという期待が集まってもおかしくはない。
ところが東京五輪に群がってくる人は大勢いた。当初最も費用がかからないはずだった東京五輪だがいつの間にか予算が膨張した。経費を削減しなければならないとなった時真っ先に削られたものがある。「そうだ企画なんか単なる思いつきなんだ」ということになり予算が削られた。おまけに新型コロナでリモート演出に変えなければならないという課題も加わった。
おそらく佐々木さんの双肩には「安倍マリオみたいな思いつきをパパッと出して政治家に得点を稼がせてほしい」という周囲の甘い期待も乗っかっていたのだろう。結局、開会式閉会式の主要メンバーは逃げてしまうのだが佐々木さんは逃げられない。「電通出身の広告屋」なのでこれからも村で生活していかなければならないからだ。
そうだ「オリンピッグだ!豚なんだ!!!」安倍マリオの劣化コピー的なインパクトのあるアイディアが生まれたとして誰が佐々木さんを責められるだろうか。
復興五輪というコンセプトは完全に崩壊している。菅総理は国会の都合がつかないとして聖火ランナーの出発式に出ないようだ。もともと福島から始めて政治的ショーに利用するつもりだったのだろうが緊急事態宣言の解除と結びつけられてしまった。もはや東京五輪は単に政治的なお荷物になってしまい利用価値はない。
そもそも海外からの客も来ない。もう儲けはしゃぶり尽くしたのだ。でも、約束しちゃった以上はやらないといけない。やるからには海外に恥ずかしい演出はできない。金は出さない。関心もない。リモートに配慮し、日本の技術力を見せつけ、政治家に出番を作り、男女平等にも配慮しろ。
クリエーターは全員逃げた方がいい。でも広告村の人は逃げられなかった。
安倍マリオくらいの思いつきなら「チャチャッと出るでしょ」という期待が透けて見える。この国で実務家のプランナーは全く軽視されている。落書き程度の思いつきでお金が稼げていいねえくらいに思われているのだ。
こういう思いをしたことがあるプランナーは多いはずである。クライアントが「どうもしっくり来ない」が「どうしていいかわからない」ので「明日までに直してくれよ」というオーダーを出されたプランナーは多いはずである。持ち帰って最初から企画千本ノックだ! そこでやけになって誰もが呆れるアイディアを出したらLINEが晒された。踏んだり蹴ったりである。
でも佐々木さんはやっと逃げられた。
せめてクリエータチームをここまで追い込んだ発注側も大反省していることを望みたい。組織委員会側に反省の気持ちはないようだ。橋本聖子会長が次のように言っている。
後任は決まっていない。スケジュールは変わらない。これまでの留意点に加えてジェンダーにも配慮しろ。つまり何の支援もするつもりはなく単に注文を増やしている。まだ乗っかる気なのだろう。俺たちが雇ってやってるんだ、言われた通りにやるだろうという気持ちが透けて見える。
おそらくこれでやる気を出すクリエーターはいないだろう。あとはみんなで清く正しくラジオ体操でもやって見せるかアニメキャラをたくさん出して(もちろん男女は同数だ)意味のない踊りを踊らせて見せてはどうかと思う。
また一つ日本の嫌な側面をみた。形あるものには人が群がるがアイディアは徹底的に軽視する。「単なる思いつき」としかみてもらえないのだ。そして、それに注目して憤って見せる人が一人もいない。みんな何も考えたくないので「海外に注目されて恥ずかしかったですね、ハイおしまい」とやって見せるのである。考えないのだから何も変わらない。
こうなったら、東京オリンピックの効用は一つしかない。東京五輪がなければ露呈することのなかった日本の凋落を直視するしかない。じんわりと嫌な気持ちになるがこれだけが東京五輪の開催効果である。
つまりこれは精神修行なのだ。