2021年の春に森田健作知事が任期満了になる。森田知事は後のことを明言していないらしく後継をめぐり県知事選挙が動き始めたようだ。主な候補者として鈴木大地前スポーツ庁長官と熊谷現千葉市長の名前が上がっている。森田知事は2019年9月の台風対策の際に公用車に乗って芝山町の自宅の様子を見に行ったことが問題視されている。県はこの動きを把握していなかったそうである。だが、森田さんは新型コロナの対応で「どうしていいか」わからなくなってしまったのかもしれない。その意味では体調不良を前面に打ち出した「安倍型」の辞任劇と言えなくもないだろう。
2019年9月の台風被害は大きかった。千葉市でも一週間程度電気が復旧しないところがあり、今でも所々に青いビニールに覆われた家がある。取り壊すお金のない空き家も増えているのである。
財政的に厳しい南部はもっと復旧が遅れているのではないかと思われる。豪雨のたびに「まだ復旧ができていない家がある」ことが報道される。
知事のリーダーシップが問われるところだが、台風でも新型コロナでも森田健作知事が前面に出ることはなかった。黒岩神奈川県知事や大野埼玉県知事がテレビ出演をして新型コロナの対応について説明をしていたが森田千葉県知事の姿はなかった。Twitterでは千葉市の熊谷市長の提言が目立っていた。
もしかするとこのことから千葉県職員の中には実務型の熊谷市長への期待があるのかもしれない。だが、千葉県民が森田県知事に怒っているという様子はない。新型コロナも神奈川や埼玉ほどのことにはならなかった。東京との一体性に乏しいことも原因の一つだろう。あまり県政にも関心がなく「別に今のままでいいのではないか?」という気分が強い土地柄なのである。
千葉県にはこれといった経済課題がない。東京が近くそれなりに経済が回ってしまうからである。また千葉県の南部・東部と東京に近いところでは意識にかなりの差がある。銚子のように財政が厳しいところもあれば、それなりにやって行けるところもある。東京ディズニーランドを擁する浦安市は東京23区を除けば財政的にもっとも潤っている自治体なのだそうである。
現職が出ればおそらく勝てるのだろうが森田健作知事にも意欲はなさそうである。とりあえず県知事としてお飾りになっていればよかったという時代ではなくなり知事に問題解決能力が求められるようになったということを自覚しているのかもしれない。その意味では近隣知事によって淘汰されようとしているということになる。安倍総理がそうだったように毎日のように意思決定をしなければならないような状況には耐えれなかったのだろう。新型コロナというストレスが旧式の政治家たちを一掃している。安倍総理の場合「病気が本当なのか」と訝る声もあったが能力不足を悟った人をいつまでも追い詰めてはいけないように思える。
実務型の政治家への期待が高まる中、やはり自民党の感覚はずれている。後継として鈴木大地前スポーツ庁長官の名前を挙げているそうだ。習志野市出身の金メダリストである。爽やかなスポーツマンであり行政経験もあるということで「県知事にぴったりだ」とみなされているのかもしれない。
千葉県は現状維持欲求の強い土地柄である。国政でも民主党旋風の真っ只中だったので民主党出身市議という前歴は役に立ったに違いないが、鶴岡前市長が汚職で逮捕されたという特殊事情がなければ市長選には出なかったのではないだろうか。
国政では安倍総理が「他に人がいないから」という理由で信任されて来た。だがいざ辞めてみると辞任を賞賛する声が支持率を押し上げ人柄で菅総理に人気が出ている。国民感情などいい加減なものだ。千葉市でも前の市長が逮捕されて新しい市長になってはじめて「市長が変わって風通しが良くなった」と感じた人が増えたのではないかと思う。日本人は変化に対してとにかく腰が重い。
熊谷県知事が誕生すれば、新型コロナ対応も良くなるだろうしおそらく銚子のように財政が破綻しかけている地域にとっては良い選択だと思う。財政再建の手腕はしっかりしていてITなどの政策にもそれなりに詳しそうである。また人柄も穏やかで対立姿勢を作って国と喧嘩するような人ではない。だがおそらく千葉市以外ではあまり知名度がないのではないかと思われる。前回の県知事選挙では松崎秀樹前浦安市長が出馬したが現職には勝てなかった。熊谷市長も同じような感じになってしまうのかもしれない。
千葉県は村落意識が極めて強い。たまたま東京に近いだけで気質的には地方である。地理的条件に恵まれていてそれなりに村が成り立ってしまうので「あまりよそ者にあれこれ口を出して欲しくない」という地域が多いのだ。おそらくこれは銚子だけではなく、木更津・君津・富津も同じだろう。だから森田健作知事のような「何もしない清廉な人」が好まれるのである。
東葛・船橋などの地域はおそらく知事選にも千葉県にも興味はないだろう。年代ごとの投票率に顕著な違いがあるそうだ。高齢化が進んでいる土地ほど投票率が高い。こうなると「有名で爽やかそうな人」が自動的に選ばれてしまうことになるのかもしれない。
このため、千葉県知事選挙は課題も選択肢もあるが争点がないというとても奇妙な選挙戦になるのかもしれない。探せば課題はいくつもあるのだろうが破綻が目前ということにでもならなければ誰もそれに取り組みたくない一風変わった土地柄なのである。