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ヘイトスピーチで最初に犠牲になるのは子供達 – ケノーシャの事件をめぐって

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ウィスコンシン州のケノーシャで黒人の男性が7発の銃弾を打ち込まれて半身不随に追い込まれた。ハフィントンポストに詳細の記事が出ている。日本では大坂なおみ選手がテニス大会をボイコットしようとしたことで黒人側に同情的な報道が多かったように思う。一方でネトウヨの間ではあれは黒人の暴動であって白人の側に理があるのだというような「判決」が聞かれた。だが調べて行くとそんなに単純な問題ではないことがわかる。

おそらくこの問題で重要なのは「なぜヘイトスピーチが悪か」ということを我々がしっかり自覚することである。表現の自由を盾にヘイトスピーチを己の欲望のために利用するものは子供達の未来を犠牲にしている。自分の欲望のために国の未来を売っているのである。

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日本ではあまり話題にならなかったのだが、この事件で最初に犠牲になったブレイクさんには逮捕状が出ていた。CNNの報道によるとどうやら捜査して刑務所に送るまでのプロセスがうまく言っていないようだ。なぜ犯罪者が野放しになっていたのかということも逮捕状が撤回された理由もよくわからない。

ただ、この事件はここでは終わらなかった。白人の17歳の少年(ウィスコンシン州では成人として裁かれるが18歳になるまでは銃の携帯は違法だそうだ)が黒人2名を射ち殺し1名に怪我を負わせた。つまり第二の犠牲者が出たことになる。

この第二の射殺についてアメリカのメディアの見方は二つに分かれているそうだ。一つは黒人を無差別に襲ったテロリストとしての姿が誇張されており、もう一つは警察官を救おうとして自発的な衛生兵として現場に向かったという姿が強調されている。アメリカのメディアはコマーシャリズムに走った結果大きく分断されている。

黒人暴徒が警察官を襲っているという主張をする人たちがいる。アメリカの治安が無法者に脅かされようとしているというのである。これを守っているのが警官であり警官を応援するためには武装して戦いに参加しなければならないという世界観がある。それを煽っているのがトランプ大統領だ。

17歳の青年にとってはおそらくこれがネイティブの世界観なのだろう。4年前にトランプ大統領が登場した時彼はまだ13歳だったのだ。ウィスコンシン州では銃の所持にライセンスは必要がないしシューティングゲームなども普通に巷に溢れている。現実と虚構がごっちゃになっていたとしても彼を責めることはできない。

この「善意の青年」がトランプ大統領の発出するメッセージを受け取らなければこのような場所に出かけて行って黒人を撃ち殺すようなことはなかっただろう。彼は自分は看護係なのだと主張していたそうだ。その意味では彼もまた犠牲者ということになる。

ここまでくると「犯罪歴があったり問題のある黒人は撃ち殺されても当然」という判決を出したくなる人も多いのではないかと思われる。実際に日本ではそう思っている人もいるようだ。

よく考えてみるとわかるのだが、裁判なしで下半身不随もなるような暴行を与えるというのは破綻した民主主義国家の姿である。

CNNの報道を見ると、ブレイクさんに対する訴追状は5月3日に起こったとされる事件に関するもので7月6日に出されていたという。おそらく捜査がなんらかの理由で行われてこなかったのだろう。だが再び問題が起きたために警察官が現地に送られた。捜査が間に合わないという理由で放置した上に射ち殺そうとした。裁判なき処罰である。

オレゴン州ポートランドではついに大統領選挙と黒人の抗議運動がリンクしてしまい死者まで出てしまった。民主主義も司法制度も壊れつつあるのがアメリカである。もちろん全米でこのようなことが起きているなどとは思わない。おそらくは予算の関係などで警察や司法がうまく機能していない地域があるのだろう。もしかしたら新型コロナによる混乱なども原因なのかもしれない。裁判もなく収容もせず問題を起こした人を警察が勝手に処罰するという悪夢のような地域がアメリカには生まれている。

トランプ大統領はおそらく自分の政治的利益のためにこうした社会不安を利用しているだけだ。またトランプ大統領を応援するような人たちもわかっていてこれを利用している。一方で犠牲者もいる。おそらく17歳でにっこりと笑って銃を構えるこのリッテンバウムさんも犠牲者と言える。彼はそれが正義だと思い込んでいる。

さらに子供達もまたトラウマにさらされることになる。A psychiatrist explains how Jacob Blake’s 3 sons seeing police shoot their father could affect them for years to comeという記事を見つけた。ブレイクさんの三人の子供は警察が父親を撃つところを目の前で見たそうだ。

そもそも銃撃戦を目の前で見たということもショックだろうが、この子供達は半身不随になった父親とその後も関わることになる。権力者によってどう処断されても仕方がない「私たち」というアイデンティティの揺れを一生感じることになるのだ。彼らが「国によって当然保護してもらえるであろう自分たち」という通常の市民感覚を持ち続けられるかどうかはわからない。こうして社会分断は再生産されて行き次の社会に影響を与える。

繰り返しになるがヘイトスピーチを己の欲望のために使う人たちは次の世代に重大な影響を与えている。社会に分断の種を蒔き子供達にそれを刈り取らせるのだ。

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