安倍総理の体調不安説が本格的に語られるようになってきた。このような書き方をするとおそらく野党批判の文脈で攻撃されることになるのだろうが、冷静に観察してみるとこの健康不安説を振り回しているのは実は安倍総理に近い人たちであることがわかる。将軍に言葉を取り次ぐ人が権勢を得るという御用人政治が令和の日本で復活しようとしている。
中でもひどいなと思ったのがこの「「首相臨時代理」に慎重 求心力の急落懸念―政府・与党」という記事である。これを盛んに外に発信している甘利さんは臨時代理筆頭の麻生副総理に近いので実はステークスホルダーである。「お叱りはあるが総理のためを思って」というところに残酷さがある。みな甘利さんの意図がわかっているからである。
記事そのものも残酷だ。最後を「党関係者は「臨時代理は置かず、病室から必要な指示を出せばいい」と主張している。」という言葉で締めている。つまり「どうかわからない」という体裁をとりつつも「入院が取りざたされるほど体調が悪い」と言っているわけである。
安倍総理が混乱の原因になっているのは誰の目にも明らかだった。だが権力構造は安定させておきたい。今回の件で多くの人が総理さえ遮蔽してしまえば問題は収まるのではないかということに気がついてしまった。
よく日本の権力は中核に中空構造があると語られることがある。意味論や心理学などで物語のように語られることが多いのだが、実際には熾烈な権力争いに耐えかねた人たちが意図的に中空構造を作っていることがわかる。
その意味では中国と日本は真逆だ。中国は中心を強くして周辺に緩衝地帯を置く。ところが周りを海に囲まれている日本では真逆だ。中央に緩衝地帯を作るのだ。おそらく周りを海に囲まれており外から敵は入ってこないが逃げ場もないからだろう。
総理大臣が実質不在の中でもこれといった不都合は起きていない。政府が何も決めていないからである。専門家は今は第二波の真っ只中でピークを越えつつあると主張し始めた。ところが政府関係者は「第二波には定義がないから今が第二波なのかはわからない」と言っている。つまり公式に何も決めないと宣言してしまっているのである。意思決定者を遮蔽してしまえば誰も何も判断しなくて済む。新型コロナという問題をなかったことにできるのだ。請求書は全て安倍総理に向かう。支持率は徐々に落ちてゆき歴史的な評価も下がるだろう。
安倍政権は長い間統計数字を曲げてきた。中でも顕著なのが戦後最長の景気回復気が続いていると押し通して消費税増税を正当化した局面である。その前に増やした支出が釣り餌の役割を果たしていて今更増税をやめるとは言えなかったのだろう。
我々はこれを安倍総理のせいだと思っていたのだが、何も決めさせたくない人がいたのかもしれない。統計を操作して「大丈夫ですよ」と言ってごまかしてきた人たちがおそらく大勢いるのだ。
ところがウイルスはこの壁を突き破ってしまった。実際に死者が出て統計数字として報道されるからである。政権発足以来「足元で何が起きているのかさっぱりわからないのだがとにかく決断しなければならない」という状態にさらされてきたということにおそらく気がついたのであろう。
この何もわからない状態の中で経済を一気に止めてしまい4-6期のGDPは年率換算27.8%を沈めてしまった。これが正しかったのかあるいはそうでなかったのかということはおそらく総理にはわからないだろう。ただおそらく総理は「正確な情報は自分のところには上がってこないし、自分が何か意思決定をすると細かな調整は効かない」ということだけわかったはずだ。その車は欠陥品だっったのだ。
総理大臣というのはそれほど恐ろしい仕事だったということにようやく気が付いた時には既に遅かった。安倍総理は長年信頼してきた麻生副総理兼財務大臣に「どうすればいいのか」を相談した。それはおそらく間違った相談相手であるが本人は気がついていないのかもしれない。
麻生副総理はは小泉後継の総裁選挙で安倍総理に負けている。プライドが高い麻生さんが安倍さんを許すとは思えないのだが安倍総理は外務大臣に就任させている。おそらく参議院選挙で大敗した時にも頼りにしていたはずで幹事長に就任した。この二人の間でどんなやり取りが行われているのかはわからないのだが、おそらく今回のこの健康不安は麻生さんにとっては好機である。意欲を失った安倍総理を裏から操作できるからである。
次の注目はおそらく秋の人事だろう。二階・菅ラインは安倍政権からは外れるのではないかと思う。実質的な麻生政権の復活である。だが過去の麻生さんはなんども「包囲網」にさらされている。安倍政権の幹事長時代に一度(ほんの短い間だが結果的に福田さんに総裁の座を奪われた)と総理大臣になって一度である。麻生さんはおそらく自己評価はものすごく高いのだが人望はあまりない。ご本人はそれに気がついていないのではないだろうか。
つくづく政治というのは残酷だなあと思う。
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