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なぜアメリカで「黒人暴動」が起こったのか?

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この土日アメリカでは各地で暴動が起きている。だが日本ではほとんどこのニュースが深堀されていない。アメリカの民主主義が崩壊しかけているように見えるため正面から扱うのが不安なのかもしれないと思った。改めてこの暴動の背景を調べてみたい。

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きっかけになったのは、ミネソタ州ミネアポリス市で黒人男性ジョージ・フロイドさんが殺されたことだった。フロイドさんは警察官に首を押さえつけられてそれがきっかけとなって亡くなったと考えられている。実際に行為に及んだ警察官はのちに殺人容疑で逮捕・起訴された。そのあとミネアポリス市長が警察を非難する声明を出した。抗議運動が起きたが暴動に発展し瞬く間に全土に拡大した。ロスアンジェルス市でも暴動が起きて夜間外出禁止令が出された。CNN本社も襲撃された。ワシントンDCにも抗議活動が及びトランプ大統領は一時避難した。

タイトルをカギカッコ付きで「黒人暴動」とした。なぜならばこの暴動はおそらくは黒人暴動ではないからだ。黒人は公民権運動の経験から暴力を伴う暴動に支持が集まらないことを知っている。ミネソタ州知事は「州境を越えて白人至上主義者が集まってきている」という。

分断されたアメリカが露わになった。

ではこれがトランプ政権特有かというとそうでもない。実はオバマ政権下でも似たような事件はいくつか起きている。

2009年には黒人教授が逮捕された。オバマ大統領は白人警官と黒人教授をホワイトハウスに招き仲介を試みた。ロイターの記事にはこの事件の取り扱いをめぐり対応が非難されたと書かれている。だが、これもおそらくは「よくあること」の一つに過ぎない。

2014年8月にはミズーリ州ファーガソンでマイケル・ブラウンさんが射殺された。ミズーリ州大陪審は起訴を見送り「人種差別だ」と非難された。大陪審は白人が優位だったために黒人に同情が集まらなかったと指摘する人もいたが「不起訴処分は極めて稀である」という事実以外ははっきりしたことはわからなかった。マイケル・ブラウンさんは高校を卒業したばかりで大学進学を控えていたそうである。オバマ大統領は黒人が暴徒化しないようにとのメッセージを発信した。だが起訴が見送られたため結局暴動が起きたそうだ。ハフィントンポストが事件をまとめている。抗議活動では100名を超える逮捕者が出たようである。

2016年7月にはテキサス州ダラスでマイカ・ジョンソン容疑者が射殺された。この事件は黒人の相次ぐ射殺事件への抗議活動が発端だとされているようだ。だが警察への報復に発展し「ブラックライブズマター」という表現で抗議活動が展開された。マイカ・ジョンソン容疑者はアフガニスタン従軍経験がある。除隊したあと世の中に失望して引きこもっていた。純粋な抗議活動だったのか自殺的な試みだったのかははっきりしない。

オバマ大統領は自身が黒人であり(父親がアフリカ出身で母親は白人)黒人差別がアメリカの分断を助長しかねないことをよく知っていた。2014年には「ありきたりなことしか言わない」と非難されている記事が書かれている。2016年にも黒人が警察から不当な扱いを受けているのは確かとしながらも警察への配慮を見せている。

オバマ政権は黒人差別が暴動に発展しかねないということがわかっていてそれを未然に防ぐために様々な対応が取られていた。それでも抗議運動は収まらず一部警官殺しに発展したりしていたのである。

民主党支持のVOX(つまりトランプ大統領に反対する立場だ)は「オバマ政権下では司法省が警察を調査していた」というような話を紹介している。

ただこの記事を読んでも大枠がわからない。「上から法律を作って警察を改革する」というものではなく細かいケースを調べているだけだからである。アメリカの警察はおそらく州や市に紐付いていて一括して改革するのが難しいのだろう。必ずしも改革は十分とは言えなかったようだが、それでもnearly 2 dozens(24近く)の警察署が調べられたそうである。

この記事は2017年4月に書かれている。「トランプ政権がこうした警察への調査をストップさせた」というのが記事の主張である。警察内部には黒人に対する差別感情がある。それを調査して一つひとつ潰して行こうという計画だったのだろうがトランプ大統領がそれを中断した。これがおそらく今回の要因の一つになっている。アメリカは有色人種には暮らしにくい国になっているのだ。

しかし、これだけでは終わらなかった。

トランプ大統領はこうした分断を自分への支持につなげようとしている。ミネソタ州知事とミネアポリス市長を無政府主義者呼ばわりしている。民主党だから連邦のナショナルガードの派遣を拒んでいるという印象を与えた上でジョー・バイデン候補を攻撃するのに利用しているのだ。ANTIFAという反ファシズム運動をやり玉に挙げ中国を攻撃しているところからアメリカに古くからある社会主義アレルギーを利用しようとしていることがわかる。乱暴な主張なのだがわかりやすいので一部同調する人がいる。

おそらく警察改革を止めた際にも「オバマ大統領がアメリカを弱くしている」というメッセージを発信しているはずだ。この弱体化を止めてアメリカを取り戻すのがトランプ改革(Make America Great Again)なのだから、この一連の暴動は起こるべくして起こったものと考えられる。ある意味トランプ大統領の4年の集大成の一つと言えるだろう。

新型コロナ対応に失敗しアメリカの融和にも失敗したトランプ大統領が次に目指すのはWHOを舞台にした国際秩序の破壊だろう。ヨーロッパはなんとかWHO内部の改革を進めたい意向だがおそらくトランプ大統領はこれをやすやすと破壊するのではないかと思われる。

アメリカはまだ暴動のさなかではあるのだがそれなりに分厚い民主主義があり修復の動きも始まっている。一方日本の民主主義には根がなく脆弱だ。一部トランプ大統領のメッセージが日本にも飛び火していてなぜか左派議員への攻撃が展開されている。中期的に見れば日本の安全保障と国内政治の方が暴動から受ける影響は大きいかもしれない。難しい政治がわからない人にも「アメリカの一番偉い人が社会主義はいけないと言っている」というメッセージは伝わるからである。

アメリカの民主主義がトランプに破壊されることはおそらくないだろうが、日本の民主主義のようなものが生き残るかはわからない。おそらく残るのは民主主義の形をした共産主義憎悪だけなのかもしれない。

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