新型コロナ対策でアメリカが迷走している。トランプ大統領は選挙キャンペーンのつもりで新型コロナウイルスの記者会見を始めたのだが、真剣にブリーフィングをうけていなかったようだ。直前に聞いた「消毒液」の話を間に受けてしまい「消毒液を注射すれば体からウイルスが除去できるのではないか」と発言した。実際にそれを真似する人が出かねないとメディアから非難されることになり「記者会見は意味がないからやらない」と言いだした。トランプ大統領は実際に記者会見をやめてしまった。
経済活動の再開もしたいらしい。だが、背景には「この際に民主党を潰してしまいたい」という思惑もあるようだ。こうした場合トランプ大統領は仄めかしを行う。すると大勢の支持者が湧いてくる。
今回も「ウイルスはフェイクだ」というデモが先鋭化した。するとそれに追随したジョージア州が周囲が止めるのを聞かずに経済を再開すると言いだした。トランプ大統領は「彼の決断には激しく同意しかねる。しかし、やりたいようにやればいい」という姿勢に転じたようだ。トランプ大統領は選挙目当てで議論に火はつけるのだが責任は取らない。
トラプ政権は国が抱える重要な問題について責任を取って来なかった。衛生状態を守ることが国の安全につながるのだが、水道が止められている家が年間1500万件もあるという。彼らはそもそも家で手を洗うことができない。アメリカは世界一豊かな国と言われているのだが、その日暮らしをしている人たちが多く、仕事がなくなると生活に行き詰まる人たちが大勢いるということがわかる。失業申請は1600万件を超えたそうだが電話がつながらないという人が大勢いるそうだ。大統領によればそれは気のせいか誰か他人の責任である。
結果責任を取らず説明責任も果たさず衆愚が国を動かしているという意味ではアメリカは民主主義の最先端を行っているといえる。消毒液がウイルスを治療できると考えている程度の知識レベルの人たちがテレビで単純化されたメッセージを信じて国を動かすという国になっている。
日本はアメリカの10年後を行くといわれている。今は「こんな極端なことにはならないだろう」と思われていることが日本にも遅れてやってくることが多い。日本もいずれその日暮らし大国になるのかもしれないと思ってしまう。その意味では説明せず結果に責任を取らない安倍政権は日本の最先端にいる。
ただ、今のところ日本には衆愚政治の兆候はない。ATMの前では誰に言われたわけでもないのにマスクをしてソーシャルディスタンスを守って並んでいる人たちがいる。時々デマもでるのだがTwitterなどで細かく否定される。
ところが、実は日本がアメリカの先を行っているのではないかと思えるような記事も見た。
「「世界はこれまでと違って見えるだろう」著名投資家レイ・ダリオが予測する、新型コロナのパンデミックがもたらす3つの変化」という記事である。この記事では自前で医療用品を生産し貯蓄を増やす方向に進むのではないかというような観測が書かれている。確かにこの記事だけを読むともっともだなあと思える。だが、日本ではこうした自己防衛の動きと国政がリンクしなかった。金融機関が貸し剝がしに走り企業は自己防衛のために自己資金比率を増やした。その結果起きたのは「未来と人に投資しない」という国の姿である。
トランプ大統領は新規のグリーンカードの発行を停止している。60日ということだがもっと長引く可能性が高い。おそらく国は閉じて行く方向なのだろう。これも成長から自己の保全に走る方向線上にある。「ビル・ゲイツ氏、新型コロナウイルスのような感染症の流行は「約20年ごと」に起こるだろうと警告」という記事では、おそらく政府を期待して準備ができていれば数兆ドルを節約できていただろうと言っている。政府は国内の安全保障に投資をしてこなかったし、これからも投資をするかどうかはわからない。
金融機関もあてにならず自前で資金を用意するとなれば、これはバブル崩壊後の1990年代に日本が進んだのとおなじ「引きこもり」コースだ。1990年代の日本には「安心・安全」が低成長につながるだろうというような予測はなかった。そのうち状況がよくなって以前のような高度成長が回復するだろうという予測を持っていたからだ。こうした過去を振り返ると実は日本はアメリカの数歩先を行っていたのかもしれない。