Twitterであるビデオを見た。カリフォルニア州選出の民主党のケイティー・ポーター議員がCDC局長を問い詰めてテスト費用を無料でやると約束させたのである。これを見て日本の議院内閣制の問題を考えた。日本の今の制度では意思決定が遅く、また説明がちぐはぐになりやすい。これは知識と権限がバラバラだからだ。このため日本の政治には無駄が多く機会損出につながりやすい。しかし、これは憲法上の制約に起因している。
アメリカで迅速な意思決定がなされる現場を見た。このビデオはすでにTwitterでなんどもリツイートされているようだ。
アメリカ国内で蔓延しつつある新型コロナウイルス。健康保険を持たない国民が多いアメリカでは、高額な医療費を負担できずに病院へ行くことを躊躇う人々が多い。民主党下院議員ケイティ・ポーターは、アメリカ疾病管理予防センター局長への議会質疑応答で全国民へのウイルス検査無料化を勝ち取った。 pic.twitter.com/yN6D8yO34F
— Brut Japan (@brutjapan) March 19, 2020
アメリカは医療費が高くテストを受けて入院隔離ということになれば多額の費用がかかりかねない。そのため医者にかからず新型コロナウイルスを撒き散らしかねない人が大勢でかねなかった。そこでポーター議員はCDC局長を直接問い詰めて無料検査(と治療)を約束させた。このイニシアチブの結果法律も作られトランプ大統領も署名した。当初間違いはあったものの議会の介入によって迅速に是正されたのである。
このBrutというメディアのことを聞いたことがなかったので裏取りのために情報を調べてみた。GQが同じような調子で書いているので間違いはないだろう。アメリカにはトランプ寄りのメディアと反トランプ寄りのメディアがある。その意味では「偏りのある」報道の可能性はある。GQは働くシングルマザーとしてのポーター議員の紹介が書かれている。AFPによるとポーター下院議員は裕福な人が多いカリフォルニア州オレンジ郡の選出だそうだ。
GQの記事を読んでみると公聴会で吊るし上げが行われることはよくあるそうだ。吊るし上げを英語ではグリルするというらしい。時間が短いために成果が得られず劇場化することも多いそうだ。つまり、このケースを見て「アメリカの議会政治はうまくいっているなあ」ということにはならない。
ただ、ここから「専門知識」と「権限」のセットが揃っていれば素早い意思決定が可能だということだけはわかる。逆に権限と専門知識が乖離すると意思決定が遅くなる。そればかりか別の欠陥が出てくる。
日本の内閣に専門知識がないことは明白なので全ては任用責任と指示をめぐる問題になる。具体的には「全ては安倍の首」につながってゆく。ところが総理大臣は大統領のように強い権限を持っているわけではないしもちろん専門知識は持っていない。だから「安倍首相辞任」に向かう野党追求はある意味すべて徒労なのだ。
前回見た森友問題などはその典型である。元々の土地処分問題が誰の意思決定なのかはわかっていない。ところが国会の説明処理において人事権を掌握した安倍首相が独断である方向に走り出してしまったために矛盾が生じた。そしてその矛盾が近畿財務局の職員の肩に重くのしかかったという話である。さらにマネジメントスキルがない佐川さんがプレッシャーをかけたためについに一人が自殺してしまったわけである。日本の内閣制度は集団で動くことが前提になっているので「不規則プレイヤー」が出た瞬間に機能不全を起こすということがわかる。不規則プレイヤーが複数になると大混乱する。
この不規則プレイヤーが権限移譲を明確にしないままにアポイントメントを進めたのが今回の新型コロナウイルスをめぐる混乱である。その様子を分析しているメディアは少ないがなぜかポストセブンがレポートを出している。真偽は定かではないし週刊誌流に大げさに書いていることもあるのだろうが、大坪さんと感染研の問題も出てくる。今のところは内閣がむちゃくちゃでも、都道府県や省庁が勝手に判断してもなんとかなっている。だが、混乱が長く続けば責任の押し付け合いが始まることになるだろう。それを国会で追求しようにもおそらくは説明は混乱するはずだ。知識がない上に隠蔽工作が始まるからである。
ただ何が起きても国会議員は内閣総理大臣を始め各大臣に問いかけるしかない。憲法に次のような決まりがあるためだ。
内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。
日本国憲法第66条
おそらく「全ては安倍のせい」には安倍首相の個人的な資質の問題もあるのだろうが、この憲法上の決まりの問題もあるんだろうなと思った。これを運用でカバーすることはできるのだろうが、安倍政権が続き今のような混乱が長く続けばあるいは日本も権限移譲ができるように統治機構を変えるべきだと考える人も出てくるかもしれない。
おそらく「まともな旧来型の」総理大臣が後継になればこうした混乱は収まるだろう。調整型で意思決定をしなければ今まで通りのやり方でもなんとかやって行けるからである。岸田文雄総理ということになれば「思い切ったことはできないが対して混乱もしない」国会が戻ってくるかもしれない、だが、安倍総理時代が長津続いたり、次の総理が「リーダーシップ誇示型」であれば同じような混乱が続くことになるのだろう。