ざっくり解説 時々深掘り

山尾志桜里議員の離党と政党の存在意義

Xで投稿をシェア

カテゴリー:

山尾志桜里議員が立憲民主党を離党した。これを見て「政党ってそもそもなんなのだろうか」と考え込んでしまった。もともと山尾さんは選挙で政党からあまり支援を受けていなかった。だが国会議員になると政党に入らないと活動ができなかった。だから政党に入ったり出たりしてきたのだが、この事情が変わってきている。会派がまとまらないことがわかっているのでもはや政党にいる意味がないのである。今回は山尾さんの行動から日本の政党のあり方について考える。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






もともと検事だった山尾さんは民主党の公募で2009年に愛知県から出馬した。Wikipediaには民主党ブームの小沢ガールだったと書かれている。だが、民主党が清家虹に失敗したあと2012年に落選した。

ただ、山尾さんはこの時にしっかりと地盤固めをしたのだろう。次第に組織票に依存しない政治家に育ってゆく。2014年は中部電力と政策協定を結ばずに5,000票差で国政復帰した。2017年には不倫騒動があり前原代表の元で幹事長への就任が有力視されていたものの離党を余儀なくされた。このため2017年の選挙では連合は山尾さんを支持しなかったが834票差で議席を維持しそのあとで立憲民主党に入った。

つまり、山尾さんは「連合などの支援を受けなくてもギリギリ勝てる」ことがわかっている候補なのである。つまり、選挙で立憲民主党に頼らなくても済んでしまうのだ。

このニュースを調べるまで「愛知県はトヨタも強いし連合が影響力を持っている土地柄なのだろう」と漠然と考えていた。だが、Wikipediaの経歴を見ると、それほど労働組合の強い支持は受けていないようだ。

おそらく労働組合側の事情もある。全日本自動車産業労働組合総連合会は国民民主党を支援しているそうだが有力で見栄えのいい候補が立てられていないのだろう。あるいは労働者が多く自民党を支える支持層が比較的少ないということなのかもしれない。山尾さんが無党派層と呼ばれている女性をしっかりと抱えているんだろうなとは類推されるものの、実際にどのような人たちに支援されているのかということを研究した人はいないようである。いわば「無党派」が政治を動かしている稀有な現場になっている。

IWJは2017年の選挙について東海地方では「蓋を開けてみると立憲民主党の支持者が多かった」と伝えている。週刊文春への風当たりが強かったようだからコアのファンがいることになる。ただ純粋に労働組合系が強いわけではなく愛知県の2017年の当選者を見ても希望の党(当時)と自民党で入り混じった結果になっているようだ。

山尾さんの例は無党派層を組織すれば「勝てる選挙」ができる可能性を示唆している。そしてそれはドイツの例を見ると既存政党からの離脱が起きかけていることになる。ドイツ社会民主党は旧来型の工業地域では議席を持っているものの、都市では緑の党などの未来型(つまり環境とITのことだ)政党へと支持が集まりつつある。右派も与党とは別に急進的な政党AfD(ドイツのための選択肢)が躍進している地域がある。

ドイツで新しい政党が生まれ無党派層が組織化されるのは比例代表性がメインになっているからである。だが、日本は小選挙区制でありなおかつ政策コンペが行われない。だから無党派が政治に組み込まれて行かない。政策コンペがあればアメリカのように二大政党に取り込まれる可能性もある。

おそらく日本の選挙制度には欠陥がある。有権者のニーズと選挙制度が合致していないのである。

このミスマッチのせいで日本には新世代型のリベラル政党ができなかった。つまり新しいアイディアが政治に取り込まれない。都市を中心に「とにかく全て安倍政権が悪いのだから一切協力すべきでない」というようなルサンチマンだけが「新世代型」の政治家を支えている。

選挙制度と有権者ニーズのミスマッチは政治を破壊するということがわかる。

山尾志桜里さんは政権に不満を持つ支持者たちをつなぎとめるためには立憲民主党という政権と距離をおくしかないのだが議場で活躍するためには会派(政党連合)には残り続けるしかないというジレンマがある。政党同士が協定を結んで無所属議員を排除しているからだ。政党協定がなくなれば立憲民主党も国民民主党も瓦解するだろうが、今のままでは彼らに協力してくれる無党派の取り込みは行われない。事実、古臭い労働組合に支持されているだけの立憲民主党や国民民主党も彼女に代わる「パッとしたスター」は作れていない。

だが、そんな中民主党は偉大な発明をしてしまった。会派の活用である。こうなるともはや政党に意味はない。政策コンペをやりたくないので政策のすり合わせができない。であれば政党など持たなければいいというのが民主党の結論なのだろう。

自民党は自民党でまた別のジレンマを抱えているようだ。政党は単なる選挙互助会・役職互助会になっている。このため安倍首相は政治家でなく野心のある官僚を近くにおくことでキャビネット内キャビネットを作ったようである。これが危機に際して機能不全を起こし新型コロナ対策で場当たり的な政策しか出せなくなっていると分析する記事がある。

政治家が保身とライバル外しのためにだけ作った小選挙区制度と国会内協定は政治を破壊しつつある。選挙のたびに政党にくっついたり離れたりする山尾さんの挙動を見ているとそんなことが読み取れてしまうのだ。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで