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官邸主導・政治主導がもたらした「ほぼ無政府状態」

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新型コロナウイルス(COVID-19)騒ぎでついに死者が出た。武漢市からの感染が一次感染だったとすると渡航歴がないということは三次以上ということになる。つまり、間に症状が顕在化しなかった二次感染者がいるのだ。政府の言う水際対策というものが実は何の意味もなかったことがわかる。それどころか武漢縛り・湖北省縛りで「対策ができてますよ」という印象操作をしていたことが却って対策を遅れさせた。法的には罪には問われないだろうが道義的には大きな責任がある。専門家も指摘するように早めに「ある程度感染が広がっている」という前提で対策を取ったほうがいいのだが、おそらくこの最大障壁になっているのは安倍首相と彼が作り出した官邸主導という悪夢のスキームであろう。

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加藤厚生労働大臣が手際のいい答弁をしているのを見て「この人はかなり安倍首相に足を引っ張られてきたのだろうなあ」と思った。状況は動的に変化しているのだが官僚の紙などを見ないで適切に野党に答弁していた。さらに約束もできないので「全数検査はしなければならないとは思うがいつとは申し上げられない」とも言っていた。本来は散発的に入ってくる情報を処理できる実務処理能力の高い人なのだろうなと感じた。今後集団化するなかで加藤厚生労働大臣の「無能化」プロセスも追えるはずだ。日本は極めて効率的・組織的に才能のある人を無能化する。

こうした集団無能の頂点に立つ安倍首相の無能力ぶりがついに顕在化した。野党議員の乱雑な挑発に乗って国会をストップさせてしまったのである。だがこれもほぼ「即興的に」起きた。

辻元清美議員が首相に対して挑発的な「質問」をしていた。質問というより公開のなじりだった。緊急事態条項や解散権に関して総理から言質を取ろうとし「憲法改正は総理の色がつきすぎたからもう無理」だとまくしたてていた。この辻元さんという人も小泉総理を舌鋒鋭く追い詰めた過去の栄光から逃れられない人なのかもしれない。ある意味これも意欲のある政治家を単なる「嫌がらせマシーン」に変えてしまったという意味では無能化の例である。

ところがこれに対して総理が「意味のない質問だ」と発言した。そもそも、過去にも同じようなことを繰り返している首相を精神的に追い込んで失態を誘うのが目的なので「まんまとハマった」形である。辻元さんはこの発言を見逃さなかった。

ここできっかけを作ったのは皮肉なことに総理の防波堤を期待されていた棚橋予算委員長だった。彼がわかりやすく慌てて「議事録ができるまで不規則発言は確認できない」と意味不明なことを言ったのである。棚橋さんも頭は良さそうだがあまり修羅場を仕切るという胆力はなさそうである。この慌てぶりは「異常事態が起きましたよ、さあ攻撃してください」と言っているようなものだった。私はテレビで見ていて棚橋さんが慌てるまで「これが野次異常の何かである」とは気がつかなかった。これが野党に攻撃のチャンスを与える。耐えかねて首相が「意味がないと言った」と事実を認めてしまったことで状況が完成する。委員長も首相も泰然自若としていればよかったのである。わずか10分程度の間に起こった出来事だった。

これまでもおそらく内閣の人たちは首相の不安定な答弁のつじつま合わせをしてきたのだろう。「私は関与していない」とか「本当だったら辞めてやる」などと言ってしまったためになかったことにされた資料は多い。精神的な攻撃に脆弱で不規則な発言をしてしまうことが多かった。今回もきっかけは総理だった。そして彼らは入念に準備されていない不測の事態に極めて弱いのだ。

首相が謝罪にならない謝罪をすることは明らかだ。他の社が「謝罪」としている中、朝日新聞などはそれを織り込んでいて「意味のない質問」首相がヤジ釈明へ 野党は動議見送りというタイトルにしている。首相の対応はここまで読まれている。一旦慌てて後退したツケは大きい。

そんな中最悪のタイミングでCOVID-19で死者が出た。全数検査の体制が整わない中、PCR検査の結果が出たのは亡くなってからだったそうである。「検査体制が整っていれば抗HIVの薬などを試せたかもしれない」と報道され始めている。明日は我が身と考える高齢者は多いはずである。気が弱い高齢者は病院に行けなくなってしまうかもしれない。テレビでは和歌山の病院が外来や面会を停止したというようなニュースが繰り返し流れている。

野党は「これは謝ったうちに入らない」とあげた拳を下げられなくなるかもしれないが、「そんなことをやっている場合か」という国民からの反発を受けるかもしれない。ある意味最悪の時期に喧嘩を売ったと言えるだろう。

安倍首相に対して「統治の失敗」を問う声が出るかということなのだが、国民はあるいは最初から「実際に動いているのは厚生労働省であって永田町は最初から関係がない」と考えているかもしれない。首相が力強いリーダーシップとやらを発動しないほうが加藤厚生労働大臣を縛らないことになる可能性もある。

実際にテレビに自民党の政治家が出てくることはない。代わりに田崎史郎さんが対応しているのだが司会者や専門家が田崎さんに「教育」するようなシーンが多い。これまで田崎さんは官邸の言い分をメッセージボーイとしてテレビに伝えていたのだが、今回はこれが逆になってしまった。つまり官邸には情報が入っていないのである。田崎さんがこれを官邸に伝えるかはわからないが、おそらく世論は田崎さんが一番よく知っている。

厚生労働省や内閣がリーダーシップを示さない中、地方自治体は独自の対策に追い込まれている。情報がない中、千葉県の担当者は「わからない」を繰り返したそうだ。情報から取り残された国会はまだ自分たちが政治を仕切っていると思っている。だが、彼らは永田町の中に孤立していて自分たちだけの劇場で誰も期待していない演劇を繰り広げているだけなのだ。官邸主導の驚くべき帰結である。こんな恐ろしい光景は見たくなかった。

いずれにせよこうしたほぼ無政府状態の中、現場の日本人は頑張っている。現場の「踏みとどまる力」と日本人の非常時の統制力・団結力に無能な政治家たちは感謝しなければならないだろう。

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Comments

“官邸主導・政治主導がもたらした「ほぼ無政府状態」” への1件のコメント

  1. 初めまして、
    最近良く読ませていただいています。
    オリンピック強行のために感染者数を増やしたくない、そのために国が検査を忌避している、という興味深い意見を見つけました。
    https://mobile.twitter.com/gaitifuji/status/1228329081655087105
    事態の一面を良く説明している意見と思います。