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中谷元の憲法改正サボタージュと日本でポピュリズムが起こらないわけ

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久しぶりにフジテレビの朝のネトウヨ系番組を見ている。出演者は櫻井よしこ、中谷元、橋下徹である。この時間はフジテレビがネトウヨ系番組を流し、裏ではTBSがサヨクの昔のお兄さんたちを満足させる番組を流している。日本で政治に興味のある人たちというのはネトウヨとある年代のサヨクだけという日本の平和な状況を象徴する時間帯である。

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この中で橋下徹さんは「大阪市長の経験から学校休校などの一斉措置は難しい政治決断だが、政治家が訴えられるリスクを負ってもやるべきである」と主張していた。この方は行政経験があるので提案が具体的である。ところが中谷元さんは「日本は民主主義国なのでこうしたことは難しい」と言っていた。橋下徹さんとの違いはおそらく行政経験がないことである。国政の行政は官僚にお任せなのだ。そして「ぜひ憲法改正をやらなければ」と言っていた。中谷さんに言わせれば憲法を改正しなければ政府は何もできないそうだ。

二つ問題があると思う。一つは何が何でも憲法を改正したいという強い執着心ばかりが目立ち国民のことなど考えていないというあからさまな態度だ。おそらくは総理が憲法改正をプッシュしていて「憲法改正に賛成すれば覚えがめでたくなる」という政治的計算があるのだろう。そのためには「政治決断でやれることでもやらないでおこう」と考えていることになる。これは政治家のサボタージュであり、永田町の論理の押し付けである。

よくこのブログでも「XXをこのままにしておくとひどい目にあうかもしれない」というようなことを書いてきたが、最近こういう言い方をしないようにしている。なんとなく危険だと思うからである。中谷さんの言い方を見ていて何が危険なのかがわかった。中谷さんは「憲法のせいで政府は疫病対策ができない」「それがわからないならみんなひどい目にあえばいい」と暗に主張していることになる。これは国会議員の態度ではない。

そういえば東日本大震災クラスの地震で政府が何もできないのは緊急事態条項がないからだなどという話も聞く。よく思考停止という言い方をすることがあるが、こんなに見事な思考停止はない。自分の無力さを憲法のせいにしている。

橋下徹さんは実際に行政を運営しているので「法律でもできることはあるがリスクはある」ということを知っている。橋下徹さんが抱える悩みは共和国型のリーダーがよく抱える悩みだ。日本は君主がいるという安心感があり「議会は最終責任を負わなくていい」と何となく考えている。

ところが君主を消してしまった国はそうではない。全て自分たちで判断しなければならない。ロシアで20年もトップに君臨するプーチン大統領はありとあらゆる手を使って権力を維持しようとしている。これが共和国型のリーダーの孤独な姿である。地方行政の二元代表制を正しく運営すると橋下徹さんのような感想を持つことになるのだろう。

もう一つ感じたのは、自民党議員の民主主義に対するルサンチマンである。民主主義が良いことだと感じている私のような人間にとって、こうした国会議員はあまり好ましくない存在である。

これはいろいろなところで話を聞いていても感じることなのだが、都市を封鎖できるような強い権限を持っている国に対して憧れを抱く人は案外多いようだ。彼らはアメリカの後ろ盾がある中国のような専制独裁国家になれば自分たちは最強だぞと思っているのだろう。蔑視しながらも惹かれていくという矛盾した気持ちを抱えていることになる。同じ人たちが普段は中国を叩いているので、まさに「アンビバレンツ」である。彼らは結局中国と競争するために中国のような国になりたいのである。

日本はそもそも法律によらない社会的プレッシャーが支配する「大衆専制主義国」だ。例えばこの国の法律ではお母さんがベビーカーに子供を乗せてで歩くことは禁止されており、大衆専制に背いた人は何をされても文句は言えない。同じように不倫も重罪である。そんな国でも政治的には民主主義だからまだ成り立っているわけで、政治まで専制体制になってしまえば息をすることもできなくなるだろう。

これについて考えていて、共和国型の橋下徹さんは自らの知性と弁舌を駆使して地位を築き上げたのだなあと思った。そのため世間に対するコミュニケーションに苦労を感じてはいないようだ。民主主義は彼にとっては都合がいい。そしてこういうポジションはポピュリストとして大衆扇動の才能あるということでもある。

自民党は戦後すぐにできた名門家の跡取りが支配するある種の新興貴族社会だ。閉じられた世界に住んでいる彼らにポピュリストの才能はない。これが「憲法に自らの特権的地位を明記してみんなに尊敬してもらおう」という気持ちを生む。結局何らかの貴族制度が作りたいのだろう。当然こんな妄想は支持されない。さらに行政の実務経験もなくそもそも世間に訴えかける力を持たないのだから、彼らは社会を停滞させることはあってもポピュリストとして日本を破滅させることはない。

幸か不幸かポピュリスト候補生だった橋下徹さんはある一定以上の支持を受けられないので優秀なコミュニケーターで終わっているし、世襲議員の多い自民党がポピュリストになって実際に国家を破綻せることもない。

実にうまい具合にできているなあと感心した。日本はおそらく共和国型の民主主義国家ではない。低成長と停滞を自らの意志決定で選んでいる国なのだ。

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