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「戦争なき世界」という悪夢

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われわれ戦後世代は「戦争はいけない」と繰り返し教わってきた。だが、本当に戦争はいけないことなのか?と疑問を持つことが多い。

もともと戦争はヨーロッパで制度化された。そもそも主権国家という概念もなかったのだがこれでは内戦と変わりはない。日本は統一政権ができて内戦状態が終わったのだが、ヨーロッパは一つにまとまらなかった。代わりに主権国家体制近代の戦争法が整備された。これが発展して「世界基準」になった。第一次世界大戦前の世界は「果し合い」が残っている世界だったのだ。

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戦争は主権国家の権利として認められてきたが、ドイツが毒ガス兵器を使ったり、アメリカが核兵器の発明したりしたために「次に戦争が起きたらおそらくは破滅であろう」と考えられるようになった。主権国家体制を旧植民地にも認めたのが現在の国連体制である。国連体制は主権国家は認めつつ合法の戦争という概念をなくしてしまったのだ。そのため現在の国連体制には戦争関連の規定はない。代わりに人道というわかりにくい概念で戦争を規定している。この辺りの流れは日経新聞にまとめられている。大国同士の戦争はこれで防がれるようになったと日経新聞は書いている。

ところがそのあとも脱法的に戦争は続いた。その戦争は国際的な枠組みで「世論」を形成した上でどこかに攻め込むというものだった。国連は機能しないが「主要先進国」という代替的な枠組みを作り「有志連合」という形で戦争をやっていたのだ。これも国連の不完全な監視と民主主義国家の監視という枠がついていた。

戦争を単なるデタラメだと考える人がいるならそれは違っている。それは「管理されたデタラメ」である。

脱法行為の形には別のものもある。大国が小国内の混乱に乗じて政府の敵対勢力を支援するのだ。これも大国間の戦争ができなくなったことで代替品として発明されたものだ。いわゆる「テロ集団」は国際的に別の国の支援を受けていることも多い。収拾がつかなくなってはじめて国際的な枠組みが抑止に入るという形で混乱を与えている。日本が参加した南スーダンなどはその事例である。南スーダンは政府を構成する勢力が二つに割れていて、2019年11月の時点でもまだ統一政府ができていないそうだ。

しかし、今回トランプ大統領が仕掛けたのは、宣戦布告も国際的な根回しもないという攻撃である。そして誰かを間接的に支援するのではなく「直接攻撃した」という違いもある。アメリカはイランの現体制を国家承認していないのでテロリスト呼ばわりしてもいいのだが、国際的にはイランは国連加盟の主権国家である。そして攻撃を仕掛けたのはイラクという形式的には独立した主権国家である。結果的にアメリカもイランも攻撃対象になっておらず、イラクで散発的な破壊行為が続いているという。世界大戦には陥らず「カプセルに閉じ込めて」しまうのである。

おそらくこうした宣戦布告なき主権国家同士の散発的な軍事対立という事態を国連の法的枠組みでは裁けない。さらに国連もできていない時に作られた日本国憲法が想定しているとも思えない。特に現在の限定的集団的自衛という「永田町の小理屈」の前提を軽く超えているであろう。

世界は「管理されない戦争」という新しいフェイズに入ってしまったように思える。管理されてきたデタラメを廃止したら管理できないデタラメがまた生まれてしまったのだ。だが、宣戦布告なき散発的な戦争状態は、すでに混乱状態にある第三国を舞台にした散発的な攻撃だけなので、なんとなく「その外側は平和」に見える。

この事態が周囲に拡散する可能性がある。最近ヒンズー至上主義が加熱しているインドではパキスタンの将軍を殺しては?という論調があるそうだ。アメリカがやっていいなら別の国にはダメとは言えない。アメリカも証拠は示していないのだから、よその国にだけ示せとは言えない。中国やロシアはイランをバックアップすることに決めたようだが、これも一枚岩というわけではない。

世界大戦は世界が二つの陣営に別れて戦争をした。ひどい戦争だったが一応戦争にはルールがあり管理はされていた。ところが今回は散発的な小競り合いが起きていて定まったグループもない。もし本当に憲法議論がしたいならこの前提条件の変化を踏まえる必要がある。

これについていろいろ考察してみたのだが、現状はなし崩し的に悪くなっているので「これ」と言った決定的な出来事がない。Quoraで問題提起をするために文章を起こしてみたのだが、おそらく具体的なリアクションがつくことはないだろう。昨日までの世界と表面的には違わないからである。

世界は戦争をなくすことに決めた。でも人と人の争いまでをなくすことはできなかったのである。

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